2024年10月9日(水)
田村委員長の代表質問 参院本会議
日本共産党の田村智子委員長が8日の参院本会議で行った石破茂首相に対する代表質問は次のとおりです。
私は日本共産党を代表し、石破茂総理に質問いたします。
石川・能登の豪雨災害――複合災害として従来の枠を超えた支援策を
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冒頭、石川・能登豪雨災害で亡くなられた方々へ哀悼の意を表し、被災された方々に心よりのお見舞いを申し上げます。
「一段階ずつ元の生活に戻ろうとしたのに、足元をすくわれた」――被災地の切実な声です。
連続した災害のダメージはあまりに大きい。ところが政府は、今回の豪雨災害を複合災害とみなさずに、従来の枠組みで対応しています。総理、これでは全く不十分です。
まず、あたたかな食事も安心できる居住環境も、今すぐ提供する手だてを、政府が尽くすべきではありませんか。また、かつてない複合災害として、従来の枠を超えた支援を行う、そのことを示すためにも補正予算の編成が、今国会で必要なのではありませんか。答弁を求めます。
石破首相の政治姿勢を問う
私たちは、総理の言葉の何を信じればよいのでしょうか。総理は、自民党総裁選での主張を次々と手のひら返しにしています。なかでも、予算委員会での論戦を回避して、明日にも衆議院を解散し総選挙を行うという手のひら返しは、あまりにも党利党略が過ぎるのではありませんか。これは民主主義の根幹に関わる問題です。政治の信頼回復というのならば、堂々と予算委員会での論戦を行って、総選挙を迎えようではありませんか。
裏金問題でも、まずはっきりさせるべきは、総理自身の裏金疑惑です。「しんぶん赤旗」日曜版は、ホテルニューオータニの大宴会場で開催された石破派・水月会の政治資金パーティー「水月会セミナー」の収入について、2021年までの6年間で、少なくとも140万円の不記載があると報じました。総理は「事務的ミス」と言いますが、裏金問題が半年以上にわたって大問題になりながら、自らの派閥について調査をせずに「出も入りもきちんと載せている」と説明したのですか。水月会の不記載は他にはないと断言できますか。明確にお答えください。
石破派、麻生派の裏金疑惑、堀井前衆院議員による裏金を使った香典配りなど、新たな問題が次々と浮上しています。総理は、「新たな問題が起きれば、再調査する」と明言していた。ならば、徹底した再調査を行いますね。これを拒否することは、自民党の組織的な大政治犯罪にふたをすることになり、国民の信頼回復などありえません。総理、しかとお答えください。
裏金・金権腐敗の根を断つためには、パーティー券を企業や業界団体に売ることを含め、企業・団体献金の全面禁止が不可欠です。また自民党だけでも30年間で4752億円にもなる政党助成金は、使い道に何の制限もなく、金にまみれた政治の温床になっています。政治改革を本気で進めるには、企業・団体献金の全面禁止、政党助成金廃止に踏み出すべきではありませんか。答弁を求めます。
賃上げ――大企業優遇から中小企業への直接支援へ転換こそ
日本の経済をどう立て直すか、これまでの大企業・大富豪優遇から、暮らしの応援へと政策の抜本的転換が必要です。
何より政治の責任での賃上げであり、そのカギは中小企業への直接支援です。2013年に始まった「賃上げ減税」は、中小企業への適用がわずか数%、9割以上の中小企業には、賃上げ支援が何もないままです。一方、トヨタ自動車は、10年間で440億円、賃上げ分の4割に相当する減税となりました。同時期、トヨタ本社の株主配当は6・5兆円、内部留保の積み増しは10・9兆円です。果たして、「賃上げ減税」が必要だったのでしょうか。
まず大企業ありきでは、「物価に負けない賃上げ」は進まない、中小企業への直接支援こそ必要――総理、もはや明らかではありませんか。
わが党は、大企業の内部留保の一部に、時限的に課税して、5年間で10兆円を確保し、中小企業への直接の賃上げ支援に回すことを、繰り返し提案しています。今年の予算委員会で岸田首相が、内部留保の活用は必要だと認めました。ところが活用どころか、内部留保はまた膨張し、いまや539兆円です。総理、もはや「慎重に検討」ではなく、決断の時です。内部留保課税で中小企業の賃上げを直接支援する、これとセットで最低賃金1500円へと、踏み出そうではありませんか。答弁を求めます。
労働時間の短縮は、ジェンダー平等に不可欠
賃上げと一体で、労働時間を短くして、自分のための自由な時間をふやしたい――これは働く人たちの切実な願いです。
日本の長時間労働は、過労死・メンタル疾患など、命と健康をむしばむ重大な問題です。残業規制の抜け道をふさぐことが求められます。同時に、1日8時間労働のままでよいのかが問われています。
女性の正規雇用の割合が、20代後半をピークに減少するL字カーブは、日本のジェンダー不平等を象徴的に表しています。この間、育休制度を改善してもなお、L字カーブが解消しない理由を、総理はどう考えますか。
たとえ残業なしで帰宅しても、家事・育児にさえ時間が足りず、毎日くたくた。自分のための時間など望むべくもない――これが多くの働く女性の現実です。「男女共同参画白書」(2023年版)では、OECD(経済協力開発機構)11カ国の生活時間を比較していますが、日本の女性の睡眠時間は最も短い。総理、ここには、今の労働時間では、女性たちが身を削って仕事・家事・育児を担わざるをえないことが、ありありと示されているのではありませんか。
日本共産党は、「1日7時間・週35時間労働制」へと進むことを提案しています。労働時間の短縮こそ、男性が日常的に家庭でのケアに関わる条件を広げます。女性が正規雇用で働き続ける条件を広げます。パートとフルタイムの賃金格差の解消につながります。ジェンダー平等の推進力となると考えますが、総理の見解をお聞きします。
「私のための自由な時間を、豊かな人生を」――国民のみなさんとともにたたかいとる決意です。
高齢者の暮らしの支えを掘り崩すな――介護保険の国庫負担割合の引き上げを
暮らし応援への転換、もう一つのカギは社会保障の予算を増やすことです。
年金・介護・医療――高齢者の暮らしを支える基盤が、自民・公明政権によって掘り崩されています。
物価が上がっても年金が増えない、これでは「100年安心」どころか、「毎日が不安」の年金制度ではありませんか。日本の年金積立金は、給付の5年分、290兆円です。ドイツ1・6カ月分、イギリス2カ月分と比べてもあまりに多すぎます。しかも政府は、年金の実質減を今後も続けながら、積立金が100年後には23年分、1京7400兆円という試算まで出しています。これがまともな年金制度でしょうか。
積立金を計画的に年金給付の維持・拡充にあてるとともに、低年金の抜本的な解決のために、最低保障年金制度に踏み出すべきではありませんか。答弁を求めます。
介護崩壊が進んでいます。ホームヘルパーの人手不足が深刻なところに、あろうことか訪問介護の介護報酬が減らされ、事業所の閉鎖が相次いでいます。「しんぶん赤旗」の調べで、6月末現在、訪問介護事業所が一つもない自治体は97町村、残り1カ所だけが277市町村に及んでいます。必要な介護が受けられない、これは何より高齢者の尊厳に関わる重大な問題です。介護離職やヤングケアラーという現役世代の問題を一層深刻にします。介護崩壊を何としても止めなければなりません。総理にこの認識がありますか。
介護保険の国負担割合を10%増やすべきです。自民党・公明党は、野党時代の参院選挙で、国庫負担割合を増やすと公約していました。総理、今こそ実行すべきではありませんか。お答えください。
国立・私立大学とも学費ゼロを目指し、直ちに半額へ
大学の学費値上げが相次いでいます。
総理は総裁選で、「国立大学・高専の授業料無償化」を公約に掲げました。ならば、東京大学の授業料2割値上げなど、大学の学費値上げに、ストップをかけるべきではありませんか。東大は、値上げの理由に国からの運営費交付金が20年間で約1割、80億円削減されたことを挙げています。削減分のごく一部を元に戻すだけで、東大はじめ国立大学の授業料値上げは全く必要なくなります。直ちに削減分を戻すことを表明し、授業料値上げを止めるべきです。それこそが、総理自身が掲げた公約を守る道だと考えますが、いかがですか。
いま日本の教育予算は、軍事費の半分です。OECD加盟国で最低レベルの教育予算を抜本的に増やして、学費ゼロに向かい、直ちに半額へ、学生の運動に連帯し全力をつくすものです。
日米軍事同盟絶対の政治から、憲法9条生かした平和の外交へ
安全保障についてお聞きします。集団的自衛権の行使容認、外国の領土を攻撃するための長射程ミサイルの配備、GDP(国内総生産)比2%への大軍拡、武器輸出の解禁など、これまで憲法9条のもとで「できない」とされてきたことが、次々と強行されています。
これらは、すべて「日米同盟強化」のためとして、進められていることです。「日米同盟」と言われると思考停止になり、憲法も踏みにじる、財源もお構いなしで軍備増強に突き進む――こんな政治で良いのか、私は、政府と同僚議員のみなさんに問わずにはいられません。
「戦争の準備」に国民を巻き込み、暮らしの安心を脅かす
日米同盟の強化は、国民になにをもたらしているか。
自衛隊の地対空ミサイル部隊が新たに配備される沖縄県・与那国島では、有事を想定し、九州への全島民避難計画が作られようとしています。主要産業の畜産はどうなるのかという不安に、防衛省は、家畜の島外避難は不可能、補償は考えていない、という。約半数の島民が「指示があっても避難はしない」と回答すると、電気、ガス、水道などのライフラインは使えなくなるが、それでも良いのかという。
総理、これが「国民を守る」ということでしょうか。国民を「戦争の準備」に巻き込み、暮らしの安心を脅かすものではありませんか。
沖縄の米軍辺野古新基地建設も思考停止の象徴です。沖縄県民が自ら米軍新基地を受け入れることはありえない、軟弱地盤の改良工事は技術的に不可能、建設費用が青天井、そして完成のめどが立たない――もう辺野古新基地は断念するほかないではありませんか。お答えください。
ブロック政治ではなく、包摂的な対話の枠組みを
日米同盟という軍事同盟の強化は、東アジアを対立するブロックに引き裂き、軍事対軍事をエスカレートさせ、果てしない軍備拡大をもたらします。この先に平和があるでしょうか。やるべきは、戦争の心配のない東アジアをつくるため、憲法9条を生かした外交に、本気で取り組むことではありませんか。
日本共産党は、この立場から「東アジア平和提言」を掲げて、ASEAN(東南アジア諸国連合)と協力して、包摂的な対話の枠組みを活用、発展させる現実的な外交を呼びかけています。この中で、日中関係について、2008年の日中首脳会談で、「日中両国は互いにパートナーであって、互いに脅威とならない」と合意している、また、ASEANが進める、インド・太平洋を「対立と競争」から「対話と協力」の地域に変えていこうという構想=AOIP(ASEANインド太平洋構想)に両国が賛同しているなどを示し、これらに基づき、日中関係の前向きな打開をと提案しています。一昨年、岸田首相からも中国政府からも肯定的評価が示されました。
総理、東アジアに分断と敵対のブロック政治を持ち込むのではなく、特定の国を排除しない包摂的な対話の枠組みの活用・発展こそ求められているのではありませんか。答弁を求めます。
気候危機――石炭火力からの撤退、原発ゼロこそ
豪雨災害、猛暑など、気候危機の打開が喫緊の重要課題となっています。CO2の排出削減のために、国連は先進国に対して、2030年までに石炭火力から撤退することを要請しています。ところがG7(主要7カ国)のなかで日本だけが撤退期限を示していません。総理、急速にすすむ地球温暖化への危機感が、あまりにも欠落しているのではありませんか。
日本の再生可能エネルギーの電力普及は24%です。イギリス46%、ドイツ52%、カナダ66%などをみれば、立ち遅れは重大です。しかも大手電力会社が、石炭火力と原発からの送電を優先させ、再エネを捨てるという逆行さえ生じています。再エネの普及を妨害しているのが、石炭火力と原発ではありませんか。
省エネ・再エネの本気の普及、石炭火力からの撤退、原発ゼロで、2030年度までに、CO2排出6割削減に取り組むべきと考えますが、総理の答弁を求めます。
ジェンダー平等――女性差別撤廃条約の選択議定書を批准せよ
ジェンダー平等を求めるムーブメントは大きく広がっています。国民の世論と運動に押され、総裁選でも、選択的夫婦別姓の実現が焦点となり、総理は「姓が選べないことによるつらい思いや不利益は解消されなければならない」と表明しました。ところが、総裁選が終わったとたんに、「党内で真摯(しんし)な議論をさらに進める」と、これまでと変わらぬ棚上げに転じました。
7月の世論調査では国民の7割が賛成、現に多くの女性が不利益を受けている、何より、すでに別姓夫婦が数十万規模で存在しているのに、国が法的に家族と認めず差別している――この事実をどう受け止めますか。同性婚も同じです。もうこれ以上、「個人の尊重」の上に、自民党一部勢力の古い価値観を押し付けることは許されないと考えますが、いかがですか。お答えください。
今月、ジュネーブで、女性差別撤廃条約にもとづく日本政府の取り組みについて、国連女性差別撤廃委員会による審査が行われます。焦点の一つが、選択議定書を批准しない政府の態度です。
選択議定書には、個人通報制度があり、女性に対する差別について最高裁まで闘っても認められない場合に、国連に条約違反を通報することができるとされています。すでに115カ国が批准し、ジェンダー平等を進める大きな力となっています。日本では、結果として女性が不利益を被る間接差別がまん延しながら、間接差別を認めた判決は、今年、東京地裁で確定した1件だけです。女性差別撤廃条約違反を認める判例は一つもありません。
ジェンダー平等の恥ずべき立ち遅れから抜け出すために、選択議定書を批准し、女性差別撤廃条約を全面実施する意思を示すべきではありませんか。
最後に、重大な人権問題に関わって、2点求めます。
本日の本会議で、旧優生保護法の違憲判決を受けた謝罪決議と被害補償法が可決されます。これを第一歩として、当事者のみなさんの声を聞き、真摯な反省のもとに検証を行い、優生思想を根絶する、これは政府と国会に課せられた重要な責務と考えますが、いかがですか。
いま一つは、袴田巌さんの無罪判決について検察の控訴断念を求めます。捏造(ねつぞう)まで指摘された検察は、冤罪(えんざい)を生み出した問題の検証こそ行うべきです。また再審請求から43年もの歳月を要した反省にたち、再審制度の見直しを直ちに行うべきではありませんか。総理の答弁を求め、質問を終わります。