しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2022年1月30日(日)

主張

「黒い雨」認定制度

被害の全面救済を一刻も早く

 原爆投下直後の「黒い雨」による被害者の全面救済は待ったなしの課題です。広島高裁は昨年、「黒い雨」に遭った広島県内の住民84人を被爆者と認め、被害を矮小(わいしょう)化した国の認定制度を違法としました。国は上告を断念し、新たな認定の指針案を昨年末にまとめましたが、高裁が求めた幅広い認定より後退しています。広島と同じ事情にある長崎の「被爆体験者」らは対象から外しました。被爆者からは「新たな分断になる」と批判が上がります。厚生労働省は27日、長崎県・同市と協議を開始しました。早期救済を求める切実な声に背を向けてはなりません。

「長崎は対象外」に批判

 昨年7月の広島高裁判決は、国の指定した区域外での「黒い雨」被害を認めた上で、被爆者の該当基準について「原爆の放射能により健康被害が生じることを否定できない」ことを立証すれば足りる、としました。がんなど原爆の影響とみられる疾病の発症がなくても被爆者と認めるというものです。「黒い雨」に直接打たれていなくても健康被害があった可能性も明記しました。被害者に寄り添い、広く被害を救済することを国に迫った重要な判決です。

 菅義偉政権(当時)は上告断念の際、原告と同じような事情の人たちは訴訟参加の有無にかかわらず、救済できるよう検討するとした首相談話を閣議決定しました。

 しかし、昨年12月23日に厚労省が示した認定の指針案は、高裁判決の積極的意義を正面から受け止めていません。国の指定した区域外でも「黒い雨」に遭ったことが否定できない人を救済対象にすることは前進ですが、がんなど11疾病を要件にする姿勢は変えませんでした。疾病の発症のない人が切り捨てられるおそれがあります。救済に新たな線引きを持ち込む疾病要件は撤廃すべきです。

 対象を広島に限定したことは大問題です。長崎では、国指定の区域外だから被爆者と認められない多くの「被爆体験者」が救済を求めています。1999年に長崎県・市が実施した調査では、「黒い雨」だけでなく、放射性降下物を含む灰が大量に降っていることが明らかになっています。

 菅前首相が談話で述べた「(原告と)同じような事情にあった方々」が長崎に数多くいることは否定できません。厚労省の骨子案に長崎が含まれていないことに、県と市は「受け入れられない」と表明したのは当然です。田上富久・長崎市長は「広島と長崎で援護施策に格差が生じることのないよう強く訴えていく」(27日付本紙インタビュー)と語っています。

被爆者行政の根本転換を

 長崎での被害救済について開始された県・市との協議で、厚労省は「過去の裁判例との整合性などの課題を整理するための作業」などを提案したとされます。解決を長引かせることがあってはなりません。広島高裁判決を堅持することを明確にし、判決に沿った救済を図ることが急がれます。

 広島高裁判決は、国の責任で戦争被害を救済する趣旨の被爆者援護法を生かし、人道的立場から広く救済を求めたものです。原爆被害を狭く絞り込んできた被爆者行政は根本的な転換が迫られています。平均年齢84歳になる被爆者に残された時間はわずかです。被爆国政府の責任が問われます。


pageup