2022年8月30日(火)
ウクライナ侵略半年
ポーランド在住 ロシア人のたたかい
母国政府に若者抗議
ロシアがウクライナ侵略を開始して半年となった24日、ポーランドでウクライナを支持し、プーチン・ロシア政権に抗議するロシア人の若者に出会いました。残虐な侵略戦争に立ち向かうウクライナの人びとと、母国で過酷な弾圧を受けても政権に抵抗する同胞に敬意を持ち、自分たちも正義の側に立って行動すると語りました。(グダニスク〈ポーランド北部〉=秋山豊)
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ワルシャワから鉄道で3時間半、北部グダニスクへと向かいました。ロシアで弁護士として、プーチン政権に抗議する人びとを支えてきたタミーラ・イマノバさん(25)を訪ねるためです。
手紙で励ます
イマノバさんはグダニスクに暮らすロシア人の仲間とともに、プーチン政権に異論を唱え、あるいはウクライナ侵略に抗議してロシア国内で投獄されている人びとに手紙を送る活動をしています。
「ロシアにはウクライナに対する戦争を支持する人もいますが、街頭で抗議の声をあげる勇敢な人びとがいます。血にまみれた未来を変えようとしているのです」
手紙は検閲されるため、プーチン大統領への抗議や戦争反対の意思は書けません。それでも、平和のために獄中でたたかっている人びとに宛てて、ときどきのニュースや詩、励ましの言葉をしたためています。
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「私は母国ロシアを愛していますが、政権には抗議します。民主的に統治され、国民と隣国の人びとの命を奪う国にならないよう願ってきましたが、今の政権指導者のもとで未来はありません」
イマノバさんにはウクライナ人の友人がいます。ロシアが2014年、ウクライナ南部クリミア半島を併合したとき、友人はロシアがウクライナに対する戦争を始めれば家族が殺されると不安を口にしていました。
「私は友人に戦争など起きないと言いましたが、その約束は偽りとなりました。殺されたウクライナの子どもたち、軍に入った夫を心配する女性の涙、妻と娘を亡くして泣いている男性…。私の心はロシアの残虐行為に打ちくだかれました」
イマノバさんによると、当局に見つからないよう、ロシア国内からウクライナのNGOに資金を送る人もいます。
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信じてほしい
イマノバさんは4月中旬、モスクワからポーランドへと移りました。ロシアでは弁護士としてプーチン政権に抗議する人びとへの法的支援をしてきましたが、自分も投獄されるかもしれない恐怖を抱いていました。
ロシアが2月24日に侵略を始めてから多くの人権活動家らが起訴され、イマノバさんの仲間の活動家も投獄されました。
イマノバさんは母親を残し、全てを置いて母国を去るべきか迷いもありましたが、このままでは自分の身も危険だと考えてロシアを離れました。
イマノバさんはポーランドでもインターネットを通じ、プーチン政権に抗議するロシア人の相談に応じる一方、ウクライナ難民の支援団体で活動を始めました。
「どうか反戦を訴えてたたかっているロシア人を見限らないでください。ロシアには独裁者のもとで困難にあいながら、より良い未来を求めている若者もいます。私たちを信じてください」
「戦争反対」正しいこと
「ウクライナに平和を」訴え続ける
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24日、ポーランド北部グダニスクに暮らすモスクワ出身のキリル・コレパノフさん(30)はプーチン政権に抗議する集会に参加しました。
集会が開かれたのはロシア領事館前。思い思いのプラカードを手に駆けつけたロシア人が「ウクライナに平和を」「ウクライナに栄光を」「ロシアに自由を」「プーチンのいないロシアを」と唱和しました。
コレパノフさんは「ロシアと違い、ここでは自分の意見を安心して表明できます。プーチン政権に対し、私たちロシア人は戦争に反対しているんだ、という声を示しているのです」と話します。
恐怖もよぎる
一方、デモに参加した姿を写真に撮られているかもしれない、ロシアに戻れば投獄されるだろう―そんな恐怖も心をよぎります。
「いら立つ気持ちを抑えられません。ロシアがウクライナの主権を侵害し、多くの人びとを殺害し、残虐行為を働き続けているからです。ロシアではプーチン政権に抗議する人びとが拘束されて拷問も受けてきました。ロシアの政権にいるのは人権など気にもとめない者たちです」
コレパノフさんはモスクワにいる母親を心配しています。近所では、住民がプーチン政権のウクライナ侵略支持を象徴するZの文字を書いています。母親は戦争に反対していますが、その立場を公にすることはできず、涙を流しています。
ロシアでも積極的でなかったものの、プーチン政権に抗議するデモに参加していました。多くの反体制活動家が拘束されているニュースを聞いて危険を感じていました。
コレパノフさんは2014年、プーチン政権がウクライナ南部クリミア半島を併合したとき、国を離れようと決意。6年前、ポーランドに移りました。
支えるために
当時を振り返り、「ロシアがとんでもない過ちを犯しているのに、自分には何も変える力がありませんでした。だけど今は、ウクライナの人びとを支えるために力を尽くしたい」と語ります。
コレパノフさんはプログラマーとして働いています。ロシアにいたころ、ゲーム業界で知り合った友人らがウクライナにいます。
プーチン政権が侵略を始めて以降、友人らの親しい人びとが殺されたり、ウクライナ軍に加わって前線に送られたりしている状況を知るたびに、心がしめつけられます。
「それでも、ウクライナの人びとは侵略をやめさせるために声を上げ続けています。ロシア国内にも危険を顧みず、プーチンにあらがう人びとがいます。私も戦争反対を訴え続けます。それが正しいことだからです」