10、女性に対する暴力をなくす
刑法やDV防止法の改正、被害者に寄り添う支援の強化を
2021年10月
「#MeToo」「#WithYou」――セクシュアル・ハラスメントや性暴力への抗議が広がっています。
レイプ事件無罪判決に異議を申し立てた「フラワーデモ」は、2019年4月の東京から始まり、その後47都道府県に広がりました。女性たちは、「今まで話せなかった」「被害を次の世代に続かせてはならない」と、次々と発言に立ちました。
大学では、「ストップ!キャンパス性暴力」をかかげ、学内・就活での性暴力防止と「性的同意」を学び合う学生たちの運動が進んでいます。「フェミサイド(女性を標的にした殺人)のない日本を」、「本気で痴漢対策を」と求める、大学生、高校生らの署名も取り組まれています。
「女性に対する暴力撤廃宣言」(1993年、国連総会採択)は、女性に対する暴力は「男女間の力関係が歴史的に不均衡だったことを明らかにするものである」と述べるとともに、「女性を男性に比べて従属的な地位に追いやるための社会的な仕組みとして、最も決定的なものの一つ」だとしています。レイプやDV、セクシュアル・ハラスメントなどの女性に対する暴力は、単なる個人間の〝けんか〟や〝トラブル〟という問題ではなく、ジェンダー不平等の社会の構造に、その根があるということです。だからこそ、政治が女性に対する暴力の根絶を、国の政策目標として明確に掲げ、真剣に取り組む必要があります。
日本共産党は綱領に「ジェンダー平等社会をつくる」と掲げた党として、10月1日に政策「ジェンダー平等の日本へ いまこそ政治の転換を」発表し、女性に対する暴力の根絶を太い柱に位置づけました。
ここでは、さらに詳しい内容について、記載します。
「痴漢ゼロ」を政治の重要な課題に位置づけます
女性や子どもにとって、もっとも身近な性暴力が痴漢です。日本共産党東京都委員会の痴漢被害アンケート調査(1,435人が回答)では、ほとんどの女性が経験し、その後の人生に深刻な打撃をこうむりながら、被害を訴えることもできない実態が明らかになりました。政治がこれを正面から問うてこなかったことが、痴漢を"軽い問題"扱いし、女性の尊厳を軽んじる社会的風潮を広げてきました。
――痴漢被害の実態を調査し、相談窓口の充実、加害根絶のための啓発や加害者更生を推進します。そのために内閣府に担当部局を設け、警察庁や民間事業者とも連携しながら政府あげて取り組むことを求めます。
刑法の性犯罪規定について、被害の実態と国際水準に見合った改正を進めます
2017年の刑法改正では、▽強制性交等罪を非親告罪化し、強制性交等罪の被害者を女性以外に拡大する▽監護者性交等罪などの新設▽強制性交等罪の法定刑の下限を3年から5年に引き上げる――などの抜本改正が行われました。一方、関係団体等からの改正要求にもかかわらず、▽強制性交等罪などの「暴行・脅迫要件」の撤廃▽いわゆる性交同意年齢(13歳)▽強制性交等罪の公訴時効の撤廃又は停止▽配偶者間における強姦の処罰化▽刑法における性犯罪に関する条文の位置――などは、110年前の制定時のまま留め置かれました。これらの積み残しの課題は、性犯罪処罰規定が国際水準に到達するために改正が必要な事項です。
「あったことをなかったことにさせない」「次の世代を同じ被害にあわせたくない」と勇気をもって声をあげた女性たちの声は、政治と社会を大きく揺り動かしました。2020年4月に設置された法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」には、被害当事者や支援の専門家が委員として加わり、性被害の実相と国際水準に見合った改正の方向性として、▽不同意性交等罪の創設▽地位関係性を利用した性犯罪規定の導入▽性交同意年齢(現在13歳以上)の引き上げ―などの抜本改正を求めました。
「検討会」が今年6月21日にまとめた報告書には、「性犯罪の処罰規定の本質は、被害者が同意していないにもかかわらず性的行為を行うことにあるとの結論に異論はなかった」と明記されました。「暴行・脅迫要件」見直しも、「安定的で適切な運用に資するような改正であれば検討に値する」としました。これらは法改正につながる貴重な足がかりです。
同時に、報告書は改正への消極論も併記し、数々の問題を先送りしました。不同意性交等罪の創設では「社会的に何を性的行為の同意と見るかが曖昧」であることを理由に、明確な方向性を打ち出しませんでした。教師と生徒、コーチと選手、上司と部下などの地位関係性を利用した性犯罪についても、「関係性は多様」であり「一律に処罰することは疑問」との意見が出され、一致しませんでした。性交同意年齢も、アメリカは16~18歳、イギリスや韓国は16歳、フランスは15歳などに対し日本の13歳は低すぎるのに、引き上げの結論は出しませんでした。
日本は国連の女性差別撤廃委員会から、「強姦(ごうかん)の定義を拡張するとともに、性犯罪の職権による起訴を確保するための刑法の改正を促進すること」、「配偶者強姦が明示的に犯罪化されていないこと、性交同意年齢が13歳のままであることを懸念する」などの勧告を受けています。
9月16日、上川陽子法相(当時)は、刑法の性犯罪規定の法改正を法制審議会総会に諮問しました。審議会委員に被害当事者を加えることを含め、被害者があげてきた刑法改正を求める声にこたえ、また、国際水準に見合った改正へ、審議を進めるべきです。
性暴力を、人間の尊厳を侵害する重大な犯罪として位置付けます
国連女性の暴力に関する立法ハンドブック(2009)は、「性暴力は、身体の統合性と性的自己決定を侵害するものと定義すべきである」と勧告しています。強制性交等罪、性犯罪の保護法益は、人間の性的自由の保護にとどまらず、人間の尊厳、性的な人格権の保障です。
しかし、刑法の条文の位置は制定時のまま、社会的法益の第22章「わいせつ物販売罪等の性風俗に対する罪」とともに規定されており、便宜的に、「強制わいせつ、強姦」は「個人的法益に対する罪」、「わいせつ物販売罪等」は「社会的法益に対する罪」と分けて考えているにすぎません。
――条文の位置を移動して「個人的法益に対する罪」であることを明確にし、人間の尊厳を侵害する重大な犯罪と位置付けます。
「暴行・脅迫要件」を撤廃し、同意要件を新設します
内閣府調査によると、「無理やり性交等をされたことがある女性」は8割が顔見知りの相手からです。しかし、「顔見知り」からの加害は、より拒否や抵抗をしにくいと指摘されています。
被害者の推計数(6~7万人)と比べ、警察での強制性交等罪の認知件数が1,000件程度と少ないのは、ほとんどの被害者が警察に相談できないためですが、相談したとしても、加害者の暴行・脅迫が少ないと判断されれば、被害届は受理されません。暴行・脅迫が「相手方の抗拒を著しく困難にする程度」でなければ、強制性交等罪と認められないことが多いのです。実際、法務省が昨年3月に明らかにした調査結果によると、2018年度に各地方検察庁で強制性交等罪について不起訴処分となった事件380件のうち、「暴行・脅迫の認定に難あり」「暴行・脅迫の程度の認定に難あり」という「暴行・脅迫要件」に関する理由が全体の約5割を占めました。
仮に暴行や脅迫がなかったとしても、同意のない性交等は、被害者の心身と生活に深刻な打撃を与える、重大な性暴力です。不同意の性交であったにも関わらず、「暴行・脅迫要件」が障害になって犯罪とならない不合理は、なくさなければなりません。
また、刑事司法の実務では、加害者が「被害者の同意があった」、「被害者が不同意ではないと思った」などと誤認していれば、安易に故意を阻却している問題が起きています。加害者が被害者から同意を得たか否かを確認するための段階を踏んだことを構成要件とする、この事実について立証を求めるなど、改善が必要です。
――「暴行・脅迫要件」を撤廃し、同意要件を新設、地位関係利用型を犯罪化し、不同意の性交を処罰化するよう法改正を進めます。
――性交同意年齢を16歳に引き上げ、子どもへの性暴力は罪を加重します。子どもが被害者の場合は時効を停止するなどの見直しを行います。
欧州評議会のイスタンブール条約の批准を視野に、法改正を進めます
イギリス性犯罪法(2003)では、レイプ罪の成立を「被害者が同意しなかったこと」「加害者は被害者が同意していると合理的に信じていないこと」と規定しています。
スウェーデン刑法(2018)では、「自発的に参加していない者と性交をし、」「相手方が自発的に性的行為に参加しているか否かの認定にあたっては、言語、行動その他の方法によって、自発的関与が表現されたか否かに特別の考慮が払われなければならない」とし、さらに、過失レイプ罪では「自発的に参加していなかったことについての注意を著しく怠った場合」を規定しています。
日本の刑法が長年参考にしてきたドイツ刑法も2016年改正で「暴行・脅迫要件」を撤廃し、「他者の認識可能な意思に反して性的行為を行った者」は強姦罪が成立します。
欧州評議会のイスタンブール条約(女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンスの防止及びこれとの闘いに関する条約、2011年)は、性暴力を「同意に基づかない性的行為」と規定し、処罰化を求めています。
――諸外国の先行事例を参考に、イスタンブール条約の批准を視野に入れた法改正を行うよう求めます。
警察、検察、裁判で、被害者の尊厳を守ります
ジャーナリスト・伊藤詩織さんの著書『BLACK BOX』では、被害者に対するとは思えない、警察の過酷な事情聴取の様子が描写されています。裁判では、事件とは関係のない、被害者の過去の性的な経験などプライバシーの暴露が行われています。これでは、加害者の処罰を望んでも、よほどの勇気がなければ訴え出ることはできません。
――性犯罪の捜査体制を強化し、事情聴取の専門的な訓練を受けた警察官、検察官の養成や配置を進め、一連の刑事手続きにおいて被害者の尊厳を守ることを求めます。
――裁判の立証において、被害者の過去の性的な経験、傾向を用いてはならないとするレイプシールド法の確立をもとめます。
――性暴力の深刻な被害実態を、司法関係者をはじめ社会全体の認識に高めるための取り組みを強めます。
加害者の更生プログラムを強化します
――性暴力の加害者への更生プログラムの実施と強化に取り組みます。
――刑事施設内での処遇をはじめ、施設外の民間の取り組みを支援します。
公教育に人権・ジェンダー視点に立った包括的性教育を位置づけます
JKビジネス、AV出演強要など、子ども・若者が性被害のリスクにさらされています。相談や啓発の強化が必要です。
同時に、性犯罪やジェンダーに基づく暴力は、根強く残る男尊女卑の社会通念に起因しています。被害を未然に防ぎ、根絶していくために、暴力を生む社会通念そのものを取り除くためのジェンダー平等教育を推進する必要があります。
――子どもや女性を「性の商品化」するビジネスの法規制、相談や啓発の体制を強化します。
――科学的な根拠に基づいた包括的性教育を推進する『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』(ユネスコ)にもとづき、人権・ジェンダーの視点に立って、子ども・若者の発達・年齢に適した知識、態度、スキルの獲得を可能にする性教育を、公教育に位置づけることを求めます。
性暴力被害者支援法を制定し、性暴力ワンストップ支援センターの充実をはかります
内閣府「男女間における暴力に関する調査」(2020年度)で「無理やり性交等をされたことのある」女性は1,803人の回答者の6.9%にのぼります。人口比で考えると、1年間に6~7万人が被害を受けていると推計されます。
上記で被害を受けたと答えた人のうち、58.9%が「誰にも相談しなかった」と答えています。多くの被害者は「恥ずかしい」「自分さえがまんすれば」などと、どこにも誰にも相談できず、警察にも病院にも支援センターにもつながることができずにいるのです。しかし、性暴力は、心身に長期に深刻なダメージを与え、被害を思い出し、異性に対する恐怖心を持つなど日常生活にも支障をきたします。被害者が早期に支援につながれることは、その後の被害回復、生活再建にとってきわめて重要です。社会全体に、「被害者は悪くない」「性暴力は加害者が悪い」のメッセージを打ち出し、全国どこでも1か所で十分な支援を受けられる体制を整備する必要があります。
また、男性の性暴力被害者や、障害者、外国人、性的マイノリティ当事者などが相談しやすい体制の充実も、求められています。
性暴力被害者が相談できるワンストップ支援センターは、2021年2月現在、全国のすべての都道府県、52カ所に設置されています。国連の指標である「女性20万人に1カ所」と照らすと、日本はまだ約6分の1です。
また、急性期の被害者に医療的ケア(緊急避妊、感染症予防など)、証拠保全を行える病院拠点型センターや、24時間365日対応のセンターは、それぞれ20カ所程度にとどまっています。各県に病院拠点型センターを最低1か所設置する必要があります。
政府はワンストップ支援センターの24時間化を進めるとして、今秋から夜間休日のコールセンターを設置するとしています。しかし、被害者から遠いところにあるコールセンターで適切な支援ができるのか、専門家から懸念の声もあがっています。
ワンストップセンターの予算不足も深刻です。「しんぶん赤旗」の調査によると、国による交付金は運営費の2分の1、医療費の3分の1と定められていますが、実際の運営にかかる経費は交付金の上限額を上回り、4年間で3億円近くも不足していることが分かりました。多くのセンターは脆弱な財政基盤の下、医師の多忙と低賃金のスタッフ、ボランティアの熱意に支えられている現状です。
性暴力からの回復へ、被害者が速やかにつながることができるよう、国は抜本的に予算を拡充し、支援体制を強化すべきです。
日本共産党は野党共同で、2018年6月、衆議院に「性暴力被害者支援法案」を提出しました。法案の成立に力を尽くし、センターの充実をはかっていきます。
リベンジポルノ、SNSでの誹謗中傷などオンライン暴力への対策を強化します
「昔の交際相手に、性的な写真をSNSにアップされた」「女性がSNSで意見を主張すると、誹謗(ひぼう)中傷や殺害予告などが殺到」――オンライン上の暴力は、被害者を精神的に追い詰め、命すら奪いかねない重大な人権侵害です。
国連人権理事会は2018年6月、女性が安全にネットを使用し、暴力や威嚇を受けないことを確保するための勧告を採択しました。また、フランスではこれに先立ち、2017年11月、首相直轄の諮問機関「女男平等高等評議会」が勧告「女性に対するオンライン暴力の不処罰をなくす」を提出、立法強化や被害者保護の充実などを提起しています。
女性に対するオンライン暴力の不処罰をなくす――フランスの諮問機関勧告(全文) - 日本共産党 個人の尊厳とジェンダー平等のための JCP With You
――オンライン上の暴力について、通報と削除の仕組みを強化し、被害者のケアの体制をつくります。
DV防止法を改正し、被害者保護と加害者更生を強めます
コロナ禍のもと2020年度のDV相談件数は、全国で19万件を超え前年度の1・6倍となりました。10代~20代の交際相手からの暴力は、配偶者によるDVと同様増えました。
DV防止法の中核的な制度である「保護命令」の発令件数は減少し続けています。「保護命令」は、被害者の申し立てで裁判所が加害者に被害者への接近禁止等を命ずるものです。これが使われずに減っているのは、「保護命令」できる暴力の範囲が、身体的暴力と生命等への脅迫に限定されているためです。
実際のDV相談では、「暴言」や「無視」などの精神的DVが6割を超え、経済的DVや望まない性行為などの性的DVも増えています。「暴力を寸止めして威嚇するなど、加害者も暴力を選んでいる」、「アザがあるなど緊急性がないと警察が動かず支援につなげないことも多い」などの実態が報告されています。支援者・支援団体からは、DV防止法の対象となる暴力の範囲の拡大の要望が強くあがっています。
また、「保護命令」は出るまでに一定の時間がかかります。加害者にすぐに自宅周辺への接近を禁止するなどの「緊急保護命令」の創設が急務です。
被害者の生活再建の一歩となる「一時保護」の件数も、減少の一途をたどっています。一時保護所は、売春防止法に法的根拠がある婦人保護事業を転用したものです。入所の要件や基準が県によって違い、所持金や病気の有無、退所後の見通しのチェック、外出などの規制、集団生活など、高いハードルによって、複合的な困難を抱える被害者が入所できない、入所につながらない要因となっています。
支援に携わる人たちが何より求めているのは、「被害者が逃げる選択しかない制度」を変えることです。困難も多様化、複合化する中で、ニーズに沿った切れ目ない支援を行うことが必要であり、逃げられない、逃げないDV被害者をどう支援するのかが課題となっています。
――DV防止法を改正し、保護命令の対象や期間の拡大、緊急保護命令の導入をすすめます。
――国の予算を増やし、関係諸機関との連携協力・ネットワークづくり、配偶者暴力相談支援センターの増設、24時間相談体制の確立などをすすめます。民間への財政支援と関係機関との対等な連携をすすめ、切れ目のない支援体制を確立・強化します。
――民間シェルターへの委託費、運営費への財政的支援を強め、施設条件の改善をすすめます。中長期滞在できるステップハウスへの助成、公営住宅への優先入居など、被害者の自立、生活再建のための支援を強めます。
――DV被害者や子どもの心身のケアをふくめ専門スタッフの養成・研修の充実、警察内での教育の徹底などをすすめます。
――加害者更生プログラムの制度化など、加害者更生対策をすすめます。
――虐待や貧困、性的搾取などの困難を抱える若年女性への支援を強化します。民間の被害者支援団体、婦人保護施設、児童相談所や一時保護施設などの公的支援サービスへの予算を拡充し、安定した継続的な支援を可能にするための条件を整備します。
――生活困窮、DV、社会的孤立、性的搾取など、さまざまな困難を抱える女性たちの支援法を制定します。婦人相談所・婦人保護事業は、根拠法が「売春防止法」で、女性の人権の理念に欠けています。根拠法を支援法に改め、人権と尊厳を尊重し、十分な支援が行えるようにします。