日本共産党の田村智子副委員長が10日、参院本会議で行った岸田文雄首相に対する代表質問は次のとおりです。
私は、日本共産党を代表し、岸田総理大臣に質問いたします。
新型コロナ対策への提起
「第6波」やオミクロン株対応を想定した医療体制強化を
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まず、新型コロナ対策です。
感染「第6波」、インフルエンザとの同時流行、オミクロン株の市中感染、こうした事態を想定して、外来診療、入院医療ともに体制の強化が求められています。
ところが、新型コロナ入院病床の確保を強調しながら、高度急性期・急性期病床の20万削減計画をいまだに進めている、これはコロナ対策と相矛盾する、中止すべきではないか――衆議院でのわが党の質問に、総理の明確な答弁がありませんでした。あらためてお聞きします。
昨年、医療機関はコロナ補助金があっても、圧倒的に赤字経営となりました。「最悪の事態を想定した」体制強化には、医療機関全体への財政支援が不可欠です。
ところが、病床確保への補助金以外は、まともな国の補助金がありません。驚いたのは、発熱外来の補助金まで昨年度で終了し、診療報酬の加算も9月で終了してしまったことです。外来診療の体制確保を含め、「第6波」に備える財政支援をただちに行うべきではありませんか。
来年度に向けて、診療報酬引き下げが議論されていることも重大です。安倍政権のもとで7年間にわたって診療報酬が引き下げられ、医療機関の経営基盤は弱まり、緊急事態への体制確保に大きな困難をもたらしました。その反省にたち、医療の基盤強化の支援策を、今こそ進めるべきです。総理の答弁を求めます。
困っている人への給付金――抜本的見直しが必要
総理は、「通常に近い経済社会活動を取り戻す」まで、「断固たる決意で、新型コロナでお困りの方の生活を支え、事業の継続と雇用を守り抜きます」と宣言されました。
ならば、総選挙で総理自身が公約した「コロナでお困りの皆様への給付金支給」をやろうではありませんか。いま示されている給付金では、困っていても対象外となる人がたくさんいることを、総理はお認めになりますか。
また、住民税非課税など低所得世帯への給付金は、生活保護世帯にも支給されますか。その場合、収入認定から除外されるのでしょうか。
事務費だけで967億円という子育て世帯へのクーポン支給は、ごうごうたる非難の嵐です。抜本的な見直しをすべきではありませんか。以上、国民への給付金について明確な答弁を求めます。
暮らしと営業の危機――支援の抜本拡充と消費税5%減税を
中小企業への支援についてお聞きします。
菅政権は、財政審議会の議論に明らかなように、中小企業の新陳代謝・淘汰(とうた)の立場で、緊急事態宣言のさなかに持続化給付金の申請打ち切りまでしました。岸田総理はこの「淘汰」という立場を撤回されますか。
今年1月以降、最悪の感染拡大が続くもとで、菅政権は、野党の提案に聞く耳をもたず、持続化給付金・家賃支援給付金の再支給を拒否し続けました。協力金や月次支援金で支援したといいますが、コロナ関連の経営破綻は、9月以降、3カ月連続で過去最多を更新しており、支援が不十分だったことは明らかです。この反省にたって、事業復活支援金は、今年1月以降の売り上げ減を対象とするなど、抜本的な拡充が必要と考えますが、いかがですか。
いま多くの事業者が、これまでに受けた融資の返済、社会保険料や税金の延納分を含めた支払いに直面しています。コロナ融資の返済減免、社会保険料や税金の特別減免などを、ただちに講ずるべきではありませんか。
また、消費税5%への減税は、個人消費を喚起し、中小企業の納税負担を軽くします。さらには、複数税率が解消され、中小事業者やフリーランスにとって重い負担となるインボイス制度も必要なくなります。これこそ、コロナ危機のもとでの暮らしと事業継続への支援策ではありませんか。答弁を求めます。
「新しい資本主義」を問う
「新しい資本主義」についてお聞きします。
格差と貧困を拡大させた規制緩和路線を転換するのか
「規制緩和・構造改革などの新自由主義的政策は…富める者と富まざる者、持てる者と持たざる者の分断を生んできました」「格差が広がれば経済の好循環は実現せず、社会・政治も不安定化する」「小泉改革以降の新自由主義的な政策を転換する」――これらは、総裁選での岸田総理の言葉です。
総理、小泉改革以降の新自由主義的な政策とは、どういう政策でしょうか。
小泉政権の構造改革、とくに派遣労働の対象拡大など労働法制の規制緩和は、非正規雇用を増やし、フルタイムで働いても年収200万円に満たないワーキングプアを生み出し、格差と貧困を拡大し、経済の停滞をもたらしました。「新しい資本主義」とは、この規制緩和路線を転換するということですか。はっきりとお答えください。
賃上げ――大企業に内部留保活用を強く求めてこそ
「新しい資本主義」のもとでの分配、「賃上げ」政策についてお聞きします。
給与を引き上げた企業への法人税減税が柱となっていますが、この「賃上げ減税」は、すでに2013年度から実施され、減税額は2兆円を超えています。ではどれだけの賃上げになったのか。2012年と2020年の平均賃金を比較すると、年収で名目わずか4・5万円の賃上げ、実質賃金はマイナス22・4万円です。「賃上げ減税」は効果があったのでしょうか。
しかも、減税額の44・2%は大企業向けであり、トヨタ自動車1社だけで359億円もの減税と推計されます。そもそも巨額の内部留保を積み増している大企業に「賃上げ減税」が必要でしょうか。やるべきは、内部留保を活用して賃上げをと、大企業に強く要請することではありませんか。答弁を求めます。
1990年には世界でトップクラスだった日本の平均賃金は、その後、名目でもほとんど上がらず、実質賃金で下がっていった、欧米諸国はもとより韓国にも抜かれ、異常なまでに賃金が上がらない国が、日本です。
非正規雇用の割合が国際的比較で高い、大企業と中小企業の賃金格差が大きい、ケア労働など女性が多い専門職の低賃金など、構造的な問題への抜本的な対策が必要だと考えますが、総理の認識をうかがいます。
労働法制の改正と中小企業直接支援で最賃時給1500円へ
賃上げを政策的に進めるために、一つには労働法制の改正を求めます。
労働者を直接雇うことを原則とする、派遣労働や短期の雇用契約は一時的・臨時的業務に限定するなど、法規制によって、構造的に正規雇用の割合を増やしていくことが、今こそ必要ではありませんか。
二つに、最低賃金時給1500円という目標を明確にして、中小企業を直接支援し、短期間に思い切った引き上げ政策をもつことです。
最低賃金は、10年かけて全国の平均額でわずか193円しか上がっていません。今年4月、バイデン米大統領が、連邦政府と契約する業者の従業員の最低賃金を時給10・95ドルから15ドルに一気に引き上げる決断をしました。日本でも全国一律時給1500円へ、思い切った引き上げを行うべきではありませんか。
中小企業への直接の支援を行うことが最大の鍵です。わが党は、中小企業の社会保険料事業主負担の軽減を提案しています。本気の賃上げのために、真剣に検討いただきたい。総理の認識をうかがいます。
また、医療・介護・保育などケア労働の賃金は、国家資格にふさわしく、専門性と経験を評価した抜本的な引き上げを政府の責任で行うよう要求いたします。
気候危機打開――石炭火力発電の廃止こそ
気候危機打開への戦略についてお聞きします。
COP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)では、石炭火力の廃止が焦点となりました。イギリス、ドイツ、フランス、EU、ポーランド、韓国、ベトナム、インドネシアなど46の国と地域が、石炭火力の新設中止、二酸化炭素排出削減措置をとらない石炭火力の段階的廃止を明記した、石炭火力の「廃止宣言」に賛同しました。日本が賛同しなかったのはなぜか、まずお答えください。
総理は、火力発電のゼロエミッション化として、アンモニアや水素への燃料転換を強調しましたが、これこそが、COP26で、日本が「化石賞」を受賞した理由です。
アンモニアは、1トンの製造に対し1・6トンのCO2を排出すると、経産省の資料で示されています。そのため、石炭8割・アンモニア2割で火力発電を稼働した場合、CO2削減効果はわずか4%というのが、気候ネットワークの試算です。しかも、アンモニア製造は高コストです。
わざわざCO2を大量に排出し、高いコストをかけて、火力発電のためにアンモニアを製造する合理性はありません。結局、これは石炭火力発電の延命の策ではありませんか。政府のエネルギー戦略では、2030年どころか2050年以降も、石炭火力発電を稼働させるつもりなのでしょうか。総理の明確な答弁を求めます。
破局的な気候変動を防ぐには、一刻も早く石炭火力発電をやめなければなりません。2050年までに再生可能エネルギー100%を目標とし、2030年までに本気の再エネ普及を行うことを強く求めます。
女性への性暴力をなくす――科学的・包括的性教育を
11月25日は、女性に対する暴力撤廃の国際デー。日本でも「女性に対する暴力をなくす運動」がとりくまれました。
「あなたの望まない性的な行為は、性暴力です」「傷つけた方が悪い。性暴力に言い訳は通らない」――内閣府が作成したポスターです。言い訳の事例も、「2人きりで食事したよね」「お互いお酒飲んでたし…」「そんな服装してるしさあ…」など書かれており、内閣府がここまでの啓発活動をしたことを評価いたします。
「あなたの望まない性的な行為は、性暴力」――この啓発は、系統的に大規模に行うことが大切だと考えますが、いかがでしょうか。
勇気をもって性暴力被害を告発する、いくたの運動のもとで、いま、刑法の性犯罪規定の議論が法制審議会で行われています。同意要件の新設など被害の実態に見合った改正を求めるものです。
同時に、性暴力、性犯罪をなくすために、また、互いの性を尊重する人間関係を築くために、科学的で包括的な性教育が必要ではないでしょうか。
ユネスコは、各国の研究成果をふまえWHO(世界保健機関)などと協力して、性行為のリスクだけでなく、相互の尊重と平等に基づく愛情や人間関係というポジティブな側面を含む、包括的セクシュアリティ教育を推進するために、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を発表しています。この中で、性交、避妊に関する科学的情報など重要な話題を無視し、省略することは、スティグマ(偏見)や無知を引き起こし、助けを求める障壁をつくりだすと指摘しています。
日本では、性交も避妊も、学校で教えることがタブー視されたままです。文部科学省は、性暴力の被害者にも加害者にも傍観者にもならないためとして、「生命(いのち)の安全教育」を今年度から実施しています。被害者は悪くないこと、自分の体を大事にすること、被害への対応など、実践的で大切な内容だと思いますが、これは包括的な性教育とは異なります。
子どもたちは、公教育で、性や生殖についての科学的な知識や、性に関わる人権意識を形成する機会もないままに、インターネット等で氾濫する暴力的でゆがんだ性の情報に触れている、これが日本の現状ではないでしょうか。性暴力はもちろん、予期せぬ妊娠を防ぐうえでも、ユネスコのガイダンスにも学びながら、公教育における性教育の実践をしていくことが大切だと考えますが、総理の見解をお聞きします。
岸田首相の政治姿勢をただす
「黒い雨」被害者の救済――広島出身総理として高裁判決の立場で
7月、原爆投下直後の「黒い雨」被害者救済について、広島高裁判決は、原告全員に原爆手帳の交付を認め、特定の疾病の発症がなくても、放射能による健康被害が否定できなければ被爆者とする画期的な判断を示しました。政府は上告を断念し、菅総理(当時)は、「同じような事情にあった人」を早急に救済するという談話を出しました。
ところが、いま行われている、被爆者手帳交付の新たな審査指針の検討で、国は「特定の病気」になったことを考慮するとの基本的考え方を示し、広島からは判決からの後退を批判する声が起こっています。
広島出身の総理として、高裁判決の立場を堅持し幅広く救済すべきではありませんか。
学術会議任命拒否の撤回――官邸の違法介入認め直ちに
森友・加計学園、桜を見る会などの政治の私物化、河井元大臣による広島での選挙買収――いずれも真相解明にふたをし、辺野古新基地建設では、国が行政不服審査請求制度を乱用し、遺骨が眠る土砂まで使って埋め立てを強行しようという――「聞く耳持たない」強権政治と、わが党は断固として対決します。
日本学術会議の任命拒否問題についてお聞きします。学術会議の専権行為である「会員の推薦」に官房副長官が介入した、これがことの始まりだったと、内閣府の資料が示しています。憲法が保障する学問の自由への介入そのものです。日本学術会議は総会であらためて任命を求めています。官邸の違法な介入を認め、6人をただちに任命すべきではありませんか。
米軍F16タンク投棄――原因究明へ地位協定の抜本的見直しは急務
11月30日、米軍の戦闘機F16が、エンジントラブルで緊急事態に陥り、燃料タンク二つを投げ捨て、青森空港に緊急着陸しました。燃料タンクの一つは民家からわずか20メートルに落下、一歩間違えば大惨事となっていました。
防衛省は翌日、F16の飛行中止を米軍に要求、しかしその翌日、政府の要請を無視して事故原因の究明もなく飛行再開されました。総理は、米軍に抗議しましたか。いつまで米軍の勝手放題を放置するのですか。
F16はこれまでも事故を繰り返しています。1985年に50機が配備されて以降、燃料タンクの投棄20回、模擬爆弾投棄は12回、さらには13機が墜落事故を起こしています。住民は日常的に大惨事の危険性にさらされているのです。
国民の命と安全を守るために、F16の撤去を在日米軍に要請すべきではありませんか。
米軍機による事故は、部品や装備品、コンテナの落下、墜落・不時着等が多発しています。しかし日本は独自の事故調査を一切行うことができません。
全国知事会は、2018年に「日米地位協定抜本見直し」を求める「提言」を全会一致で採択し、航空法や環境法令を在日米軍に適用し「事件・事故時の自治体職員の迅速かつ円滑な立ち入りの保障など」を求めています。
総理、これは当然の要求です。国民の安全のために、地位協定の抜本的な見直しへ動くときではないのか。答弁を求めます。
大軍拡での対抗をやめ、憲法を生かした平和外交の努力を
自民党は防衛費GDP比2%を念頭に増額をめざすと、総選挙の公約に掲げ、補正予算案は過去最大の7700億円の軍事費を計上、今年度の軍事費は6兆円を超えます。さらに岸田総理は、敵基地攻撃能力保有の検討まで表明しました。2015年の安保法制強行以降、自衛隊の装備も訓練も、「戦争する国づくり」の道を急速に歩んでいます。
尖閣諸島や南沙諸島に対する中国の軍事的威嚇、北朝鮮の核開発やミサイル発射は絶対に許されない、これは政府・与野党ともに一致しています。
しかし軍事に軍事で対決し、先制攻撃にもつながる敵基地攻撃能力まで持とうとする、これは軍事的緊張と軍拡競争を強め、また増税と社会保障予算のさらなる削減を伴い、国民の命・暮らし・安全を脅かす道ではありませんか。
憲法を生かした平和外交への具体的で真剣な努力こそ求められていることを述べ、質問を終わります。