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日本共産党

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赤旗

東アジアの平和構築への提言――ASEANと協力して

志位和夫議長の講演

2024年4月17日 中央委員会議長 志位和夫

 日本共産党の志位和夫議長が4月17日、衆院第1議員会館で行った「東アジアの平和構築への提言――ASEANと協力して」と題する講演は次の通りです。(英語訳はこちら➡


 みなさん、こんにちは。ご紹介いただきました日本共産党の志位和夫です。ご参加いただいた各国の駐日大使館のみなさん、各界・各分野のみなさん、オンライン中継をご覧の全国のみなさんに、心からの感謝を申し上げます。

 私たちのすむ東アジアでは、経済的、人的、文化的な交流が目覚ましく発展し、相互依存が強まり、諸国民は平和を強く求めています。一方、大国間の対抗が強まるもとで、さまざまな紛争・緊張・対立が存在しています。

 どうやって戦争の心配のない東アジアをつくるか。軍事に軍事で対抗するならば、不信と恐怖の悪循環に陥り、誰ものぞまない戦争への危険をつくりだします。外交の可能性をとことん追求し、外交による平和構築に徹することが必要です。この立場から、私は、「東アジアの平和構築への提言――ASEANと協力して」と題して、日本共産党としての外交提言を行いたいと思います。

第1の提言

ASEANと協力して東アジア規模での平和の地域協力の枠組みを発展させる

 第1の提言は、東南アジア諸国連合(ASEAN)と協力して東アジア規模での平和の地域協力の枠組みを発展させることです。

平和をつくる大きな希望――ASEANのとりくみから学ぶ

「分断と敵対」から「平和と協力」への劇的な変化

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 平和をつくる大きな希望は、ASEANのとりくみにあります。

 ASEANは、1976年に武力の不行使と紛争の平和的解決を誓約した東南アジア友好協力条約(TAC)を締結し、この条約を土台に、粘り強い対話の努力を続け、半世紀前には「分断と敵対」が支配していたこの地域を、「平和と協力」の地域へと劇的に変化させてきました。

 日本共産党は、1990年代終わりの時期から繰り返し東南アジア諸国を訪問し、この地域で起こっている「平和の激動」とも呼ぶべき変化を目のあたりにしてきました。直近では、昨年12月、インドネシア、ラオス、ベトナムを歴訪し、ASEANの努力の最新の到達点に接し、平和をつくる多くの英知を学ぶことができました。

 ASEANは「世界で最も成功した地域機構」の一つと言われます。その成功の秘訣(ひけつ)はどこにあるのか。昨年末の東南アジア歴訪での一連の意見交換から私たちが学びとったことを、4点ほどのべたいと思います。

良い"対話の習慣"を育んできた

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(写真)会談にあたり握手する志位委員長(当時)とASEANのエカパブ・ファンタボン事務局次長=2023年12月21日、ジャカルタ市内のASEAN本部(井上歩撮影)

 第一は、良い"対話の習慣"を育んできたということです。

 私たちが、ジャカルタのASEAN本部を訪問して聞きますと、驚くことに、ASEANは、域内で年間1500回もの会合を開いているといいます。それだけの密度で会合を開いていれば、相互理解と信頼醸成がすすみ、紛争が起こっても戦争にはなりません。「対話は多様性の産物だ」ということも語られました。東南アジアの国ぐには、経済発展、政治体制、宗教、民族など、あらゆる面で多様性に富んでいる、多様性のもとで相互理解をはかるには対話をせずにはいられないということでした。

 実現可能な問題を対話によって一つひとつ解決する――「ステップ・バイ・ステップ」ですすんでいることが強調されました。「平等と相互尊重の精神でテーブルにつく」――大きな国も小さな国も、対等・平等で、相互に尊重しあい、コンセンサスでの運営を大原則としてきたことも強調されました。

 こうしてASEANが、長い粘り強い対話を続けることによって、一歩一歩、信頼を醸成し、この地域を平和の共同体に変えたことは注目すべきであります。

「ASEANの中心性」――自主独立と団結を大切にしてきた

 第二は、「ASEANの中心性」を堅持する――自主独立と団結を大切にしてきたことです。

 ASEANは、域外の大国との関係をどう考えているのか。私たちが、こう尋ねますと、「大国の関与を歓迎するが、一方の側に立つことはしない」という答えが返ってきました。自主独立と中立の立場を貫く、「運転席」にはつねにASEANが座る、そのことがASEANの求心性をつくりだし、ASEAN加盟国の団結の保障となっています。さらにそれは域外の大国を引き寄せ、域外の大国がASEANとの関係強化を求めてくる動きが広がりました。「ASEANは求心力があり、立場の対立する国ぐにをそろって快適に感じさせることができる」とも語られました。

 東南アジア地域にも、南シナ海の問題など困難な課題が存在し、加盟国に分断をもたらす動きもありますが、ASEANが、国連海洋法条約と国際法を重視し、忍耐力と柔軟性を発揮して、「中心性」を堅持し、団結を維持してきたことは重要であります。

平和構築と、経済協力、社会・文化協力を一体にとりくんできた

 第三は、平和構築と、経済協力、社会・文化協力を一体にとりくんできたことです。

 意見交換のなかで、「平和と安定があってこそ繁栄がある」ということが繰り返し強調されました。日本の中小業者の団体――民商・全商連のみなさんは、「平和でこそ商売繁盛」がスローガンですが、ASEANの精神も同じだと感じました。

 ASEANは、2015年の首脳会議で、「政治・安全保障共同体」「経済共同体」「社会・文化共同体」からなる「ASEAN共同体」の構築を宣言し、統合を深める努力を重ねています。

平和の地域協力の流れをASEANの域外に広げてきた

 第四は、こうした平和の地域協力の流れをASEANの域外に広げてきたことです。

 「東南アジアの平和のためには、北東アジアなど域外諸国の平和が不可欠だ」ということが強調されました。

 ASEANは、2005年に、ASEAN10カ国+日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの6カ国で東アジアサミット(EAS)を創設しました。その後、2011年に、米国とロシアが加入し、現在、東アジアサミットには18カ国が参加し、「東アジアの平和、安定と経済的繁栄の促進」を目的として対話と協力をすすめる首脳主導のフォーラムとして発展しています。

 この動きと同時並行で、ASEANは、域外諸国と東南アジア友好協力条約(TAC)を締結する努力を続けてきました。この動きは21世紀に入って目覚ましく広がり、現在、TACを締結した国は53カ国・1地域機構に地球的規模へと拡大し、24年には初の締約国会議が開催されます。

「核兵器のない世界」に向けた先駆的役割

 私たちは、被爆国の政党として核兵器廃絶の活動にとりくむとき、ASEANが果たしている積極的役割をつねに心強く感じてきました。1995年に東南アジア非核地帯条約が成立し、ASEANは核保有国に議定書への署名を求めて、働きかけを続けています。核兵器禁止条約の成立と発効のうえでも、多くのASEAN諸国は先駆的役割を発揮しています。

 こうして今日、ASEANは、世界平和の一大源泉となっています。私は、そこには多くの学ぶべき外交の英知があると考えるものであります。

最新の到達点――「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)

 こうした平和の地域協力の流れを域外に広げるとりくみの最新の到達点が、2019年のASEAN首脳会議で採択された「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)です。それは概略、次のような構想であります。

●対抗でなく対話と協力、発展と繁栄のインド太平洋地域をつくる。

●東アジアサミット(EAS)など現行の枠組みを、対話と協力のプラットフォームとして活用・強化する。

●紛争の平和的解決を定めた東南アジア友好協力条約(TAC)を平和の指針とし、東アジア全体で推進する。

●海洋協力、人と物の交流、国連SDGs、経済協力など、4分野で協力をすすめる。

 AOIPは、ASEANが東南アジアで実現した平和の地域共同体を、東アジア全体に広げようという壮大な構想です。それは私たちの理解では、次の重要な特徴をもっています。

 第一に、TACを平和の指針として東アジア全体の国家間関係に広げていくことと、4分野での実践的な協力によってともに繁栄を築いていくことを、同時並行――いわば「両翼」ですすめるものとなっています。

 第二に、特定の国を排除するのでなく、地域のすべての国を包み込み、包摂する枠組みとして発展することをめざしています。

 第三に、新たな枠組みをつくるのでなく、東アジアサミット(EAS)という現行の枠組みを活用・強化してすすむという現実的な構想となっています。

 こうしてAOIPは、壮大な目標を掲げつつ、現実的で合理的なアプローチをとることによって、東アジアサミット(EAS)参加国の共通の事業になりつつあります。すでにASEANとほとんどのEAS参加国との間でAOIP推進の共同声明が採択されています。2023年9月のEAS共同首脳声明では「AOIPを主流化し実践するASEANのとりくみを支持する」と明記されました。日本共産党は、ここには東アジアに平和を構築する大道が示されていると確信するものです。

東アジアに平和をつくる日本共産党の「外交ビジョン」の提唱

 ASEANによる「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)の提唱という新しい進展をふまえて、日本共産党は2022年1月の党旗びらきで、以下のような東アジアに平和をつくる「外交ビジョン」を提唱し、その実現のために内外で力をつくしてきました。

 いま日本がやるべきは、軍事的対応の強化ではなく、ASEAN諸国と手を携え、「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)の実現を共通の目標にすえ、すでにつくられている東アジアサミットを活用・発展させて、東アジアを戦争の心配のない地域にしていくための憲法9条を生かした外交である。

 いまご紹介したわが党の「外交ビジョン」は次のような特徴をもっています。

 第一に、日本の安全保障に、平和的対案を示すものとなっています。軍事的対応の強化一辺倒の安全保障政策は、軍事対軍事の悪循環をもたらし、逆に地域と日本の平和と安定を脅かすリスクをはらみます。「外交ビジョン」は、外交を中心とした平和的手段によって東アジアに平和を創出しようというものです。

 第二に、「外交ビジョン」は、日本のすすむべき道の提唱にとどまらず、「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)の実現を目標にすえ、あれこれの国を排除するのではなく、地域のすべての国を包摂する平和の枠組みをともにつくっていこうという、日本の政党による国際的な呼びかけでもあります。

 第三に、「外交ビジョン」は、日本国憲法の恒久平和主義、憲法9条の精神に立脚した提案です。ASEANによる平和の地域協力のとりくみは、「人類の社会には紛争は避けられないが、紛争を戦争にしないことは諸国民の英知によって可能だ」という精神に貫かれていますが、これは日本国憲法第9条の精神そのものであります。

「外交ビジョン」の実現をめざす内外での行動

 日本共産党は、「外交ビジョン」の実現をめざして内外で行動をすすめてきました。

トルコ・イスタンブールで開催されたアジア政党国際会議で

 2022年11月、トルコ・イスタンブールで行われたアジア政党国際会議(ICAPP)第11回総会――アジア31カ国、69政党が参加した国際会議に、わが党は代表団を派遣し、AOIPへの支持を訴えるとともに、わが党の「外交ビジョン」の中心的な考え方――東アジアに排他的でなく包摂的な平和の枠組みをつくることを呼びかけました。

 総会が全会一致で採択した「イスタンブール宣言」には、「ブロック政治を回避し、競争よりも協力を強調する」と明記されました。「ブロック政治を回避」するとは、「排他的対応をとらない」ということにほかなりません。ICAPPは、イデオロギーの違いを超え、アジアで活動するすべての合法政党に開かれた平和のフォーラムとして発展してきていますが、「イスタンブール宣言」は、わが党の「外交ビジョン」の方向が、アジアの政党が集う会議の総意になったことを意味するものとなりました。

オーストリア・ウィーンで開催された欧州左翼党第7回大会で

 2022年12月、オーストリア・ウィーンで開催された欧州左翼党第7回大会に、わが党は代表団を派遣し、発言のなかでAOIPの重要性を訴えるとともに、ICAPPが採択した「イスタンブール宣言」を紹介して、「世界でブロック化の傾向が強く懸念されているもとで、アジアのこの声は意義あるものです」と強調しました。NATOとロシアによるブロック対立と分断が深刻化する欧州各国の代表から、「ブロック政治に反対し、すべての国を包み込む発想で平和を築く実践がこの世にあるとは、素晴らしいの一語につきる」など強い歓迎の声があがりました。

東南アジア3カ国――インドネシア、ラオス、ベトナム訪問

 2023年12月の東南アジア3カ国訪問でも、わが党の「外交ビジョン」は、高く評価され、歓迎をもって受け止められました。

 インドネシアのASEAN本部で行った意見交換では、「外交ビジョン」について、ASEANと同じ線に沿っているもので高く評価するとの反応が寄せられました。24年のASEAN議長国・ラオスと、ASEAN加盟国であり国際社会での役割を高めているベトナムで、それぞれの政権党の党首と会談し、協力してAOIPを成功させていくことが確認されたことは、国際政治を前向きに動かすことに現実にコミットするものとして、重要な意義をもつものと考えるものです。

日本政府に対する提起――衆院本会議の代表質問

 日本政府に対して、わが党は、繰り返し「外交ビジョン」を日本外交としてとりくむことを提起してきました。

 私自身、この2年余の期間に、衆院本会議の代表質問で4回にわたって「外交ビジョン」の重要性を訴えてきました。岸田首相は、答弁で、「ASEANの中心性を支持する」「AOIPを強く支持する」と表明しました。わが党は、現政権による軍事的対応の強化の方針を強く批判していますが、日本政府が国会の場でもAOIPへの強い支持を表明したことは重要であります。

 日本政府が、ASEANと経済協力など4分野の協力をすすめていることを、わが党は全体として肯定的に評価しています。そのうえで私が強調したいのは、「AOIPを強く支持する」というならば、経済協力など4分野の協力にとどまらず、憲法9条をもつ国の政府として、「紛争の平和的解決を定めたTACを平和の指針とし、東アジア全体で推進する」というAOIPの精神を、本腰を入れて実践すべきだということであります。平和構築と経済協力など4分野の「両翼」で、ASEANとの協力を発展させることを強く求めるものであります。

 日本共産党は、「外交ビジョン」の実現をめざして、この方向が日本国民の多数の声となるように力をつくすとともに、ASEANとの協力、東アジアの国ぐに・諸国民との協力を粘り強く発展させる決意であります。

第2の提言

北東アジアの諸問題の外交的解決をはかり、東アジア平和共同体をめざす

 第2の提言は、北東アジアの諸問題の外交的解決をはかり、東アジア平和共同体をめざすことです。

北東アジアには東南アジアと比べての困難がある――外交の真髄を発揮して打開を

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 私たちは、昨年末の東南アジア歴訪での一連の意見交換をつうじて、東南アジアには良い"対話の習慣"が根付いているが、北東アジアにはそれが不足していることを痛感しました。なぜか。北東アジアには東南アジアと比較して次のような困難があります。

 軍事を含む大国間の対抗と分断が憂慮すべき事態となっています。

 この地域の国ぐにを包摂する対話の枠組みが現在存在していません。

 朝鮮半島で戦争状態が終結していません。

 日本の過去の侵略戦争と植民地支配に対する反省の欠如という歴史問題が存在します。

 北東アジアに固有の諸問題は、北東アジアの力で解決しなければなりません。その解決方法は、外交しかありません。私たちは、外交の真髄は、国連憲章と国際法の公理に立ちつつ、共通点を見いだし、ともに解決することにあると考えます。それはまた勝者と敗者があってはならず、すべての関係国に利益をもたらすものでなくてはなりません。

 そうした立場で、わが党は、北東アジアの諸問題の解決にとりくんできましたが、今日は、この間のとりくみをふまえ、いくつかの重要な問題についての日本共産党の提案を表明したいと思います。

「日中両国関係の前向きの打開のために」――「日本共産党の提言」

 日中両国関係は、双方にとって最も重要な2国間関係の一つです。ところが現在、両国間には、さまざまな紛争・緊張・対立が存在しています。いかにして日中両国関係の前向きの打開をはかるか。

事態を前向きに打開するうえで三つの点で「共通の土台」が

 日本共産党は、2023年3月30日、「提言」――「日中両国関係の前向きの打開のために」を発表し、日中両国政府にそれぞれ申し入れました。

 私たちは、「提言」作成にあたって、日中両国政府が、1972年の国交正常化以来の50年余に交わしてきたさまざまな合意などをすべて精査しました。そうしますと事態を打開するうえで三つの点で「共通の土台」が存在していることが浮かびあがってきました。

 第一は、2008年の日中首脳会談で交わされた「日中共同声明」で、「双方は、互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない」と合意していることです。

 第二は、尖閣諸島の問題について、2014年の日中合意で、「尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていること」について、日中が「異なる見解を有している」と認識し、「対話と協議」をつうじて問題を解決していくことを確認していることです。

 第三は、日中双方が参加するこの地域の多国間の平和の枠組みについて、ASEANが提唱している「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)に対して、日中両国政府がどちらも賛意を表明していることです。

 こういう三つの点で「共通の土台」が現にあるのだから、それを生かして、両国関係の前向きの打開をはかり、平和と友好を確かなものにしていくための外交努力をはかろう。これがわが党の「提言」の呼びかけであります。

両国政府から肯定的な受け止めが表明された

 「提言」は、わが党の独自の見解や立場を横におき、両国政府に受け入れ可能で、かつ実効あるものにしました。

 私は、日本側は岸田首相、中国側は呉江浩(ごこうこう)駐日大使と会談し、「提言」の内容を申し入れました。両国政府から肯定的な受け止めが表明されたことは重要であります。

 昨年12月のわが党代表団の東南アジア歴訪のさいにも、この「提言」の内容を紹介しましたが、共通して高い評価が寄せられたこともうれしいことでした。

 「提言」発表後、昨年11月に米サンフランシスコで日中首脳会談が1年ぶりに行われました。2008年の日中共同声明で交わされた「戦略的互恵関係」が再確認されたことは、前向きの一歩ですが、あらゆるレベルで対話を継続することが重要です。

「互いに脅威とならない」――双方が緊張と対立を悪化させるような行動の自制を

 日本共産党は、日中両国政府に対し、「提言」を肯定的に評価したことをふまえ、次の具体的対応を求めます。

 第一に、「互いに脅威とならない」との合意を尊重するなら、双方が緊張と対立を悪化させるような行動を自制すべきです。

 日本は、軍事的対応の強化――敵基地攻撃能力保有と大軍拡をやめるべきです。中国は、東シナ海などでの力を背景にした現状変更の動きをやめるべきです。

尖閣諸島問題――紛争を激化させる行動を互いに自制するルールの取り決めを

 第二に、尖閣諸島問題では、2014年の日中合意の具体化を求めます。

 「危機管理メカニズム」を強化するとともに、ASEANと中国が交わしている「南シナ海行動宣言」(DOC)のような、紛争を激化させ、平和と安定に影響を与えるような行動を互いに自制するルールを、日中両国間で取り決めることを提案します。

排除の論理でなく、包摂の論理で、東アジアの平和の枠組みを

 第三に、東アジアの平和の枠組みでは、両国政府がAOIPを支持していることをふまえ、包摂的な枠組みを追求すべきです。

 日本は、中国を排除し、包囲していくブロック的対応をすべきではありません。同時に、この地域の安全保障の枠組みから米国を除外することも適切ではありません。

 米中も含めて地域のすべての国を包摂する東アジアサミットを発展させ、東アジアの平和構築をめざすAOIPを成功させるために、日中両国政府が協力することを求めます。

 日中があらゆるレベルで対話を積み重ね、共通点を重視し、諸懸案をともに解決し、平和と友好の関係をつくるために、日本共産党としても力をつくす決意です。

台湾問題――平和的解決を強く求める

 台湾海峡の平和と安定は、地域と世界の平和と安定にかかわる重要な問題です。この問題がどういう過程をたどるにせよ、日本共産党は、平和的解決を強く求めます。そのさい、台湾住民の自由に表明された民意を尊重すべきであります。

 わが党は、中国の台湾に対する武力行使や武力による威嚇(いかく)に反対します。同時に、日本と米国が軍事的に関与・介入することに反対します。「台湾有事は日本有事」などと主張し、「危機」を過大にあおり立て、大軍拡に利用する動きがありますが、これは台湾をめぐる軍事的緊張の悪循環をつくりだし、誰も望まない戦争のリスクを高めるものであり、厳しく退けることが重要だと考えます。

朝鮮半島問題――いかにして「対話による平和的解決」への転換をはかるか

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 朝鮮半島をめぐっては、朝鮮戦争が終結していないという長年の紛争構造のうえに、この間、緊張と対立が強まり、複雑化しています。

 北朝鮮が、核・ミサイル開発を続けていることは、国連安保理決議に反するものであり、わが党は強く抗議し、その中止を求めます。他方、米韓が大規模軍事演習を続けていることが、軍事的緊張の悪循環を加速させていることを指摘しなければなりません。

 困難は大きなものがありますが、軍事的対抗の悪循環から、朝鮮半島問題の「対話による平和的解決」への方向転換をはかることは、国際社会の急務であります。そのために四つの提案をします。

緊張のエスカレートを止めるために、対話ルートを開くためのあらゆる努力を

 第一に、緊張のエスカレートを止めるために、米朝、南北、日朝が、対話のルートを開くためのあらゆる努力をつくすべきです。

 米朝間、南北間には、2018年の一連の会談を通じて確認された合意があり、日朝間には、2002年の日朝平壌(ピョンヤン)宣言があります。こうした到達をふまえ、対話再開に向けた外交努力を求めます。この点で、昨年来、日朝間で接触の動きがあることは注目されます。

非核化と平和体制構築を一体的、段階的に――2018~19年の教訓をふまえて

 第二に、対話と交渉をどういう原則ですすめるか。

 日本共産党は、2018年4月6日、南北間、米朝間で首脳会談が予定されるという動きを受けて、「非核化と平和体制構築を一体的、段階的に」と題する「関係6カ国への要請」を行いました。その後、同年4月27日の南北首脳会談、6月12日の米朝首脳会談で重要な共同文書が交わされました。しかしその後、残念ながら、合意にもとづく実践が中断され、逆行が起こっています。その全体の教訓を検証してみますと、わが党が「関係6カ国への要請」で提起した次の二つの原則が、今後の対話と交渉を展望したときに、重要になってくると考えます。

 一つは、朝鮮半島の非核化と、北東アジア地域の平和体制の構築を一体的・包括的にすすめることです。

 北朝鮮の核・ミサイル能力の高度化を前にして、北朝鮮を「事実上の核保有国」と認めたうえで核軍縮交渉を行うという議論がありますが、これは核兵器禁止条約に逆行し、核不拡散体制の崩壊につながりかねない危険な議論です。困難はあっても、朝鮮半島の非核化を、関係国の対話と交渉の最大の目標として揺るがずに堅持するべきであります。

 同時に、非核化をすすめるためには、朝鮮戦争の終結をはじめ戦争と敵対に終止符を打ち、地域の平和体制を構築し、北朝鮮を含む関係国の安全保障上の懸念を解決することが不可欠です。両者は一体的に同時並行ですすめてこそ、実らせることができます。

 いま一つ、その実行方法にあたっては、合意できる措置を話し合って、一つずつ段階的に実施して目標に近づいていくことが現実的方法です。

 相互不信がきわめて強いもとで、非核化と平和体制の構築は、目標として合意されても、一足飛びに実現することは困難でしょう。段階的措置によって、相互不信を解消し、一挙ではなく急がずに、信頼醸成をはかりながら、着実にすすむことが唯一の現実的な方法です。

 この点について、2005年の「6カ国協議」共同声明が、「六者は、『約束対約束、行動対行動』の原則に従い、......意見が一致した事項についてこれらを段階的に実施していく」と確認していることは重要であります。

日朝関係――日朝平壌宣言にもとづき諸懸案の包括的解決を

 第三に、日朝関係は、米朝関係、南北関係とは異なり、戦争状態が続いている関係ではありません。同時に、日本として戦後処理――植民地支配の清算が行われていない唯一の国が北朝鮮であり、それを解決するという課題があります。この立場を自覚して、日本政府が事態打開のイニシアチブを発揮することが重要であります。

 日朝関係の改善は、拉致問題という時間的制約のある国際的な人道問題の解決のうえでも、米朝関係、南北関係の改善、地域の平和と安定のうえでも急務です。2002年の日朝平壌宣言にもとづいて、核・ミサイル、拉致、過去の清算など諸懸案を包括的に解決し、国交正常化をはかる努力をすすめるべきであります。

「6カ国協議」の到達をふまえ、6カ国による解決の枠組みをつくる努力を

 第四に、北朝鮮問題解決の「6カ国協議」は、2007年の第6回会合以降開かれていません。しかし、この多国間の枠組みは、問題解決のうえで最も合理的な枠組みであり、国連安保理決議もその重要性を指摘してきました。

 米朝、南北、日朝が、それぞれ対話再開、対話と交渉の努力を強めつつ、2005年の共同声明をはじめ「6カ国協議」の到達をふまえ、6カ国による解決の枠組みをつくる努力をはかることを求めるものです。

歴史問題の解決――戦後80年にあたって日本がとるべき基本姿勢

 歴史問題についてのべます。日本が、過去の侵略戦争と植民地支配にどう向き合うかは、日本とアジア諸国との心がかよう平和、友好、協力の関係をきずくうえで、避けて通ることができない問題であります。来年、2025年は、第2次世界大戦終結後80年となります。この節目の年にあたって日本がとるべき基本姿勢として以下の諸点を提起したいと思います。

1990年代の"三つの重要文書"の核心的内容を継承し、ふさわしい行動をとる

 日本政府は、1990年代に、歴史問題について"三つの重要文書"を明らかにしています。「植民地支配と侵略」への反省を表明した1995年の「村山談話」、日本軍「慰安婦」問題について、軍の関与と強制性を認め、反省を表明した1993年の「河野談話」、韓国に対する植民地支配への反省を表明した1998年の「日韓共同宣言」です。この"三つの重要文書"は、歴史問題に対する日本政府の到達点を示すものとして、国内外から評価されてきました。

 ところが、戦後70年に発出された「安倍談話」は、韓国の植民地化をすすめた日露戦争を美化し、歴史問題を解決ずみのものとみなすなど、"三つの重要文書"からの重大な逆行を特徴とするものでした。戦後80年にあたってこの逆行を清算し、"三つの重要文書"の核心的内容を継承し、それにふさわしい行動をとることを求めるものです。

靖国神社――首相や閣僚、自衛隊幹部の参拝は行わないルールの確立を

 靖国神社は、かつての侵略戦争に国民を動員する精神的支柱とされた神社であり、国政の場にある政治家が靖国神社を参拝することは、侵略戦争肯定の意思表示を意味します。自衛隊幹部による靖国神社参拝は、「政教分離」に反するだけでなく、旧日本軍との連続性を示す危険な逆行であります。少なくとも首相や閣僚、自衛隊幹部の参拝は行わないことを、日本の政治のルールとして確立することを求めるものです。

日本軍「慰安婦」問題、「徴用工」問題――すべての被害者の名誉と尊厳の回復を

 日本軍「慰安婦」問題は、日韓両国政府によって一定の措置がとられてきましたが、解決にいたっていません。その根本には、過去の誤りへの反省を自らの言葉としては語ろうとしない日本側の姿勢があります。「徴用工」問題では、日本政府、当該企業は被害者に謝罪や反省を表明していません。それは、この問題を植民地支配と結びついた重大な人権侵害ととらえようとしない姿勢と結びついたものです。

 こうした姿勢を根本からあらため、すべての被害者の名誉と尊厳が回復されるまで政治の責任を果たすことを求めるものです。

世界史の流れにたち、侵略戦争と不法・不当な植民地支配の根本的清算にすすむ

 この間、植民地支配と奴隷制度の責任を過去にさかのぼって明らかにし、謝罪を求める動きが、世界的規模で広がっています。2001年に開催された国連主催の国際会議で採択された「ダーバン宣言」は、「植民地主義が起きたところはどこであれ、いつであれ、非難され、その再発は防止されなければならない」と宣言しましたが、それから20年を経て、人類史は大きな進歩を見せています。日本は、こうした世界史の流れにたって、侵略戦争と不法・不当な植民地支配への根本的清算にすすむべきであります。

 日本共産党は、過去の侵略戦争と植民地支配に命がけで反対を貫いた歴史をもつ党として、歴史問題の理性ある解決のために全力をあげる決意を表明するものです。

「北東アジア平和協力構想」を大きな目標として追求する

 以上のべてきた北東アジアの諸問題を対話によって解決するとりくみを積み重ね、北東アジアにも"対話の習慣"を根づかせる努力をはかり、包摂的な平和の枠組みをつくりつつ、北東アジア規模での友好協力条約(TAC)の締結をめざすことを、あらためて提唱します。

 日本共産党は、2014年の第26回党大会で「北東アジア平和協力構想」を提唱し、TACを土台にした包摂的な平和の枠組みを北東アジアにも構築することを呼びかけてきましたが、この構想を大きな目標として追求していきます。

 これが実ってこそはじめて、東南アジアと北東アジアは友好協力条約で結ばれ、東アジアの平和共同体がつくられます。

 北東アジアが直面する諸問題は、どれも困難な問題であり、外交で解決できるのかという懐疑論もあるでしょう。しかし、ASEAN発足当初の東南アジアは、今日の北東アジア以上の緊張と対立、戦乱のさなかにありました。ASEANは、半世紀以上におよぶ粘り強い対話と協力の努力の積み重ねで、平和の地域共同体をつくりあげました。東南アジアにできて、北東アジアにできない道理はありません。ASEANの経験に学び、ASEANと協力して、北東アジアを東南アジアのような戦争の心配のない地域にしていくために、ともに力をつくそうではありませんか。

第3の提言

ガザ危機とウクライナ侵略――国連憲章・国際法にもとづく解決を

 第3の提言は、ガザ危機とウクライナ侵略を、国連憲章・国際法を唯一最大の基準にして解決することです。

 これは東アジアの平和構築とも深いかかわりがある大問題です。

ガザへのジェノサイドを許さない――パレスチナ問題の公正な解決を求める

 イスラエルの大規模攻撃により、パレスチナ・ガザ地区は、3万3千人を超える死者、飢餓の深刻化という極限の人道的災厄に直面しています。ハマスの無差別攻撃と人質拘束は許されませんが、それを口実にしたイスラエルによるガザ市民へのジェノサイド(集団殺害)を決して許してはなりません。わが党は、イスラエルに対し、大規模攻撃をただちに中止し、すみやかな停戦に応ずることを強く求めるとともに、米国に対し、軍事支援をやめ、イスラエルの無法を抑える責任を果たすことを強く求めるものです。

 パレスチナ人の自決権が蹂躙(じゅうりん)され、長期にわたって占領が拡大し、イスラエルの蛮行は罰せられないという深刻な不正義が続いていることは、アジアと世界の平和と公正への重大な逆行となっています。

 日本共産党は、パレスチナ問題の公正な解決のため、(1)イスラエルの占領地からの撤退、(2)パレスチナ独立国家樹立を含む民族自決権の実現、(3)両者の生存権の相互承認という三つの原則をふまえた国際社会のとりくみを強く呼びかけるものです。

どうやってウクライナ侵略を終わらせ、欧州の平和と安定を回復するか

「国連憲章を守れ」の一点で世界の圧倒的多数の国ぐにの結束を

 ロシアのウクライナ侵略開始から2年が経過し、戦争の終わりが見えない状態が続いています。その責任が、国連憲章を蹂躙して無法な侵略を続けるロシアにあることはいうまでもありません。わが党は、ロシア軍の即時・全面撤退を強く求めるものです。

 同時に、米国の側の対応にも弱点があることを指摘しなければなりません。一つは、バイデン政権が「民主主義対専制主義の闘い」というスローガンを押し出し、特定の価値観で世界に分断を押し付けていることです。いま一つは、米国がロシアの侵略を非難するが、イスラエルによる国際法違反のガザ攻撃を擁護するという「ダブルスタンダード」をとっていることです。これらの弱点をあらため、「国連憲章を守れ」の一点で世界の圧倒的多数の国ぐにが結束することこそ戦争を終わらせる道であることを強調したいと思います。

困難であっても欧州安全保障協力機構(OSCE)の再活性化が重要

 「ウクライナは明日の東アジア」と主張し、この問題を大軍拡の口実に利用する動きがありますが、わが党は反対です。ヨーロッパでは、欧州安全保障協力機構(OSCE)というロシアも含めて欧州のすべての国が参加する包摂的な平和の枠組みが発展してきました。ところがOSCEの機能は生かされず、「力対力」による対抗と分断に陥り、それが戦争につながる背景となりました。こうした経過は、排他的な枠組みによる対抗と分断に陥るのでなく、ASEANが現に実践しているように、地域のすべての国を包み込む包摂的な平和の枠組みを安全保障の第一にすえて発展させることの重要性を示しているのではないでしょうか。

 2022年10月、ロシアの即時撤退を求めた国連総会決議は、OSCEなどの国際・地域機関が「政治的対話、交渉、調停、平和解決」に関与することを求めています。ウクライナ侵略を終わらせ、欧州の平和と安定を回復するうえで、きわめて困難であってもOSCEの再活性化が重要になってくるのではないかと考えるものです。

東アジアの平和構築のための国民的・市民的運動を呼びかける

 三つの点で、東アジアの平和構築にむけた提言を行いましたが、この方向を実らせるには、政府間のとりくみだけでなく、国民的・市民的運動が必要であります。北東アジアでも東南アジアでも、それぞれの地域の民衆は、みんな平和を望んでいます。本当の平和は民衆の草の根の運動に支えられてこそ、つくることができます。

核兵器禁止条約のとりくみから深く学んだこと

 このことを、私たちは、核兵器禁止条約の成立から深く学びました。この条約は、被爆者を先頭にした市民社会の運動なしにはありえませんでした。日本共産党は、2017年の核兵器禁止条約の国連会議に、2度にわたって党代表団を派遣し、国連会議での演説を行い、条約の成立に力をつくしましたが、この経験を通じて、市民社会がいかに大きな力をもつか、とくに被爆者の活動が、どんなに巨大な力を発揮したかを目のあたりにしました。

 東アジアの平和構築という大事業も、各国政府・政党・市民社会が共同したとりくみを行ってこそ、達成されるのではないでしょうか。

ジェンダー平等を平和構築の中核にすえて

 そのさいジェンダー平等と平和を一体的に追求することをとくに強調したいと思います。日本で戦後一貫して女性差別撤廃のために奮闘してきた女性団体の結成の原点の一つは、共通して「平和」でした。核兵器禁止条約の誕生において女性が果たした役割はたいへんに大きなものがありました。ジェンダー平等を平和構築の中核にすえて奮闘したいと思います。

 東アジアの平和構築のために、さまざまな形で国民的・市民的運動にとりくむことをこの場から国内外に心から呼びかけ、日本共産党の提言が、それをすすめるうえでのささやかな一石となることを心から願って、私の講演を終わります。

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