24、薬物依存症
危険薬物の実効ある規制、薬物依存症の治療・回復をすすめます
2021年10月
国内における覚せい剤、大麻、MDMA(合成麻薬)、危険ドラッグ、コカインなどの使用経験者は推計で318万人にのぼり(「薬物使用に関する全国住民調査」2019年)、薬物乱用と依存症の拡大が日本社会の大問題となっています。
覚せい剤事犯の検挙人数は毎年1万人前後で、再犯者率も6割を超えるなど、覚せい剤の被害は深刻です。一時、大きな問題となった危険ドラッグの使用者は、2014年の薬事法改正による規制の強化で減少していますが、その一方で、大麻の使用者が急増しています。国外からの流入防止や、警察による販売組織の摘発と同時に、乱用薬物を許さない社会的な取り組みが求められます。
日本では “薬物依存は犯罪”という側面だけがクローズアップされ、「薬物に手を出してはいけない」という啓発(第1次予防)が盛んな一方、早期発見・早期治療(第2次予防)、社会復帰(第3次予防)の体制がきわめて弱いのが実態です。薬物依存症を扱う医療機関は少なく、薬物依存症者の多くは刑務所で“治療”を受けています。薬物依存症者の回復・社会復帰は民間リハビリ施設が献身的に担っていますが、薬物依存症者とその家族の多くは、社会から孤立し疎外され、家庭崩壊や自殺に追い込まれるケースも少なくありません。
日本共産党は、覚せい剤、大麻、危険ドラッグなどによる薬物被害をくい止めるため、実効ある規制の実施、検査体制の拡充をすすめます。薬物依存症を治療する医療・福祉の体制整備を進めます。
検査体制の拡充
薬物を法律で規制するには、どういう薬物が入っているかを明らかにする「同定」、その薬物を鑑定するための「標準品」合成、「標準品」による薬理データの採取、その薬理データに基づく禁止の判断――というプロセスが必要ですが、日本で「同定」を行える機関は、国立医薬品食品衛生研究所(衛研)と一部の研究機関に限られ、少人数体制で膨大な検査に追われる状況が続いています。アメリカには国立の薬物乱用研究所があり、100人以上の研究者が働いています。ヨーロッパでも、EUが費用を出し、各国の薬物情報を共有する機関を持っています。新たなドラッグが開発されるなか、違法薬物を的確に指定し、所持者や販売者を取り締まっていくには検査体制の充実が必要です。
危険薬物の検査体制の拡充を図ります。「衛研」など専門機関の予算増額と研究員の増員、他分野の研究者への協力要請など、分析体制の強化に向けた手立てをとります。
薬事監視員の増員、販売業者の摘発強化
麻薬取締部と連携して、違法薬物の取り締まりにも大きな役割を果たしている、薬事監視員の増員をすすめます。
店舗販売への取締りが強化されるなか、販売業者がネット販売に潜行する動きを見せています。ネット販売・虚偽広告への規制をさらに強めます。
薬物依存症の治療の推進、福祉の拡充
「WHO診断基準」や精神保健福祉法にも定義されているとおり、薬物依存症は精神障害の一つです。薬物依存症者の対応がもっぱら刑務所に任されている現状をあらため、治療・リハビリ・社会復帰の体制を強めます。
医療機関が薬物依存症者を入院治療で受け入れる際の診療報酬を加算し、薬物依存症を治療する病院を増やします。「認知行動療法」を用いた治療・回復プログラムの普及など、治療・回復支援策の開発をすすめます。精神保健福祉センターの機能強化を図り、民間リハビリ施設との連携を推進します。薬物依存症患者の多くが利用する生活保護の削減・改悪に反対し、改善を求めます。
薬物への正しい知識普及、社会的克服の取り組みをすすめる
覚せい剤、麻薬、危険ドラッグなどの危険性や薬物依存症についての正しい知識の普及を進めます。
ネット上では、「日本以外の国で大麻は自由」など誤った情報が氾濫していますが、実際には、大麻の有害性はWHO(世界保健機関)でも確認され、大麻所持を規制する国際条約に加盟する国は180カ国を超えています。米国は連邦法で大麻を禁止しており、ヨーロッパにも「嗜好用」の大麻所持を合法化している国はありません。UNODC(国連薬物犯罪事務所)は、大麻の有害性はコカインやヘロインの植物性薬物と大差なく、大麻を「ソフトドラッグ」と扱うのは誤りであると指摘し、加盟国に実効力ある禁止措置を求めています。
この間、乱用薬物が急速に拡大する背景について、多くの論者が、職場や学校におけるストレス増大、弱いものいじめの風潮のまん延、貧困と格差の拡大など、日本社会に歪みがあると指摘しています。長時間・過密労働や成果主義の是正、職場におけるメンタルヘルスの改善、過度な競争主義教育の是正、社会保障の充実など、人間を大切にする社会への転換をすすめながら、乱用薬物の社会的克服をめざします。