2021年5月9日(日)
主張
老朽原発再稼働
安全置き去りの暴挙を許すな
関西電力の美浜原発3号機、高浜原発1号機、2号機の3基について、「将来にわたって原子力を持続的に活用していく」との梶山弘志経済産業相の言明を受けて、福井県の杉本達治知事が再稼働に同意しました(4月28日)。再稼働すれば、運転開始から40年を超える老朽原発では初めてです。
老朽化で危険性が増している原発を再稼働させることは、周辺住民をはじめ多くの国民の安全を置き去りにする暴挙です。
運転延長の常態化ねらう
2011年の東京電力福島第1原発事故後の法改定で、原発の運転期間は原則40年とされました。延長規定もありますが、国会答弁では、運転延長は「極めて例外的なケース」とされていました。
ところが菅義偉政権は、電力に占める原発の発電比率を30年度までに2割に引き上げるとし、そのために40年超運転を常態化しようとしています。美浜、高浜の両原発は、老朽原発再稼働の突破口と位置づけられ、経産省幹部が何度も福井県入りするなどテコ入れの動きを強めました。40年超運転の原発1カ所あたり最大25億円の交付金を新設するという露骨な予算誘導まで行いました。
関西電力の福井県の3基と日本原電の東海第2原発(茨城県)について、電力会社の申請の通り延長を認可してきた原子力規制委員会の責任も重大です。
九州電力は、福井県知事の同意表明と同じ日に、川内原発1号機、2号機(鹿児島県)の運転延長の準備を始めると発表しました。今後5年以内に、高浜3号機、4号機、東電柏崎刈羽原発1号機(新潟県)も、運転40年を迎えます。原則を形骸化し、危険を野放しにすることがあってはなりません。
古い原発は、耐震設計の基準地震動の引き上げによる耐震補強、ケーブル火災対策のための難燃剤塗布など、つぎはぎだらけです。老朽化に対応するために機器の交換は行われましたが、原子炉本体や原子炉建屋については取り換えられません。電源ケーブルなど全面交換が困難なものもあります。
深刻なのは、核反応によって生じる中性子によって原子炉壁の金属がもろくなる「脆化(ぜいか)」です。原子炉は、運転中は約300度という高温ですが、事故などで急冷することがあります。炉壁がもろくなっていると、熱したガラスに水をかけた時のように割れる恐れがあります。国内で最も脆化が進んでいるのが高浜1号機です。
美浜、高浜両原発の避難計画策定が求められる地域には、京都府や滋賀県の一部も含まれます。ひとたび過酷事故が起これば、原発周辺だけでなく、琵琶湖も西日本一帯も汚染されかねません。滋賀県の三日月大造知事は「再稼働を容認できる環境にない」とし、京都府の西脇隆俊知事も「遺憾」だと表明しています。
合理化できる根拠はない
菅政権は、気候変動対策のために原発を使い続けることが必要だと言います。しかし、原発が事故を起こせば深刻な環境汚染を招き、地域社会を破壊します。気候変動対策を口実に原発を合理化することは許されません。
気候変動対策で求められるのは、再生可能エネルギーの大規模普及と省エネルギーの促進です。老朽原発の再稼働は断念し、原発ゼロを決断すべきです。