2022年2月18日(金)
異次元ファンド 危険な大学改革(4)
学長の上に大企業経営者
岸田政権の大学ファンド政策には、世界的に引用される回数がトップ1%に入る論文数を増やすなどといった、これまでの政府の科学政策に盛り込まれてきた研究力向上にかかわる具体的な目標が見当たりません。
肩代わり
「科学・政策と社会研究室」の榎木英介代表は「大学ファンドは科学政策というよりも、国際競争で苦境に立たされている日本企業が研究開発費を大学に肩代わりさせたいという思惑から動いているのではないか」と推測します。
日本企業の大学依存はすでに強まっています。日本企業が発表した論文数は1990年代後半をピークに減り続け、論文自体も大学などとの共著が7割近くに達しています。
そうした企業の思惑を後押しする仕組みも用意されています。大学ファンドの支援要件の一つ「自律と責任あるガバナンス体制」の構築です。ガバナンスは統治体制を意味します。大学自ら利益をあげる統治体制を構築すべきだというものです。なかでも政府が重視するのが国立大学の自治の見直しです。
国立大学は長年、教職員の投票結果にもとづいて学長を選ぶなど、教授会を中心とした大学自治を築いてきました。自公政権は、2004年の国立大学の法人化に合わせ、大企業の役員など学外者が半数を占める学長選考会議が学長を選ぶ仕組みへ変更。14年には教授会を学長の諮問機関へ格下げし、21年にも学長の権限と文科省支配を強化する法改定を行いました。
その結果、教職員の意向投票で大差で敗れた候補を選考会議が学長に指名する▽意向投票自体を廃止する▽カリキュラムもトップダウンで変更―など「学長独裁」と呼ばれる事態が各地で起きています。しかし、今回大学ファンドに組み込まれたガバナンス改革は、これまでの大学自治破壊と比べても次元を異にしています。
現在の国立大学では、学長と理事からなる役員会が意思決定機関と執行機関を兼ねています。理事数は大学ごとに法律で決められ、例えば東京大学は7~8人。学外者はそのうち2人いればいいことになっています。
一方、大学ファンドの支援を受けるには構成員の「相当程度」を学外者が占める「合議体」を大学の最高意思決定機関にしなければなりません。相当程度について政府は「例えば過半数、半数以上等」とし、メンバーには事業戦略や財務戦略に知見を持つ人物がふさわしいといいます。
自治破壊
合議体は、事業成長3%という支援要件の達成に向けた「経営戦略」をはじめ、大学の重要事項全般の決定権を掌握。さらに法人の長(学長)の選考と監督まで行います。政府は制度の細部を詰め、来年の国会に法案を提出する構えです。
実際の業務執行は学長らに委ねるので、教育や学問に合議体が介入することはない、という政府の説明は信用できるのか。
北海道大学の光本滋准教授(高等教育論)は、合議体が細かく口を出さなくても、合議体の下位に置かれる学長らが経営戦略に基づいて現場に介入してくることになるとし、大企業経営者などからなる学外者が大学を支配する道が開かれると警告します。
「大学の資金難につけ込んで、大学ファンドを大学自治破壊の強力なテコにしようとしている。事業成長に貢献しない学部の再編やカリキュラムの見直し、大学の収入を増やすための学費値上げがトップダウンで進められる危険がある。学問の自由が無くなれば、大学はもはや学術機関とは言えなくなる」(おわり)
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