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2022年2月17日(木)

異次元ファンド 危険な大学改革(3)

研究壊す「毒まんじゅう」

 「科学技術・イノベーションの力で新しい資本主義を実現させる」―。大学ファンドの支援対象となる大学のあり方をまとめた1日の総合科学技術・イノベーション会議で、岸田文雄首相はそう宣言しました。

ごく一部

 10兆円の大学ファンドで世界トップレベルの大学を養成し、日本の研究力と経済を向上させる戦略です。運用益の一部は若手研究者育成のため博士課程の学生の支援にも回すといいます。

 支援の対象となる大学数は現時点で明らかでないものの、政府は昨年の財務省の審議会では6校程度と説明していました。支援対象は段階的に増やすため開始当初はさらに少なくなります。

 一方、支援対象とならない大学向けの「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」は、2022年度予算案でわずか462億円。中身も既存の大学関連予算の寄せ集めです。

 800超ある大学のごく一握りだけ支援して日本の研究力は底上げされるのか。1月の国立大学協会の総会では「日本の一番弱いところは地方大学などすそ野がやられたことだ。まずはそこを活性化しないとだめだ」(山梨大学の島田眞路学長)など、厳しい意見が相次ぎました。

 背景には、国立大学法人運営費交付金を1割以上削減し、一部の大学だけ手厚く支援してきた、この間の「選択と集中」路線への批判があります。

 国の科学政策などについて調査・発信している「科学・政策と社会研究室」の榎木英介代表は大学ファンドについて、支援と引き換えに教育と研究という大学にとって本来最も大切なものを犠牲にする「毒まんじゅう」だと指摘します。

 大学ファンドから支援を受ける大学には年3%程度の事業成長が課されるうえ、企業などから外部資金(競争的資金)を多く獲得した大学ほどファンドからの支援額も大きくなります。

悪循環に

 榎木氏は、国立大学などの交付金が減少し競争的資金を獲得しなければ研究が続けられなくなったことで、資金獲得のための書類作成に研究時間を奪われるようになり、不安定な任期付き教員を増やす要因にもなったと語ります。

 「競争的資金のプロジェクトは長くても5年間なので、任期付きでしか研究者を雇えない。腰を据えて研究できないので短期間で成果が出やすいテーマを選ぶことになり、結果として革新的な研究が生まれない悪循環に陥っている」

 国立大学の40歳未満の教員に「任期付き」が占める割合は2007年の38・7%から20年には67・1%へ激増しています。大学ファンドで博士課程の学生を支援したとしても、その後に安定的なポストがなければ問題はなにも解決されません。

 大学院生にも教員から研究成果が強く求められるなか、博士課程を途中で断念せざるを得なくなった経験を持つ榎木氏。その教員もまた激しい競争に追い詰められていたのではと振り返ります。

 「いまの大学は競争が激しすぎて学生をじっくり育てる余裕がない。時間をかけて育つタイプの人間は役に立たないと切り捨てられる。大学ファンドへの大学関係者の期待は大きかったが、実際の中身はこれまで通りの『選択と集中』だ」

 (つづく)

図

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