2011年11月24日(木)
主張
泡瀬干潟埋め立て
自然破壊は環境条約にも違反
環境省が沖縄市沿岸に広がる泡瀬(あわせ)干潟の埋め立てについて干潟の「生態学的特徴の部分的な喪失が懸念されている」と指摘していることが注目を集めています。
来年6月開催のラムサール条約(国際湿地保護条約)締約国会議に提出する報告書案のなかで懸念を表明しました。日本共産党の紙智子参院議員に対して環境省の渡辺綱男自然環境局長は、「事業者において環境保全上の配慮に十分努めていただきたい」(14日参院沖縄北方特別委員会)と異例の注文もつけました。自然破壊は環境保護条約違反であり、干潟の埋め立てはやめるべきです。
多様な生物が死滅する
環境省は日本全国にある湿地のうちラムサール条約の基準を満たす172カ所を潜在候補地として選定し、来年の締約国会議でそのうち6カ所以上の新規登録をめざします。潜在候補地の一つが泡瀬干潟です。それを政府が埋め立てるのは道理にあいません。
泡瀬干潟の埋め立て事業は政府主導で約95ヘクタール(国実施分約86ヘクタール、県実施分約9ヘクタール)を埋め立てて人工島をつくり、大型ホテルや環境商業施設が立ち並ぶ一大リゾート地帯をつくるというものです。
埋め立て事業は「経済的な合理性がない」と泡瀬干潟第1次訴訟での那覇地裁判決でも福岡高裁判決でも断罪されています。第2次訴訟も始まっています。泡瀬干潟の埋め立て強行はとうてい許されるものではありません。
見過ごせないのは95ヘクタールを囲んだ護岸をつくったために、豊かであった干潟がとりかえしのつかない状態になりつつあることです。護岸で囲んだ広大な予定地の内ではいまだに多くの生物が生きているといわれているのに、土砂を投入して貴重なサンゴ群集や豊富な海洋生物を死滅させることは許されません。
広大な護岸によって周辺の生態系そのものが壊されています。太平洋から陸部に向かう潮の流れが変わり、多様な生態系を育んでいる海藻藻場が大規模に消失し、干潟の浄化機能が失われつつあることが環境保護団体の調査でも明らかになっています。
泡瀬干潟の埋め立ては日本が批准した環境保護の諸条約に違反します。人間と環境の「相互の依存」を認め、「湿地の喪失を現在及び将来とも阻止する」ことを目的につくられたラムサール条約にも、批准国に「生物の多様性の保全」を義務付けた生物多様性条約にも反しているのは明白です。
自然と共生することなしに人間は生きていけません。泡瀬干潟を埋め立てることは、観光が重要産業となっている沖縄県の発展の道を阻害することにもなり、県民の多くが反対するのは当然です。
大震災の教訓を学べ
埋め立て事業には地震などへの備えがないことも大きな問題です。沖縄県は1771年の八重山地震で大津波に襲われ多くの犠牲者をだした痛恨の体験をしています。その教訓から沖縄本島でも10メートル以上の大津波に備えるべきだとの指摘もあるのに、埋め立て地に津波のさいの避難場所となる高台も予定せず、陸地とつなぐ道路を1本しかつくらないのは人命軽視の欠陥事業としかいえません。
自然を破壊し、人命もかえりみない埋め立て事業そのものを、政府は断念すべきです。