市民による監視と運動を
「関西5私鉄からお集まりいただいた皆さんが運輸、電気、車両、工務といった分野別に分かれ、民間経営の視点で改善方策を提言するということで進めている」。5月8日の府市統合本部の会合。大阪市営地下鉄の民営化プロジェクトチームのサブリーダーからこんな報告がありました。
甘い蜜を吸う
同チームには、橋下徹大阪市長が特別参与に委嘱した関西私鉄5社の幹部らがずらり。運輸部門には京阪から2人、同じく電気には阪神から2人、車両は近鉄から3人、工務は阪急から2人...という具合です。各社の現職の部課長ら直接の利害関係者が乗り込んで、市営地下鉄を丸裸にし、民営化に向けた改造方針を練り上げてきたのです。
立命館大学の土居靖範教授(交通権学会前会長)はいいます。
「自社に有利な形での事業の再編など各社がどのような甘い蜜を吸うのかは、これから具体的に分かってくることですが、民営化でまず懸念されるのは安全性の問題です」
その懸念通り、同日の会合では、チームのアドバイザー、太田薫正特別参与(B&Company株式会社代表取締役)からこんな発言がありました。
安全への懸念
「民間の視点から考えると、市営地下鉄は人も拠点も多い」「公だと大震災などで3時間で電車を復旧しなければいけないという基準があり、泊まりの方々を常にある程度の数そろえておかなければいけない」
―その体制を変えるために民営化を急げというのです。
土居教授は「民鉄は常にギリギリの体制。民間の視点にならえばいいというものではない」と警鐘を鳴らします。
7月4日、市交通局は、チームの報告を踏まえた地下鉄の中期経営計画案(2012~15年度)を発表しました。
「地下鉄の民営化を見据え、経営基盤の強化に取り組む」として、11年度決算見込みで167億円の経常利益を15年度には約225億円に引き上げる計画です。これにより、約11%の利益率を、関西私鉄5社を超える15%以上にするといいます。
そのために、職員の削減(5379人→4500人規模)と給料の見直しを行い、人件費を70億~80億円圧縮。経費見直しでは10億円の削減を目指すとしています。
土居教授はいいます。「民営化されればもうけ優先となります。しかしそれが本当に市民のためになるのでしょうか。もうからないことでも必要なら行うのが公共交通の精神です。これから高齢化社会で自家用車に乗れない人が増えてきます。大事なのは、市営バスも含めた公営交通全体で市民の移動する権利(交通権)を保障していくことなのです」
府民・市民の財産の切り売りから病院・消防・大学の経営形態の改変まで"独裁の府"であるかのように裁断を下す府市統合本部。府民、市民の監視と草の根の運動が今後も求められています。
(おわり)
(第3部は豊田栄光、藤原直、森近茂樹の各記者が担当しました)
(「赤旗」2012年7月11日付)
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