2022年5月11日(水)
主張
ロシア大統領演説
歴史冒涜する侵略戦争正当化
ロシアのプーチン大統領が9日の対ドイツ戦勝記念式典で行った演説はウクライナへの侵略を正当化した許しがたいものでした。ロシア、ウクライナを含む旧ソ連は第2次世界大戦でナチス・ドイツの侵略によって最も多くの犠牲を出した国です。その侵略を打ち破った記念日に自ら引き起こした侵略戦争をたたえるなど、歴史に対する冒涜(ぼうとく)です。
平和の秩序を公然と否定
第2次世界大戦でのソ連の行動には、バルト3国の併合、東欧の「勢力圏」化、千島占領など覇権主義の重大な誤りがありましたが、ナチス・ドイツの侵略とのたたかいは歴史的意義を持ちました。各国が払った多大な犠牲の上に、国連憲章は二度と悲惨な戦争を起こさないことを誓いました。他国への侵略は禁止され、国際紛争を平和的手段で解決することが義務づけられました。
ところがプーチン大統領は演説でウクライナに対して「侵略に備えた先制的な対応」をとったと公言しました。北大西洋条約機構(NATO)諸国がウクライナを軍事支援し「侵攻が画策されていた」といいます。武力行使を正当化する根拠になりません。先制攻撃は国連憲章違反です。
国連憲章では実際に他国から武力攻撃を受けた際の自衛反撃と安全保障理事会が決定した場合以外の武力行使は固く禁じられています。各国が勝手に先制攻撃を行えば平和の秩序は成り立ちません。
ウクライナが核兵器の保有をめざしていたとも言いました。核兵器を使用する可能性を示して世界を威嚇しているのはプーチン大統領です。
総じて戦争の責任をウクライナやNATOに押し付けるために事態を逆に描いたのが今回の演説です。
プーチン大統領は演説の大半をウクライナとの戦争に割きながら、ウクライナの国名を一度も挙げず、「キエフ」と首都の名で呼びました。
同氏は以前からロシアとウクライナは一体であるとして同国の主権、独立を認めない主張を繰り返しています。国名を口にすることすら避けるところにこの姿勢があらわれています。
他国を勝手に自国と一体とみなして侵略することはナチス・ドイツが行った行為です。それが第2次世界大戦につながりました。
プーチン大統領は「世界規模の戦争の恐怖を繰り返さない」と言いました。自ら起こした戦争を何と思っているのか。そう考えるならウクライナからすべてのロシア軍を引き揚げるべきです。
国連憲章に基づく解決を
ロシアの侵略を終わらせるには国連憲章と国際法に基づいて解決を図るしかありません。国連総会は3月2日の緊急特別会合で加盟国の7割を超す141カ国の賛成でロシアのウクライナ侵略を非難し、撤退を求めました。
6日には国連安保理がこの問題で初めて議長声明を採択し、グテレス国連事務総長の努力を支持しました。同事務総長はプーチン大統領との会談でロシアの侵略を国連憲章違反と批判しています。議長声明に法的拘束力はありませんが重要な一歩です。
世界が「ロシアは侵略をやめよ」「国連憲章を守れ」の一点で団結することが緊急に必要です。