2021年6月20日(日)
主張
元法相の実刑判決
解明に背向ける自民を許すな
2019年の参院選広島選挙区の大型買収事件で、東京地裁は河井克行元法相・元衆院議員に懲役3年の実刑判決を言い渡しました。地元の地方議員や首長ら100人に総額約2870万円を配ったことを、妻・案里元参院議員(すでに有罪確定)の当選のための買収だと認定しました。河井陣営には、自民党本部から1億5000万円の選挙資金が提供され、それが買収の原資にされた疑いが深まっています。しかし自民党は資金提供の経過や使途を明らかにしていません。解明に背を向ける同党の責任逃れは許されません。
巨額買収の原資は税金か
判決は「民主主義の根幹である選挙の公正を著しく害する極めて悪質な犯行」「選挙買収の中でも、際立って重い部類」などと断罪しました。法相経験者の実刑判決はかつてないことと言われます。
前代未聞の大型買収事件で問われるのは河井夫妻にとどまりません。究明が必要なのは党本部が提供した1億5000万円をめぐる疑惑です。広島選挙区に立候補して落選した自民党現職議員の10倍に上る破格の資金提供を、誰がどんな経過で決めたのか、依然として闇に包まれたままです。資金の8割にあたる1億2000万円は税金である政党助成金です。
裁判の中で河井夫妻側は、買収原資は「手持ち資金」などと主張しましたが、具体的な資料は示していません。一方、検察側は党本部からの資金が運動員買収の原資だったと供述した河井陣営の元会計担当者の調書を読み上げました。判決は買収資金の出所に触れませんが、疑惑は深まるばかりです。
自民党の二階俊博幹事長は5月24日、資金提供を決定した責任者は当時の「党総裁および幹事長だ」と述べました。しかし自身の責任をそれ以上語らず、党総裁だった安倍晋三前首相も説明から逃げ回っています。菅義偉首相は今月17日の記者会見で「検察に押収されている関係書類が返還され次第、党の公認会計士が内規に照らして監査を行い、しっかりチェックしてもらう」とひとごとです。
克行氏の実刑判決が出た後、二階幹事長は「信頼回復に努める」などとする書面による短いコメントを出しただけで、記者会見に応じませんでした。税金が買収資金に使われた可能性まで指摘される重大な疑惑に向き合わない自民党と政権の態度は無責任・無反省というほかありません。
案里氏を選挙に担ぎ出したのは、当時の安倍首相や菅官房長官ら官邸の中枢です。安倍氏や菅氏は応援演説に立つなどテコ入れしました。安倍氏の地元秘書は河井陣営の応援で広島に送られました。克行氏を法相に任命した安倍氏の責任も問われます。「安倍官邸」の関与の解明は不可欠です。
金権腐敗政治に終止符を
菅政権の発足以来、「政治とカネ」の問題で4人の自民党国会議員が辞職しました。河井夫妻のほか、鶏卵汚職で起訴された吉川貴盛元農林水産相、買収で略式起訴された菅原一秀前経済産業相です。誰一人として国民に説明をせず、菅首相も解明に動きません。
総務省や農水省などの官僚接待疑惑も決着していません。菅政権では金権腐敗政治を一掃することも、政官財の癒着を断ち切ることもできません。国民から信頼される新しい政治の実現が急務です。