2024年9月4日(水)
主張
北陸新幹線延伸
条件の破綻した計画断念せよ
ばく大な費用、長期にわたる建設、古都京都の自然環境と文化を壊す恐れのある北陸新幹線延伸(福井県敦賀―新大阪間、小浜〈おばま〉・京都ルート)計画。国土交通省は8月末、2025年度の概算要求に、同計画を金額も示さず盛り込みました。政府・与党は、多くの反対意見を顧みず推し進める構えです。
■費用対効果下回る
国交省が8月、与党プロジェクトチーム(PT)に提示した「小浜・京都ルート」詳細案は、新設する京都駅の位置が異なる3案です。建設費は年2%の物価上昇が続く場合、最大5兆3千億円となり、当初の2兆1千億円の2・5倍に膨らみます。新幹線建設「着工5条件」の一つである費用対効果は当初、1・1。目安の1をわずかに上回っていましたが、今回の詳細案にもとづけば1を下回ることは必至で条件が崩れます。
工期は最長で28年と当初より13年長くなります。仮に来年着工したとしても完成は2050年代で、関西と北陸を結ぶ高速鉄道の貫通は21世紀半ばを過ぎることになります。
「小浜・京都ルート」は140キロのうち8割がトンネルです。京都、松井山手(京都府京田辺市)、新大阪の3駅も地下に造られ、京都市内を深度20メートルから50メートルのトンネルが貫くことになります。計画にある新大阪駅付近とともに、新幹線が都市部地下を長い距離走る例は現在までありません。京都の地下水枯渇、有害物質を含む排出土、活断層への影響など諸問題が懸念され、京都府内では各地で中止や見直しを求める住民運動が広がっています。
■地下水枯渇の懸念
国交省は、トンネルは「シールド工法」で「地下水は引き込まない」と主張しますが、十分な科学的根拠を示しておらず、「データを示さず断言している」(京都新聞8月12日付社説)との批判を招いています。
鉄道運輸機構は6月、京都盆地の深層地下水は「京都駅や伏見酒造エリアにまで到達している可能性がある」と認めました。中央リニア新幹線のトンネル工事では地下水や周辺河川の枯渇が問題となっており、伏見の日本酒、和菓子、豆腐など京都の地場産業に深刻な影響を及ぼしかねません。
政府・与党は年内に京都駅を通る3ルートのうち一つを決め、来年度中の着工をめざします。概算要求は、具体的な建設費の金額を示さない「事項要求」となりました。政府と与党は、費用対効果算出方法の見直しまで検討していると報じられています。このようなごまかしは許されません。
同計画には、京都府民の6割が「再検討」「中止すべき」(京都新聞22年4月の世論調査)と答え、2月の京都市長選では、現職(当時)も含め誰一人、「推進」を表明しませんでした。京都新聞も前出の社説で「立ち止まって再考することを改めて強く求めたい」と主張しています。
政府、与党、そしてJR西日本は、「小浜・京都ルート」を断念し、沿線住民、利用者にとってどのような鉄道整備がいいのか考えるべきです。沿線の与党国会議員だけでルートを決めるようなやり方も根本的に改める必要があります。