2012年3月19日(月)
中米自由貿易協定 発効6年
エルサルバドル投資貿易研究所所長エルガルド・ミラ氏に聞く
米国と中米諸国が参加する中米自由貿易協定(CAFTA)の発効から6年を迎えたエルサルバドル。同国の民間機関、投資貿易研究所(CEICOM)のエルガルド・ミラ所長に協定がもたらした影響について聞きました。(サンサルバドル=菅原啓 写真も)
深まる食料の米国依存
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CAFTAがエルサルバドルの国会で批准され、発効したのは2006年3月1日でした。協定を推進した政治家や大企業の経営者らは、協定が実現すれば、この国の抱える問題が解決できる、つまり、安定的な経済成長が実現し、外国投資が増え、雇用が生まれ、貧困も減ると約束しました。
■破られた約束
しかし、こうした約束は何一つ達成されていません。
とくに問題なのは、農業・食料面での対米従属状態の深まりです。たとえば、穀物のうち、国内消費に占める輸入量の割合はコメの場合、実に79%。比較的国内の生産量が大きいトウモロコシの場合でも43%に達しています。このほとんどは米国からの輸入です。
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エルサルバドルは1980年代に深刻な内戦を経験し、農業生産が激減したため、もともと穀物の輸入依存度が高い。しかし、依存度が内戦終結後も高まり続け、CAFTAによってその傾向に拍車がかかっていることは無視できない大問題です。
同時に重大なのは、種子や肥料の面でも米大手モンサント社など食料大企業からの輸入が増加し、農業分野全体の対外依存度が高まっていることです。
外国投資は、確かに増えてはいますが、そのほとんどは銀行買収などで、雇用を生み出す製造業への投資は増えていません。
■日本への助言
最後に指摘しておきたいのは、CAFTAにある内国民待遇条項の問題です。この条項によると、外国企業は国内企業と同じ扱いを受けなければならないとされています。
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フネス政権は公立学校の生徒に学用品を無料支給し、その調達先を大手ではなく中小企業に限定しています。これも、厳密にいえばCAFTA違反ということになります。
しかし、現実には米国や米国企業はこの政策を黙認してきました。それは、この政策によるもうけの規模が小さいからです。もし、フネス政権がさらに大規模な分野で中小企業を支援する政策をとりはじめると、CAFTA違反として問題が取り上げられる可能性は大いにあります。
CAFTAは、食料主権や経済主権を奪い、大企業をもうけさせる道具です。国民のためには、この協定を破棄するしかありません。しかし、国際協定の破棄にはその通告から始まって長年の交渉による相手国との合意が必要になります。
日本のみなさんが米国との自由貿易協定に懸念を抱いていることはよく分かります。みなさんにアドバイスできるとしたら、自由貿易協定はいったん結ばれたら、破棄するのが大変だということ、できることなら締結しない選択が最良の策だということです。
中米自由貿易協定 米国が中米5カ国と2004年5月に調印した自由貿易協定で、関税の撤廃や大幅削減などが柱です。その後、ドミニカ共和国が加わりました。