2022年7月19日(火)
主張
NATO新戦略
緊張を激化させる危険な方向
北大西洋条約機構(NATO)は6月末の首脳会議で、今後の長期的指針を定めた新たな「戦略概念」を採択しました。これまでパートナーとしていたロシアを「最大で直接的な脅威」と位置づけ、軍の抜本的な態勢強化を打ち出しました。中国についても「われわれの価値観への挑戦」とし、中ロ連携への対抗姿勢を明記しました。ロシアのウクライナ侵略に「軍事対軍事」の対決を強めることはさらに緊張を激化させ、解決をいっそう遠ざけることにしかなりません。
核軍事同盟の強化を宣言
今回の戦略見直しは「冷戦後最大」(ストルテンベルグNATO事務総長)とされます。ロシアを敵視したうえで即応部隊を現在の4万人から30万人超に増強することをはじめ、ミサイル防衛、宇宙、サイバー分野での軍事力強化を決めました。スウェーデンとフィンランドの加盟手続きを始めることにも首脳会議は合意しました。
戦略概念は、NATOが自由、民主主義など「共通の価値観」で結ばれていると強調し、ロシアが欧州の秩序を破壊していると非難しています。
ロシアのプーチン政権が専制主義の体制であり、民主主義を踏みにじっていることは間違いありません。しかし問われているのは価値観の違いではありません。
ロシアのウクライナ侵略は、他国に対する武力行使を禁止した国連憲章に違反する許しがたい行為です。侵略を止めるには国際社会が「国連憲章を守れ」の一点で団結することが何よりも重要です。
ところが戦略概念は国連憲章に基づく解決については一言も触れず「抑止と防衛態勢を大幅に強化する」としています。「ドアは開かれている」とさらなる加盟拡大にも言及しています。これに対してロシアがさらに力による対決を強めるのは必至です。実際、プーチン大統領は相応の対抗措置をとると公言しています。
核兵器についても「NATOは核同盟であり続ける」とし、米国の核戦力を中心に「核抑止」を強化するとしました。核兵器使用の威嚇を強めているプーチン政権に核で対抗することは、核戦争の可能性を高める、極めて危険な方向です。
欧州にはソ連崩壊後、全欧州諸国とロシアを含めた包摂的な枠組みとして、欧州安全保障協力機構(OSCE)がつくられ、「紛争の平和的解決のための主要な機関」と定められました。しかしこの機能は生かされず、NATO諸国もロシアも軍事力で相手の攻撃を「抑止」する戦略を進めました。
外交失敗から学んでこそ
ソ連側の軍事同盟だったワルシャワ条約機構はソ連崩壊で解体しました。その一方、NATOは東欧などで加盟国を増やし、NATOの東方拡大にプーチン政権は力による対決を強めていました。
ウクライナ侵略の責任は、国連憲章を踏みにじったロシアにあります。軍事同盟の問題でロシアを免責できません。その上で、戦争を防げなかった背景に「力対力」に陥った外交の失敗があったことを指摘しなければなりません。岸田文雄首相はNATO首脳会議に出席してNATO並みの軍事力強化を打ち出しました。欧州の教訓に学ばず、東アジアの軍事的緊張を高めることは許されません。