「非正規ワーカー待遇改善法」の提案
――パート、派遣、契約社員、非正規公務員、ギグワーカーの皆さんへ 明日に希望が持てる、人間らしい労働条件とジェンダー平等の働き方の実現へ
2023年10月18日 日本共産党
先進国のなかでも劣悪な日本の非正規雇用
日本の非正規雇用者はこの20年で約1・5倍、650万人も増加し2101万人に達しています。賃金は正規雇用者の67%にとどまるうえに、ボーナスや各種手当の不支給などの格差もあり、年収200万円以下のワーキングプア(働く貧困層)を形成しています。非正規雇用の増加が低賃金構造を拡大し、日本を「賃金の上がらない国」にし、経済の長期停滞の大きな原因になっています。また非正規雇用の7割が女性であり、男女賃金格差の大きな要因になっており、ジェンダー平等を阻害しています。
EU(欧州連合)でも非正規雇用は増加しましたが、「同一価値労働同一賃金」、「均等待遇」などの労働者保護をすすめ、待遇改善と格差の是正をはかってきました。韓国でも、非正規雇用の問題は長い間、後回しにされてきましたが、2000年代に入り、政治主導で待遇改善をすすめ、非正規から正規への転換も推進しています。
ところが自民党政治は、財界の求めに応じて非正規雇用を野放図に拡大しておきながら、労働者保護はなおざりにしてきました。その結果、日本では正規と非正規の格差が拡大し、非正規雇用者は無権利状態に置かれたままで、雇い止めも横行しています。日本の非正規雇用者は先進国のなかでも劣悪な労働環境におかれていると言わなければなりません。
日本共産党は、最低賃金を時給1500円、月収で手取り20万円程度に引き上げる、そのために中小企業の賃上げへの直接支援を10兆円規模で行う提案をしています。今回、これに加え、賃上げと待遇改善を持続的にすすめるために、「非正規ワーカー待遇改善法」(仮称)を提案します。この提案を力に、非正規ワーカーのみなさんをはじめ、労働組合や野党、幅広い市民のみなさんとの対話と共同を発展させ、非正規ワーカーの待遇改善をはかる法案を実現したいと考えています。
※ここでいう非正規ワーカーとは、パート、派遣、契約社員、非正規公務員、ギグワーカー、フリーランスなど非正規で働く人たちのことであり、「待遇改善法」とは、労働基準法、労働契約法、労働者派遣法、パート・有期労働法、男女雇用機会均等法、地方公務員法、国家公務員法など関連法の改正案の総称です。
「非正規ワーカー待遇改善法」でここを変えます
EUやILO(国際労働機関)条約などで確立している「同一価値労働同一賃金」、「均等待遇」など労働者保護の国際基準を日本でも確立し、非正規ワーカーの待遇を抜本的に改善します。
――不当な雇い止め、解雇をなくし、非正規ワーカーの雇用の安定をはかります
違法・脱法的な解雇・雇い止めをやめさせます。雇用は期間の定めのない直接雇用を原則とし、1年以上の有期雇用は無期雇用に切り替えるなど、短期の雇用契約を繰り返し、いつでも雇い止めできる働かせ方をなくします。
急増するギグワーカーやフリーランスなど「雇用関係によらない働き方」で働く非正規ワーカーの労働者性を認定し、労災補償などの保護をすすめます。「シフト制」で働く人を守るため、使用者に「最低労働時間」「最低保障賃金」を明示することなどを義務付けます。
――非正規ワーカーへの差別・格差をなくします
非正規雇用を理由とする賃金・労働条件の差別を禁止します。「雇用形態・賃金格差公示制度」を導入し、企業に、正規・非正規の構成比と賃金格差、男女別の構成比と賃金格差を公表するよう義務付けます。多くの非正規ワーカーは仕事に誇りを持ち、なくてはならない役割を担っているにもかかわらず、賃金でも、労働条件でも、不当な差別と格差を押しつけられています。非正規への不当な差別・格差をなくすことは、希望する非正規ワーカーの正社員化をすすめる力にもなります。
――非正規雇用の待遇改善でジェンダー平等をすすめます
正規雇用の男性の賃金を100とすると非正規雇用の男性の賃金は70ですが、非正規雇用の女性は56にすぎません(所定内賃金、10人以上企業)。
女性が非正規雇用の7割を占め、男性より賃金が低い理由は、性別役割分業を前提とした雇用慣行にあります。戦前、戦後をつうじ「男性が働いて妻子を養い、女性は家事・育児を担う」ことが当然視されてきました。パートタイム労働やケア労働も女性が就労する家計補助的な働き方と位置づけられ、賃金をはじめさまざまな格差が容認されてきました。
コロナ禍でも休業などの影響が大きかった飲食・宿泊業界では働き手の6割を占める非正規の女性が解雇、雇い止めの対象にされました。家事・育児の負担が女性に偏るもとで一斉休校が実施されたため、特に非正規の女性が失職や休職を余儀なくされました。
これらは非正規という雇用形態をつうじた女性差別に他なりません。非正規雇用の拡大がジェンダー平等を阻害してきたのです。非正規雇用の待遇改善は、性別役割分業による女性差別をなくし、ジェンダー平等を実現するうえでも重要な課題です。
――国、自治体が率先して非正規雇用の待遇改善をすすめます
新自由主義が台頭するもとで公共の役割と責任が縮小・放棄され、業務の民間委託と公務員の大幅削減がすすめられました。しかし行政にたいする国民や住民のニーズが減少したわけではなく、正規公務員を削減する代わりに非正規公務員の増員が行われてきました。その結果、現在、公務員全体の約3割が非正規公務員となっています。
しかし非正規公務員は、無期転換ルールや雇い止め法理の適用もなく、多くの人が「官製ワーキングプア」と言われる低賃金で働いており、しかもその大半は女性です。国や自治体自身がワーキングプアと雇用形態をつうじた女性差別を拡大してきたのです。このことを深く反省し、国、自治体が率先して非正規雇用の待遇改善をすすめます。
「非正規ワーカー待遇改善法案」(骨子)
(1)不当な雇い止め、解雇をなくし、非正規ワーカーの雇用の安定をはかります
有期雇用契約、派遣労働を臨時的・一時的業務に限定するとともに、有期雇用契約期間の上限を1年に制限し、不安定な短期反復雇用をなくします
1年以上の有期雇用は期間の定めのない雇用契約に切り替えます。雇用は期間の定めのない直接雇用を原則とし、有期雇用は合理的理由がある場合に限定します。労働基準法の有期雇用契約期間の上限を1年とし、派遣受け入れ期間の上限と無期転換ルールの要件も1年とします。違法・脱法的な解雇・雇い止めをやめさせます(労働基準法、職業安定法、労働者派遣法、労働契約法等の改正)。
フリーランス、ギグワーカーなどの保護法制を確立します
この間、フリーランスやギグワーカーなど「雇用関係によらない働き方」が急増し、従事者は460万人を超えています。しかし個人請負方式で仕事の発注者との雇用契約でないことを理由に労働法制の保護の対象外にされ、低賃金、無権利の状態に置かれてきました。2023年4月に成立した「フリーランス取引適正化法」も公正な取引を確保するための最低限必要なルールにすぎません。労働者としての保護法制を早急に確立します。
――労働者性の判断基準を見直し、労働者としての認定をすすめます
テレワークやプラットフォームビジネスなど、時間や場所などの拘束性が低い働き方が増えるなか、世界では個人請負方式であっても仕事の指示関係などによって広く労働者性を認める方向になっています。ILOの「雇用関係勧告(第198号)」(2006年)は、フリーランス、ギグワーカーなどの労働者性の認定と権利の保護を求め、EU各国、アメリカ、韓国ではその具体化がすすんでいます。
日本でも、1985年の「労働基準法研究会報告(労基研報告)」の労働者性についての狭い判断基準を見直し、より広く労働者性を認めて、実態は労働者であるのに労働者性が認定されない事態(誤分類)をなくします。一定の指標に該当する場合に労働者性を推定する法改正や一定の指標の存在をもってプラットフォーム企業を雇用主と法的に推定する法改正を行います(「労基法」等の改正)。
――労災補償を実現・拡充します
企業が保険料負担も含めてフリーランスやギグワーカーの労災に責任を持つ仕組みをつくり、労災補償を実現・拡充します(「労基法」等の改正)。
――団結権、団体交渉権、ストライキ権を保障します
労働組合を結成して団体交渉・ストライキを行う権利を保障し、賃金の最低保障や休業手当の支給などを制度化します(労働組合法等の改正)。
「シフト制」ワーカーの待遇改善をはかります
パートやアルバイトなど「シフト制」で働く非正規ワーカーは、会社の都合で一方的にシフトが決定され、「シフトが減らされて収入が減った」、「シフトが急に取り消しになっても補償がない」など不安定な状況に苦しんでいます。シフトは使用者と雇用者の合意のもとに作成し、労働条件に「最低労働時間」「最低保障賃金」を明示することを使用者に義務付けます。その際も、雇用者の都合でシフトを断れる場合を明記し、働く者の権利を保障します(「労基法」、パートタイム・有期雇用労働法等の改正)。
(2)非正規ワーカーへの差別・格差をなくします
「同一価値労働同一賃金」、「均等待遇」の具体化を法律に明記します
ILO条約(第100号)にもとづき、「同一価値労働」、「均等待遇」を、企業の恣意(しい)的な判断ではなく、客観的な基準にもとづいて評価し、非正規雇用を理由とする賃金・労働条件の差別を禁止します(「パート・有期労働法」、「派遣法」、職務待遇確保法等の改正)。
「雇用形態・賃金格差公示制度」を導入します
韓国では2014年から企業(従業員300人以上)にたいし、正規と非正規の構成比など雇用形態の公示を義務付け、非正規雇用者の待遇改善や正規化の促進に役立てています。欧州議会でも2023年5月、男女賃金格差や採用時の賃金情報等の提供を義務付ける「EU賃金透明性指令」が成立しています。男女の賃金格差の公表が始まりましたが、さらにすすんで「雇用形態・賃金格差公示制度」を導入し、常用労働者数301人以上の企業にたいして、正規・非正規の構成比と賃金格差、男女別の構成比と賃金格差を公表するよう義務付けます。また企業が正規・非正規、男女の賃金格差を是正する計画を作成・公表し、その履行を国が指導・督励する仕組みをつくります(「労基法」、「パート・有期労働法」、「派遣法」、男女雇用機会均等法等の改正)。
(3)「家族的責任」などジェンダー平等を促進する国際基準、ハラスメント禁止を法律に明記します
家計補助ではなく、家計の主たる担い手となる非正規雇用の女性が増えています。非正規で働く女性のうち世帯主、単身者は約2割、288万人になり、とくにシングルマザーの非正規比率は42%で、シングルマザーを中心に明日の食事にも困窮する事態に陥っています。
「家族的責任」、「母性保護」を法律に明記します
ILOの「ジェンダー平等に関する一般調査報告書」(2023年6月)は、雇用環境のすべてにおいてジェンダー平等を前進させることが必要であると強調し、賃金差別の是正だけでなく、家族の育児や介護にたいする責任(家族的責任)を男女ともに果たせるような機会と待遇を実現することや、妊娠、出産、産後、授乳時期を含む母性保護の実現を求めています。日本でも「家族的責任」、「母性保護」を法律に明記します(「労基法」、「均等法」等の改正)。
非正規ワーカーも育児、介護休業を受けられるようにします
非正規ワーカーも育児、介護休業を取得できるように雇用継続期間の要件などを見直します。また、雇用保険の加入要件を見直し、所得保障を受けられるようにします。育児休業の所得保障を1年間は休業前の手取りの所得を補償する水準に引き上げます(育児介護休業法、雇用保険法等の改正)。
パワハラ、セクハラなどあらゆるハラスメントを一掃します
ILOは、2019年に「労働の世界における暴力とハラスメントを撤廃する条約」(190号条約)を採択し、ハラスメントが女性の労働参加と定着を阻害する恐れがあると指摘しました。とくに日本では非正規ワーカーに対する雇い止めを脅しのように使ったパワハラ、セクハラが横行しています。ハラスメント行為を具体的に法律で定義し禁止します。とりわけ母性保護の観点からも妊娠、出産を契機に雇い止めにするマタニティーハラスメントは絶対に許しません。厳しい罰則も合わせた禁止措置をとります(「育介法」、「均等法」、労働施策総合推進法等の改正)。
「家族的責任」と「母性保護」のためにも長時間労働を是正します
家族的責任を果たすためには、男性と女性、正規と非正規を問わず、長時間労働の是正をすすめることが必要不可欠です。また女性が妊娠・出産後も同じ仕事が続けられるように、長時間労働や転勤を前提とした正規雇用のあり方を見直します(「労基法」、「育介法」等の改正)。
(4)国・自治体が率先して非正規雇用の待遇改善をすすめます
公共の役割を縮小・放棄し、公務員削減一辺倒、非正規雇用を拡大してきた新自由主義のやり方では、国民、住民要求に応えることも、貧困をなくし経済を再生することも、ジェンダー平等を実現することもできません。今こそ公共の役割を取り戻し、必要な正規公務員を増やすとともに、国、自治体が率先して非正規雇用の待遇改善をすすめます。
エッセンシャル、ケアワークなど住民の命とくらしに関わる正規公務員を増やします
医療、保健、福祉・介護・保育などのエッセンシャルワーク、ケアワークにたずさわる公務員や災害対策、公共交通に従事する公務員を増やす必要があります。教員も臨時教員・非常勤講師など非正規を拡大するのではなく、正規教員を増やします。
恒常的な仕事は正規公務員が担うことを原則とするとともに、現にその仕事に長年従事してきた非正規公務員が希望する場合には、正規公務員への採用の道を開きます(各自治体の定数条例、行政機関職員定数法等の改正。運用による改善も可)。
国、自治体などで働く非正規公務員、労働者の時給をただちに1500円以上に引き上げます
国、自治体で働く非正規公務員や関連団体で働く労働者、委託業務に従事する労働者の時給をただちに1500円以上へ引き上げます(地方公務員法、一般職給与法等の改正)。このことは地域経済の好循環を生み出す契機にもなります。
正規雇用と非正規雇用の格差を是正します
民間の男女間賃金格差は正規雇用の男性を100とすると非正規の女性は56ですが、公務員は正規の男性を100とすると非正規の女性は43と大きな格差があります。ジェンダー平等を実現するためにも正規と非正規、男性と女性との格差を是正します。非正規公務員の賃金は昇給制度があっても上限がありますが、正規職員の俸給表に格付けすることによって賃金を引き上げられるようにします(「地公法」、国家公務員法の改正および関連する給与法等の改正)。
会計年度任用職員制度を早急に改善します
会計年度任用職員は会計年度ごとの1年契約を原則とする非正規公務員です(更新は2回まで、3回目は公募)。会計年度任用職員制度は、期末手当を支給するなど非正規の待遇改善を名目として2020年4月から導入されたものですが、実際には待遇改善につながっておらず、公務労働の多くを非正規公務員が担うことを固定化する役割を果たしています。
会計年度任用職員はフルタイム、パートタイムなどを合わせると全体で約90万人、うち女性は約8割の70万人を超えます。保育士、看護師、介護士、司書、消費生活相談員、婦人相談員、調理師、栄養士など女性が多くを占める専門的な資格職ほど非正規化がすすみ、会計年度任用職員となってきました。しかし年収200万円未満の人が6割も存在し、しかも職員の4分の1は家計の主たる担い手であり、そのほとんどは女性です。
まさに自治体自身がワーキングプアと女性差別をつくりだしており、早急に待遇改善をはかる必要があります(「地公法」、地方自治法等の改正)。
――無期雇用への転換をすすめ、「公募ルール」を廃止します
民間の非正規労働者に適用されている労働契約法に準じ、会計年度任用職員も本人が希望する場合、無期雇用への転換をはかります。また現行の「公募ルール」は長年勤めてきた会計年度任用職員をあらためて新規採用と一緒に「公募」に応募させようというものです。現場では雇い止めの道具に使われるほか、これまでの仕事が評価されず、人間としての尊厳も奪っています。安心して長く働き続けられるように「公募ルール」を廃止し、公募は新規採用に限定します。
――期末手当分の月例給与の引き下げをただちにやめさせます
待遇改善を名目に期末手当が会計年度任用職員に支給されることになりましたが、大半の自治体は、期末手当を支給する分、月例給与を引き下げてしまいました。制度の趣旨に反する行為であり、ただちにやめるべきです。
また2024年度から支給可能とされる勤勉手当についても、月例給与を引き下げることなく、年収ベースの賃金増加につながるものにし、評価制度をつうじたパワハラや雇い止めの口実に使われることのないようにします。
――フルタイムとパートタイムの差別、格差をなくします
会計年度任用職員にはフルタイム職員とパート職員があります。規定上は1週間あたりの通常の勤務時間が正規公務員より1分でも短いだけでパート職員とみなされ、フルタイムに支給される退職手当などが支給されないなどさまざまな差別があります。不合理な差別、格差をただちに解消します。
国の期間業務職員制度、非常勤職員の待遇を早急に改善します
期間業務職員制度も、公務労働の多くを非正規公務員が担うことを固定化し、更新3回目の公募を制度化するなど会計年度任用職員制度と同様の問題があります。無期雇用への転換の実現と「公募ルール」の即刻廃止、期末手当分の月例給与の引き下げをやめさせます。国の公務労働においても正規と非正規の「均等待遇」を早急に実現していきます(「国公法」、「給与法」等の改正)。