2022年8月24日(水)
検証 ウクライナ侵略半年 日本共産党の平和の論陣
「国連憲章守れ」貫く
価値観で二分するな 世界の良識と共鳴
24日でロシアによるウクライナ侵略が開始されてから半年。日本共産党は、国連憲章に反する侵略を世界的団結と世論でやめさせようと一貫して呼びかけてきました。そのことが世界の平和にとってどのような意義を持つのか。半年にわたる内外の動きを振り返りながら検証します。
日本共産党の志位和夫委員長は、ロシアによるウクライナ侵略が始まると、直ちに緊急声明「ウクライナ侵略を断固糾弾する ロシアは軍事作戦を直ちに中止せよ」を発表。ロシアの行動は「国連憲章、国際法を踏みにじる、まぎれもない侵略行為であり、断固糾弾する」「国際社会が、ロシアのウクライナ侵略反対の一点で団結し、侵略をやめさせることを呼びかける」としました。
さらに、「力には力で」という「力の論理」、軍拡と軍事同盟強化の主張は、際限のない軍拡競争に陥り、戦争の危険を高める危険な対応だと批判しました。同時に、ウクライナが西側諸国と連携を強めロシアに「脅威」をもたらしたとして、「どっちもどっち」論の立場からロシアの侵略を免責する主張を排斥し、違法な軍事力行使の責任はあげてロシアにあると批判する論陣を張りました。
侵略非難決議に史上最多の支持
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こうした国連憲章に基づく日本共産党の批判と国際社会が共鳴する最初の場となったのが、2月28日~3月2日の国連総会緊急特別会合でした。
会合は、ロシアによるウクライナ侵略を国連憲章違反だと断定し、ウクライナでの武力行使の停止、軍の「即時、完全、無条件撤退」をロシアに求める非難決議を141カ国の圧倒的多数の賛成で採択。共同提案国は96カ国に上りました。
1980年代からの米国や旧ソ連による侵略行動をはじめ、これまでの国連総会における侵略非難の決議のなかで、史上最多の支持を集める歴史的決議となりました。
決議は冒頭で、「諸国間の法の支配の促進における国際連合憲章の最重要性を確認」と宣言。また、国連事務局のプレスリリースは「いくつかの小さな国の代表は、多くの国がそう考える『力が正義』というコンセプトではなく、国連憲章の原則こそが押し出されるべきだと主張した」と述べました。
志位氏は、この点に加え、ロシア軍が民間人や民間施設の無差別攻撃を起こしたことに対し国際人道法違反だと告発。プーチン大統領やロシア高官が世界に対し核兵器の使用による脅迫を行っていることに対し、国連憲章と核兵器禁止条約への違反を指摘して厳しい批判を行ってきました。
国連総会は3月24日の緊急特別会合で、2日のロシア非難決議に続いて、ロシア軍による民間人、民間施設への無差別攻撃を非難し、即時停止を求めるとともに、2日の決議の全面実践を要求。140カ国の賛成で採択しました。国連憲章違反の軍事侵略を国際社会が結束して糾弾し、ロシアが孤立を深める結果となりました。
日本共産党は2020年の綱領一部改定で、国連の設立とともに「戦争を未然に防止する平和の国際秩序の建設が世界的な目標として提起された」とし、国連憲章の重要性を位置付けています。
日本共産党が、ロシアのウクライナ侵略に対して国連憲章を基準に世界の団結を呼びかけたのは、戦争のない世界を目指す人類史的歩みの中でこの問題をとらえ、世界の世論の力で危機を乗り越えるという立場からのものでした。
「民主対専制」に世界で批判次々
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ところが、世界のこうした本流に対し、分断を持ち込む議論が米国のバイデン大統領から発せられました。
米国のバイデン大統領は3月2日、米国政府の一般教書演説で、ロシアを激しく批判するも、「国連憲章」を一度も引くことなく「民主主義対専制主義のたたかい」というスローガンを押し出しました。
これに対し、志位氏は、プーチン政権が専制主義的な政権であることは間違いないとしながらも、「今問われているのはあれこれの『価値観』ではありません。あれこれの『価値観』で世界を二分したら、解決の力も、解決の方向も見えなくなってしまうのではないでしょうか」と指摘。「いま大切なのは、あれこれの『価値観』で世界を二分するのではなく、『国連憲章を守れ』の一点で世界が団結することではないでしょうか」(4月29日、大学人と日本共産党のつどい)と訴えました。
米国の対応の背景には、アフガン戦争やイラク戦争をはじめ、米国自身が国連憲章を踏み破ってきた歴史に加え、現在も米国中心の軍事ブロックを世界に張り巡らすことで、自国の利益を追求する戦略があります。
こうした米国の動きに対しては、良識ある批判の声が世界的にも広がりました。
5月に訪日したシンガポールのリー・シェンロン首相は日経新聞のインタビューで「私はこれ(ウクライナ戦争)を民主主義対専制主義の問題とは言わない。なぜならウクライナで危うくなっているものは、国際的な法の支配、国連憲章だからだ」と言明。「これを民主主義対専制主義、あるいは善対悪の枠にはめるなら、自らの身を終わらない戦争に置くことになる。私は、これは賢明な歩みではないと思う」と述べたのです。
また、ニュージーランドのアーダーン首相も7月7日の講演で「これを民主主義対専制主義と決めつけないようにしましょう」「われわれが関与する当事者がますます孤立し、われわれの住む地域がますます分裂し、分極化するなら、われわれは成功しないでしょう」と語りました。
日本でも元外務省高官の田中均氏(日本総合研究所国際戦略研究所理事長)が「バイデン大統領が事あるごとに強調するのが、『民主主義と専制主義の戦い』という構図だ。…だが問題はこれを他国に押し付けることができるかどうかだ。米国も民主主義国が連帯して専制主義国を追い詰め、民主化することができると考えているわけではないだろう。むしろ対決をあおるだけの結果となり、世界の分断を進めることにならないか。“バイデン大統領の戦い”にどこまで付き合うのか、日本にとっても注意が必要だ」と発言しています。(6月15日)
「軍事的対抗」を強める岸田首相
こうした流れの中で岸田文雄首相はいかなる対応をしてきたのか。
岸田首相は、ロシアによる侵略が開始された当初こそ「国連憲章違反」を自ら指摘(2月25日)したものの、その後のウクライナ問題に触れた44回の記者会見では、国連憲章違反に一度も言及していません。一般的に「国際法違反」を指摘したのが15回です。
国会での質疑でも、質問を受けて国連憲章に触れたことが8回あるものの、そのうち4回は日本共産党の田村智子、山下芳生両副委員長、山添拓参院議員への答弁です。
このなかで5月25日に田村氏が「民主対専制ではなく国連憲章守れの共同を広げるべきだ」と追及したのに対し、岸田首相は国連総会決議がロシアの国連憲章違反を強く批判していると述べる一方で、「わが国としてG7をはじめとする普遍的価値を共有するパートナーと連携」「価値観を共有するG7主導の秩序の回復」を強調。価値観でブロック対立をつくる米国と同様の主張をしました。
参院選中の6月29日には、NATO首脳会議に史上初めて日本の首相として参加。会合後の記者会見では「同志国と連携を強化し、そして欧州とインド太平洋を結ぶ自由と民主主義のための連帯パートナーシップ、これを築いていきたい」と、「民主主義」を旗印とした軍事ブロック強化を明言しました。
ここには、この機に乗じて日米同盟の強化に加え、NATO諸国との間でも軍事的連携を強化し、中国への軍事的対抗を強める狙いがあります。同時に、ベトナム戦争をはじめとして米国の侵略戦争を一度も批判したことのない日本政府の対米屈従の外交姿勢が色濃く反映しています。
「国連憲章守れ」は当たり前のことのようですが、その立場を貫くことが世界と日本の平和にとっていかに大事なことか、半年の経過がくっきりと示しています。国連憲章を基準に世界の団結、力の統合を目指す世界の本流と、米国中心の価値観と軍事ブロックによる秩序形成を目指す流れとのせめぎあいは続いています。
国連憲章 国連の結成(1945年6月)とともに、国際社会の平和のルールを定めたのが国連憲章です。第2次世界大戦を経て、戦争を未然に防ぐ平和の国際秩序の建設が世界的な目標として提起されました。憲章は2条3項で「紛争の平和的解決」をすべての加盟国に義務付け、同条4項で「武力による威嚇又は武力の行使」を禁止しました。「戦争の禁止」という表現をとらなかったのは、宣戦布告のない奇襲攻撃や、謀略を利用しての「事変」への武力介入など、それまでの「戦争禁止」に対する脱法的軍事力行使が横行したからです。国連憲章の成立後も、憲章を無視した米国や旧ソ連などによる侵略は行われてきましたが、20世紀を通じて植民地支配が崩壊し、中小国の政治的役割が増大する中で、国連憲章による平和の秩序を実効あるものにする流れが強まっています。