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2022年5月17日(火)

主張

知床の観光船沈没

国交省のおざなり対応は重大

 北海道・知床半島沖で26人が乗った観光船「KAZU I(カズワン)」が沈没した事故は、運航会社「知床遊覧船」(斜里町)のずさんな運航管理とともに、それを見抜けなかった国の姿勢も問われています。国土交通省が昨年同社に行った改善指導は守られていなかったのに、同社の言い分をうのみにして運航許可を与えていました。なぜ、おざなりのチェックで済ませたのか。国の対応の徹底検証が不可欠です。

会社の言い分をうのみ

 カズワンは昨年5月、浮遊物と衝突して負傷者を出し、同6月には浅瀬に座礁しました。国交省北海道運輸局は2件の事故について知床遊覧船に特別監査を実施し、同7月に行政指導しています。

 同省は13日、行政指導の内容や経過を示す当時の報告書などを公表しました。一連の資料からは国の検査が極めて甘く、安全置き去りの運航会社の姿勢を事実上放置してきた実態が浮かびます。

 北海道運輸局は、安全確保を最優先する意識の定着のため、「安全統括管理者(運航管理者)は、常に連絡を取れる状態を維持し、事故発生時等に際しては確実に報告を受け、必要な措置を講じられる体制」の確立などを求めました。

 同社は、営業所に運航管理者(社長)が不在でも「補助者」を配置し、海上の船長と連絡体制を構築するなどとする報告書を提出しました。しかし、今回の沈没事故では、事故時に桂田精一社長は不在で、書類上は補助者も空白になっていました。

 運輸局は昨年10月、改善状況の確認を無通告で行いました。その際、不在だった桂田社長が「安全があっての商売」「安全運航に努める」と電話で話したことなどを挙げて「以前より安全と法令遵守意識が向上したことを確認出来た」と結論づけました。これでは、検査の意味をなしていません。

 知床遊覧船が昨年7月に提出した運航記録簿は、風速や波高の数字が全て同じでした。信ぴょう性が疑われます。ところが、昨年10月に運輸局は「記録簿関係は直近の日付のものまできちんと整理」されていたと評価しました。国交省は検査のあり方を反省するといいますが、数々の問題を見逃してきた責任は厳しく追及されなければなりません。

 国の検査を代行する「日本小型船舶検査機構(JCI)」の対応も重大です。同機構は沈没事故発生3日前、知床遊覧船に法律に基づく年1回の検査を行いました。この時、陸上との通信手段を衛星電話から携帯電話に変更することをカズワンの船長から申請され、認めました。実際は航路の大半が通信圏外でしたが、船長の「つながる」との証言を根拠にしました。機構には、乗客の命にかかわる問題との認識はなかったのか。検査のあり方も含め解明が必要です。

再発防止のため総点検を

 業者の参入の仕組みの検証も欠かせません。貸し切りバス事業では需給調整規制の撤廃が、不適格業者の参入を増加させ、安全軽視の重大事故を引き起こしたことが大問題になりました。海上運送分野でも1999年の法改定で需給調整が廃止されました。規制緩和の中で宿泊業など他業種からの参入も目立つといいます。海の安全を事業者任せにしていないか。再発防止に総点検が急務です。


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