2021年12月6日(月)
主張
「黒い雨」被害
対象狭めず一日も早い救済を
広島への原爆投下直後に降った放射性物質を含む「黒い雨」被害の救済について、厚生労働省が被爆者健康手帳の交付の新たな審査基準をつくるための初会合を11月30日に開きました。今年7月、「黒い雨」に遭った住民に被爆者手帳を交付しなかった国の処分を違法とした広島高裁判決が、国の上告断念で確定したことを受けたものです。「黒い雨」を体験したのに被爆者手帳を受け取れない人は、裁判を起こした住民以外にも数多くいます。政府は、対象を限定してきた認定のやり方を根本から改め、幅広い救済を一日も早く実現しなければなりません。
新たな区別つくらぬよう
「黒い雨」訴訟では、被害を矮小(わいしょう)化して救済対象を狭める国の被爆者行政の転換を迫る司法判断が相次ぎました。広島地裁は昨年7月、国の指定した区域外でも「黒い雨」被害があったとし、原告84人全員が被爆者だったとして手帳交付を認めました。
今年7月の広島高裁判決は、一審を不服とした国の控訴を退けただけでなく、被爆者の該当基準について「原爆の放射能により健康被害が生じることを否定できない」ことを立証すれば足りる、と幅広い認定に道を開く判断を示しました。がんなど原爆の影響が考えられる疾病の発症がなくても被爆者と認めるというものです。
「黒い雨」に直接打たれなくても、空気中の放射性微粒子を吸ったり、同微粒子の混入した水を飲んだりした場合などの内部被ばくの健康被害の可能性にも広島高裁判決は触れています。
世論の広がりの中で、菅義偉前政権は上告を断念しました。その際、首相談話を閣議決定し「(原告と)同じような事情にあった方々については、訴訟への参加・不参加にかかわらず、認定し救済できるよう、早急に対応を検討します」(7月27日)と約束しました。
首相談話を受け、原告以外の人から早期の手帳交付を求める動きが相次ぎましたが、審査基準の見直しの具体化は進みませんでした。広島県と同市には1000件を超す申請が寄せられているといいます。住民の願いは切実です。談話発表から4カ月が経過して、ようやく認定基準の改定の会合が開かれたことは、政府の本気度を疑わせます。厚労省は、飲食物の摂取による内部被ばくの健康被害についての司法判断は容認できないとした首相談話の立場にこだわっています。新たな線引きで区別することがあってはなりません。
政府は、原爆被害の実態を踏まえて幅広い救済を求めた広島高裁判決の立場を堅持すべきです。
長崎の体験者も認定せよ
長崎でも、国の指定地域外だからと被爆者と認められない多くの人(被爆体験者)が手帳の交付を求めています。長崎市議会は9月、長崎の被爆体験者も高齢化が進み、病気に苦しみ続けており、被爆者としての認定・救済することを求める意見書を全会一致で可決しました。国は、長崎の体験者の救済に背を向けてはなりません。
「黒い雨」訴訟では原告のうち19人が亡くなりました。原爆投下から76年が過ぎ、被爆者の平均年齢は84歳に近づいています。時間は限られています。救済を引き延ばすことは許されません。岸田文雄政権は唯一の戦争被爆国の責任を果たすべきです。