2022年2月15日(火)
異次元ファンド 危険な大学改革(1)
公金10兆円で挑む「錬金術」
岸田政権が成長戦略の柱と位置づける大学ファンドの運用開始が間近に迫っています。公的資金10兆円を金融市場で運用し毎年4千億円超の利益をあげ、世界レベルの大学を育成するといいます。政府自身が「異次元の政策」と呼ぶ構想に、金融界は株価上昇への期待感を、大学関係者はさらなる教育・研究基盤破壊への危機感を高めています。(佐久間亮)
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「波乱相場の救世主!『大学ファンド』が日本株を下支えする」「TOPIX押し上げ効果最大6%か」―。運用開始が近づくほど金融市場の視線が熱を帯びています。
運用を開始後、実際に大学への支援が始まるのは2024年度からです。政府は通常国会に、支援対象大学の認定にかかわる法案を提出する予定です。
株で運用
12年の政権復帰以降、同じく「異次元」を冠した金融緩和策をすすめ、公的年金積立金や日銀を使って株価をつり上げてきた自公政権。大学ファンドのうち65%、6兆5千億円は株での運用が決められており、日本の株式市場はいっそう官製相場の様相が強まります。
投資の原資は国民から集めた税金約1兆円と国の借金の一種である財政融資資金約9兆円です。財政融資資金を元本保証のない株に投じるのは、借金でギャンブルに興じる危うさに通じます。
物価上昇を加味した運用目標は4・38%以上。政府は、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の収益率がリーマン・ショック以降3・7%と好調だったことや、米英の有名大学の運用目標が軒並み5%台だということを根拠に、目標は決して高くないといいます。
高リスク
金融論が専門の鳥畑与一静岡大学教授は、資産を運用する信託会社に払う手数料を加えれば、毎年5~6%の運用収益を上げなければならなくなると指摘。必然的に高い危険を冒して高収益を狙う運用にならざるを得ないと語ります。
「この間のGPIFの高収益は世界的な金融緩和政策で株式市場に資金が流れ、株価が上昇したことを追い風にしたもの。いま世界は金融引き締めへかじを切っており、市場環境は大きく変わろうとしている」(鳥畑氏)
同様の声は市場関係者からもあがります。日本証券経済研究所の明田雅昭特任リサーチ・フェローは『証券レビュー』21年8月号で、政府が大学ファンドに「安全かつ効率的」という決して両立しない運用方針を求めていると批判。超低金利下で安全な国債運用では到底政府の運用目標は達成できず、「目標達成のためには元本割れリスクを覚悟した運用が避けられない」と指摘しています。
多額の損失が生じ財政融資資金が返済できなくなれば、最後は税金の形で国民が負担することになります。財政融資資金を審議する財務省の審議会で昨年7月、冨田俊基元中央大学教授は「錬金術を大学ファンドの名前で行うということだ」と批判しました。
(つづく、4回連載)