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2011年11月16日(水)

多国籍企業が政府・自治体を訴訟攻撃

TPPの焦点 ISD条項

「主権を侵害」 世界で問題に

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 野田佳彦首相が交渉への参加を表明した環太平洋連携協定(TPP)。その中で、米国の業界団体などが盛り込むように迫っているのが、TPPに参加する各国政府を、多国籍企業が自由に訴えることができるようにする制度(ISD)です。すでに多くの自由貿易協定(FTA)に盛り込まれ、世界中で「主権を侵害しかねない」と大問題になっています。 (中村圭吾)


 「企業に各国を訴えさせるリーガル・モンスター(法律の怪物)」。この制度について、英紙ガーディアン(電子版、4日)でこう批判したのは、国際投資法の専門家マフナズ・マリク氏です。同氏は、アジアや中南米など15カ国以上の投資協定や投資契約について助言をした経歴の持ち主。その経験から、この制度について「投資家に国内法よりも有利な権利を与えている」と指摘しました。

 貿易自由化を目的にした多くの2国間・多国間協定では、投資先の国の政策で「不利益を被った」と企業が判断すれば、提訴できる仕組みが盛り込まれています。

 実際に、訴訟になればどうなるのか。多くの協定で仲裁機関に指定されているのが、世界銀行傘下の国際投資紛争解決センター(ICSID)です。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、これまでに提起された390件のうち6割の245件が、ICSIDで審理されました。

 この審理は非公開で、不服があっても上訴することができません。しかも、地方自治体の規制も、訴訟の対象になります。

 メキシコでの廃棄物処理場の建設をめぐり、米企業がメキシコ政府を提訴した事件では、地元自治体の建設不許可が北米自由貿易協定(NAFTA)違反に問われました。ICSIDは2000年、環境保護のためという自治体側の主張を退け、メキシコ政府に1600万ドル(12億円)の賠償を命じました。

 オーストラリア政府は今年4月、国民生活に関わる政策に深刻な影響をもたらしかねないとして、ISD条項を受け入れないという姿勢を明らかにしました。TPPにこの制度を入れるべきだという米国の要求に対し、米国や豪州など6カ国の労働組合の全国組織が「重大な懸念がある」と表明しています。

 もし、TPPで米国の要求通りの制度が盛り込まれることになれば、これまで日本国内で築かれてきたさまざまなルールが、多国籍企業の訴訟による攻撃にさらされることになります。

各国の事例

ドイツ

 2022年までに原発を全廃すると発表したドイツ政府。独週刊誌『シュピーゲル』によると、この決定によって、投資が無駄になったとして、スウェーデンのエネルギー企業バッテンフォール社が損害賠償を求める方針です。同社は、独北部のブルンスビュッテル原発、クリュンメル原発に計7億ユーロ(約735億円)を投資していました。

 同社は09年にも、独ハンブルク市が火力発電所に対する規制を強化したことに対して、損害賠償を要求。ICSIDは、14億ユーロの支払いを命令。10年にドイツ政府が和解金を支払うことで和解が成立しました。

豪州

 米国に本社を置くフィリップモリス社は、豪政府が来年から実施するたばこのパッケージの規制について、同社の保有する商標権を没収するのに等しいと主張。今年6月、香港に拠点を置く同社のアジア法人が、豪州・香港投資協定(1993年締結)に基づき、国際仲裁機関に仲裁を求めると発表しました。

 豪政府の規制は、パッケージに商品ロゴなどを使用できなくするもの。毎年、喫煙による疾病で1万5000人が死亡し、それに伴う社会的費用が320億ドル(約2・5兆円)かかっているというのが、導入の理由です。

ボリビア

 南米ボリビアでは、90年代末に世界銀行などの要求に従い、水道事業を民営化。第3の都市コチャバンバでは、米系多国籍企業ベクテル社の子会社が経営権を獲得し、水道料金の4倍値上げを実施しました。これに怒った住民は「水戦争」と呼ばれる大規模な抗議行動を繰り広げ、2000年、同社を撤退に追い込みました。

 これに対し、同社は翌年、2600万ドル(約20億円)の賠償を要求。同社が、取り下げるまでボリビアは6年間にわたる訴訟を余儀なくされました。


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