2021年11月26日(金)
主張
駐留経費特別協定
「思いやり」増やす相手が違う
岸田文雄政権は、2022年度以降の米軍「思いやり予算」(米軍駐留経費の日本側負担)について、バイデン米政権の要求に応じ、年間2千億円台後半に増やす方向で調整に入ったと報じられています。増額分は、基地従業員の労務費など従来の負担ではなく、自衛隊と米軍の共同訓練の費用などにすることを検討しているとされます。「思いやり予算」の総額が過去最大となり、負担の対象も新たな分野に拡大する恐れがあります。
過去最大を上回る恐れ
日米両政府は現在、「思いやり予算」に関する新たな特別協定について協議をしています。特別協定はこれまでほぼ5年おきに見直され、昨年度が改定時期に当たっていました。しかし、当時のトランプ米政権が大幅増を迫って決着がつかず、バイデン政権下の今年2月、現行協定を暫定的に1年延長しました。今、日米間で交渉しているのは22~26年度の5年を期間とするものです。バイデン政権も増額を求めているとされます。
「思いやり予算」はもともと、米軍に治外法権的な特権を保障する日米地位協定にも反する負担です。地位協定は、在日米軍を維持する経費は原則としてすべて米側負担と定めています。
ところが、日本政府は、財政難の米軍に「思いやり」が必要などとし、1978年度から米軍基地で働く日本人従業員の労務費の一部(福利費など)、79年度からは基地内の新規の施設整備費の負担を開始しました。さらに、政府の地位協定の解釈上もこれ以上は無理だとしていた負担に踏み込むため、特別協定を結びます。特別協定の見直しのたびに日本側負担は広がり、今では▽基本給など労務費の全額▽米軍基地の光熱水料▽施設整備費▽米空母艦載機の硫黄島での着陸訓練費―となっています。
「思いやり予算」は99年度に2756億円とピークを迎えます。その後、減少したものの、近年は再び増加傾向にあり、21年度予算では2017億円に達しています。今回の日米交渉で2千億円台後半まで増やすことで合意すれば、現行水準を大幅に上回り、過去最高額を更新することもあり得ます。
しかも、日本側が負担する米軍関係費は、「思いやり予算」だけではありません。政府は、96年度から沖縄の米軍基地・訓練を移転・強化するためのSACO(沖縄に関する特別行動委員会)関係経費、06年度からは辺野古新基地建設費など米軍再編関係経費の負担を始めています。これら三つの経費の合計は21年度で4205億円と過去最大となっています。「思いやり予算」の大幅増はこれをさらに大きく押し上げることになります。
米軍訓練費肩代わりも
「思いやり予算」の新たな対象に日米共同訓練の費用が検討されていることも重大です。政府はこれまでも、「思いやり予算」やSACO、米軍再編関係経費の中で「地元負担軽減」のための「移転」を口実に米軍の訓練費を負担してきました。しかし、今回は、軍事緊張を激化させる中国への対抗を念頭に「日米同盟強化」を目的の前面に据えるとされます。
米国の同盟国の中でも極めて異常突出した「思いやり予算」を増やす道理はどこにもありません。そうした検討は直ちにやめ、コロナ禍で苦しむ国民の暮らしにこそ振り向けるべきです。