2022年6月9日(木)
主張
物価高「許容」発言
国民苦しめる政策こそ改めよ
黒田東彦日銀総裁が物価高騰について「家計の許容度も高まってきている」(6日)と述べたことが憤りを呼んでいます。日々、買い物の際、値札を見てため息をつく庶民の姿が眼中にない発言です。「物価の安定」を使命とする日銀の長の資格に欠けています。総裁は8日、「表現は全く適切でなかった。撤回する」と表明しましたが、物価高を招いている「異次元の金融緩和」を続ける姿勢は変えません。安倍晋三政権以来、政府・日銀一体で進めてきたこの政策こそ抜本的に見直すべきです。
国民の批判を浴び撤回
批判を浴びたのは、東京都内で行った講演です。「ひとつの仮説としては、コロナ禍における行動制限下で蓄積した『強制貯蓄』が、家計の値上げ許容度の改善につながっている可能性がある」とも述べました。コロナで外出できず、お金がたまったから値上げを受け入れている―あまりに現実とかけ離れた「仮説」です。
コロナ禍でどれほど多くの人が収入を断たれ、不安におびえながら貯蓄を取り崩して暮らしていることか。この苦しみを思えば決して言えないことです。
「物価高を許容していない」と怒りの声が噴き出したのは当然です。日銀自身による「生活意識に関するアンケート調査」でも80%以上が物価上昇を「困ったことだ」と答えています。
総裁は発言撤回の際、家計が苦渋の選択として値上げを受け入れているのは認識していると釈明しました。では、なぜ「許容」と言ったのか。説明がつきません。
問題の講演の中で「2%の『物価安定の目標』を持続的・安定的な形で実現する」と「異次元緩和」の推進を明確に述べています。
国民は2%の物価上昇がどのような状態かを身をもって体験しています。4月の消費者物価上昇率(前年比)は2・1%と日銀の目標を上回っています。すべての価格が等しく2%上がったわけではありません。電気代は21%、生鮮食品は12・2%と、生活に欠かせないものほど大幅に上昇し、がまんの限界を超えています。
一方、4月の実質賃金は物価上昇が響き前年比1・2%減りました。この政策を「安定的」に続けることなど許されません。
「異次元緩和」は2012年に就任した安倍元首相が経済政策「アベノミクス」の「第1の柱」とし、日銀に共同声明を結ばせて導入した政策です。日銀が国債を大量に買いとって金融市場にお金を供給したことで投機が活発になり株価は上昇しました。もうかったのは大企業・富裕層です。
「異次元緩和」の転換を
外国為替市場では円安が進み、輸入物価を押し上げました。今の物価高は、コロナ危機からの経済回復による需要増、ロシアのウクライナ侵略に伴う国際市場の混乱と「異次元緩和」が相まって引き起こしたものです。
岸田文雄政権は7日に決定した「新しい資本主義」の実行計画と「骨太の方針」で「異次元緩和」を含めアベノミクスの全面継承を明記しました。安倍元首相は日銀を「子会社」と呼んで、さらにこの政策を推進しようとしています。このような政治をこれ以上続けさせるわけにいきません。物価高騰を止めるには「異次元緩和」からの転換が待ったなしです。