2011年11月12日(土)
主張
TPP参加表明
亡国政権に国益任せられない
野田佳彦首相が国民生活に大きな影響を与える環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加を決めました。首相が発表を1日遅らせたのは、国民の反対が予想を超えていたからです。しかし参加反対の広範な世論にも、情報が不足だとの国民の強い懸念にも耳をふさぎ、与党内の論議さえ押し切ったことに変わりはありません。ハワイでのオバマ米大統領との首脳会談で米国追随の姿勢をアピールすることを最優先にしたものです。
多国籍企業の“天国”
野田首相は「国益のために全力を尽くす」「守るべきは守り、攻めるべきは攻める」と、「国益」を強調しています。ここには何重ものごまかしがあります。
首相は譲ることのできない「国益」とは何かを語りません。TPPに入ったら得られるという「国益」も、入って失われる「国益」もあいまいにしたままです。それは相手国との交渉事という姿勢は「国益」をもてあそぶものです。
TPP参加で輸出品のわずかな関税がなくなっても、それで国内生産が増えるものではありません。一方で失われる国益は日々明らかになり、国民生活への脅威がみえています。政府はコメづくりを犠牲にすることなど織り込み済みです。医療保険が民間まかせの米国の保険会社が日本市場に狙いをつけるなかで、国民皆保険制度を守れる保証はありません。「守る」と口先だけの政府に、国益を委ねるなどできない相談です。
野田首相が「国益」の名で追求するのは、大企業の利益にほかなりません。TPPで財界は企業利益を最大にする「ルールづくり」を重視しています。国境を越えて投資する日本の多国籍企業にとって、投資先国を“天国”に変えようとするものです。
端的な表れが、進出先国のルールが都合悪ければ、企業が相手国を訴えられるという“毒素条項”です。TPP推進派は、日本のためだと擁護します。有利になるのは大企業であって、国民ではありません。「国益」のすり替えがここに鮮明です。日本企業も支配者のように振る舞えば、進出先国の経済主権と国民利益を損ない、日本側では産業空洞化を推し進め、雇用条件を悪化させます。
TPPでは米国が日本を“天国”に作り変えようと狙っています。雇用や安全の規制をはじめ経済のあり方を米企業に有利にしようとしています。米国は1990年代から米系多国籍企業に有利な投資自由化を本格化させ、相手国より自国企業を上に置く「投資家保護」を追求してきました。アジア太平洋を米系多国籍企業の利益追求の舞台とし、1年後の大統領選に向けた輸出倍増政策を組み合わせたものが、TPP交渉を主導するオバマ米政権の立場です。
世論と運動で撤回を
米国と多国籍企業の利益の枠組みであるTPPは、大多数の日本国民に「不利益」であり、国益ではありえません。菅前政権の「第3の開国」論をはじめ日本に全面市場開放を迫る主張は、大企業“天国”の考えに立つものです。長期不況に苦しむ日本にとって、その考えを見直すことこそが本当の国益につながる道です。
野田首相の交渉参加表明で、TPP反対の世論と運動は新たな段階に入ります。参加撤回のたたかいを広げることが重要です。