2023年1月3日(火)
主張
平和秩序の展望
対立・分断乗り越える枠組みへ
ロシアによるウクライナ侵略は終結を見通せないまま、新しい年を迎えました。ウクライナの民間人死傷者は昨年末までの国連機関の集計で1万7000人を超え、4000万人の国民の3分の1が国内外に避難しています。この瞬間にも被害は増えています。2度の世界大戦をへて築かれた平和の秩序を取り戻すために何をすべきか、国際社会が試されています。
外交解決妨げた軍事同盟
戦争違法化の流れは第1次世界大戦以降、逆流を乗り越えながら前進してきました。
史上初めて戦争そのものを違法と宣言した国際条約は1928年に結ばれたパリ不戦条約です。34年までに当時として画期的な63カ国が批准しました。日本は不戦条約を批准しておきながら中国への侵略を拡大し、ドイツ、イタリアと軍事同盟を結んで第2次世界大戦を引き起こしました。
戦後、創設された国連は憲章に、人民の同権と自決の原則の尊重(第1条2項)、国際関係における武力行使・武力による威嚇の禁止(第2条4項)、加盟国の領土保全と政治的独立の尊重(同)、紛争の平和解決の義務(第33条など)を明記しました。国際的な武力行使は国連の決定によること、各国の軍事行動は侵略に対する自衛反撃以外に認められないことも定めました(第7章)。
植民地支配を受けていた地域が戦後、相次いで独立し、国連加盟国の多数を占めるようになったことで国連憲章の諸原則はさらに強化されました。
60年の国連総会で採択された植民地独立付与宣言が民族自決権を確立したことは極めて重要です。70年の友好関係原則宣言は武力行使の禁止など七つの原則を定め、どのような武力行使が禁止されるかを具体的に規定しました。
国連憲章の原則はロシアのウクライナ侵略を国際社会が断罪する、よりどころとなっています。プーチン大統領は、ウクライナを「ロシア世界」の一部として独立を認めない立場を公言していますが、世界に通用しない主張です。
ロシアの侵略は軍事同盟の有害さを浮き彫りにしました。欧州では米国を中心とする北大西洋条約機構(NATO)を、ソ連崩壊後も存続させたためロシアとの対立が深まりました。
ロシアも参加した欧州安保協力機構(OSCE)が安全保障の地域機構と位置づけられましたが、十分に機能せず、ウクライナ侵略も防げませんでした。
NATO、ロシアとも軍事力によって相手を抑える戦略を変えなかったことで、外交による紛争の政治解決に失敗しました。軍事対軍事の対決が戦争につながった教訓から学ぶ必要があります。
戦争の心配ないアジアを
今日のアジアでは東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心に平和の秩序づくりが進められています。ASEAN10カ国と日本、米国、中国、ロシアなど8カ国で構成する東アジアサミットを強化し、東アジア規模の友好協力条約を展望する「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)です。
岸田文雄政権が進める大軍拡はこれに逆行する動きです。憲法9条を生かしてAOIPを前に進め、地域のすべての国を包み込む平和の枠組みを築くことこそ日本が果たすべき役割です。