2021年7月2日(金)
主張
官僚の給付金詐取
悪質極まる国民への背信行為
経済産業省の若手キャリア官僚2人がコロナ対策の家賃支援給付金を詐取した容疑で警視庁に逮捕され、国民の怒りを招いています。同給付金は、コロナ感染拡大の影響で売り上げが減少した中小企業を支えるために設けられました。この制度を所管する官庁の官僚が、給付金をだまし取る行為はまれにみる悪質さです。2人は省内で主要政策の立案を担う部局に配属されていました。なぜこのような不正がまかり通ったのか。動機や背景はもちろん、同省の体質も含め全容を徹底的に究明することが欠かせません。
業者支援の制度を悪用
2人の逮捕容疑は、昨年12月に虚偽の内容で家賃支援給付金を申請し、今年1月に約550万円を詐取したというものです。2人が2019年に設立した実態のないペーパー会社を給付金の受け皿にし、自宅を会社の事務所に装って書類を偽造するなどしていました。詐取した給付金は、海外ブランドの高級腕時計の代金の返済などにあてたとされます。
家賃支援給付金は、コロナ禍で売り上げが大幅に減って、家賃支払いに苦しむ飲食店などを支援するためにつくられた制度です。しかし、申請手続きは煩雑なうえ、実情に合わない支給要件や、支給までの時間が長くかかることなどが問題になりました。再度の支給を求める声も切実です。
給付金事業を担当する中小企業庁は経産省の外局です。2人の所属する同省経済産業政策局は直接の担当ではありませんが、事業の仕組みを詳しく知っていた可能性が指摘されています。コロナで苦境に立たされている業者に給付金を迅速に届けるために力を注ぐことが経産省に求められる本来の役割です。制度を熟知する立場を使い、私利私欲のために税金をだまし取っていたとなれば、国民への背信行為という他ありません。
警視庁は経産省を家宅捜索しました。2人は、捜査を免れるために勤務時間内に職場で証拠隠滅の相談をしていたと報じられています。副業に規制がある国家公務員の2人が在職中にペーパー会社を持つことができた経過も不透明です。経産省としての監督責任は免れません。2人だけの問題にとどめるのでなく、組織全体の体制なども徹底検証することが必要です。事実関係を明らかにするためには、国会で閉会中審査を行うべきです。
中央官庁の官僚の倫理感の欠如とモラル崩壊があらわになっているのは経産省だけではありません。総務省では、菅義偉首相の長男が勤務する放送関連会社「東北新社」やNTTからの接待がまん延していました。農林水産省では、元農水相の汚職事件にからむ鶏卵生産会社から接待された官僚が処分されています。しかし、菅政権はこれらの癒着や不祥事を徹底解明する姿勢がありません。
政権のモラル崩壊の下で
安倍晋三前政権では官房長官の菅氏が中央官庁人事を握る「強権支配」が大問題になりました。「森友」疑惑では、政権の意向に沿って公文書を改ざんし、国会で虚偽答弁を続けた官僚が国民の批判を浴びました。閣僚の「政治とカネ」疑惑も後を絶ちません。官僚で相次ぐ不正は、政権の「国政私物化」「モラル崩壊」と無縁ではありません。この問題でも政治のあり方が問われています。