2021年12月19日(日)
主張
「私学ガバナンス」
自治も教育・研究も壊す愚挙
岸田文雄政権が私立学校の「ガバナンス(統治)改革」に乗り出そうとしています。その内容は幼稚園から大学までの私立学校の運営の仕組みを根本から変え、政財界の私学支配に道を開く、きわめて重大なものです。
学外者が大学・学校を支配
「改革」方向を示したのが、文部科学省が設置した「学校法人ガバナンス改革会議」の報告書(3日公表)です。
現在の私立学校は、学長(校長)も含む理事会が最高意思決定機関です。そのもとに諮問機関としての評議員会があり、評議員は教職員、卒業生、その他から理事会が選出します(私立学校法)。
報告書は、この仕組みを百八十度転換しようとする中身です。
最大の問題は、評議員会から学内者を除外した上で、最高意思決定機関に格上げすることです。新たな評議員会は、理事の選任・解任、事業計画の策定、予算の決裁、各私学の運営の基本ルール(寄付行為)の変更をはじめオールマイティーの権限を握ります。理事会は評議員会の決めたことを執行する下請け機関となります。
これは、学外者が無制限の権限を持って私学を統治する仕組みに他なりません。大学や学校の主人公は教職員であり、学生・生徒です。主要な構成員を排除し、学外者に支配させるとは言語道断です。
大学ではこの間、教授会の権限が剥奪され、学長に権限が集中してきました。それすら飛び越えて、政財界が評議員会に乗り込んで私学を直接支配しようというのが報告書の狙いです。私学の自由、教員人事を含む大学自治は深刻な危機に直面することになります。
幼稚園から高校までの私学でも、学外者が最高意思決定の権限を握れば、建学の精神に基づく学校運営も、職員会議などでの合意形成を踏まえた学校運営もできなくなる危険が生じます。
重大なのは、私学の自主性の破壊が教育・研究の破壊に直結することです。報告書はあけすけに「統廃合も含めて大胆、かつ機動的に実行」することを求めています。乱暴な統廃合は、日本の教育研究の多様性を奪い、社会全体への打撃となります。「改革会議」の審議では「稼ぐ力」の強化も議論されました。教育・研究の質の低下や学費値上げが目に見えています。
政府は「改革」の理由に、私立大学などの不祥事をあげます。しかし、一連の問題は、大学執行部に対する教職員や学生らによるチェック機能が弱体化させられ、専横が強まった結果です。そのときに、学内者を排除した評議員会に権限を集中させれば、専横に拍車をかけ、腐敗一掃に完全に逆行することになります。
いまこそ声を上げよう
報告書は当事者を事実上締め出して作成されました。日本私立大学団体連合会が「極めて重要な議論が拙速に進められたことは誠に遺憾」「教育現場関係者の声を反映させることなく進められてきたことに大きな懸念」と表明するなど、批判が広がっているのは当然です。私立学校法改正案の国会提出を来年予定している末松信介文科相は「報告書はあくまで参考」と言わざるを得なくなっています。
声を上げれば、乱暴で重大な企ては阻止できます。報告書に基づく私学の破壊を許さないたたかいを呼びかけます。