2012年5月18日(金)
大企業の工場撤退
立地補助金 返還相次ぐ
税金投入 雇用・振興に役立たず
自治体が支出した立地補助金の一部を大企業が返還するケースが増えています。電機製造業などが赤字を口実に工場再編などを進め、立地から5、6年という短期間での生産縮小・撤退が相次いでいるからです。「地域経済の活性化につながらない」と、地元の日本共産党と議員団は補助金の返還に向け尽力しています。
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千葉・茂原市 パナソニック
液晶テレビのパネルを製造するパナソニック液晶ディスプレイの千葉県茂原市の工場は2006年5月、操業を始めました。前身は日立ディスプレイズの子会社(05年1月に設立)です。10年に日立がパナソニックに株式を譲渡しました。
テレビの売れ行き不振による赤字を理由に撤退が決まりました。12年3月に工場は閉鎖され、別会社のジャパンディスプレイに譲渡されました。
同社には、県が「地元経済の振興」や「雇用確保」の名目で、50億円の補助金支出を決め、すでに06年の操業以降、20億3千万円を支出しました。市も40億円の補助金支出を決め、うち13億5千万円を支出しました。
県はパナ社の工場譲渡を受け、企業立地補助金のうち3億4千万円の返還を請求。パナ社もこれに応じ同額を返還しました。市は返還を求めていません。
同工場の正社員は操業開始時からすべて親会社からの出向で、新規採用はゼロ。その後も正社員を減らして非正規社員に置き換えてきました。工場の従業員数も08年5月の約2400人から11年末には1330人と大幅に減少しました。
パナ社は工場撤退に伴い茂原工場の正社員を兵庫県姫路工場に異動させましたが、少なくない人が退職に追い込まれました。期間従業員など非正規労働者は雇い止めされました。
地域経済への影響も避けられません。茂原市はかつて、日立を中心に企業城下町として栄えました。ブラウン管工場などで働く人たちで商店街も繁栄してきましたが、現在は中心商店街の店舗数も激減。大型ショッピングセンターの郊外進出の影響もあって街は「シャッター通り」化し、にぎわいはありません。
市の担当者も「(パナ社の)資産償却に伴う固定資産税の減少など市財政にも大きなマイナスになる」としています。
大企業の“食い逃げ” 許されるか
リストラ野放しノー 市民と共産党各地で要求
撤退したパナソニックに対し、日本共産党千葉県議員団(4人)と茂原市議員団(2人)は、雇用の確保と企業立地補助金の返還を求めてきました。今年2月の県議会では、株売却や工場閉鎖など大企業の利益のための再編劇のたびに労働者の解雇や雇用条件の悪化が進んだと批判。県に対し、企業呼び込み競争施策の転換を迫りました。
補助金の交付にあたり、県は企業側があらかじめ提出した計画に基づいて10年間の操業を行うことを求める規定を設けました。しかし、県や市は企業に雇用を維持させるなどの権限はもっていません。
日本共産党の平ゆき子茂原市議は「多額の税金をパナソニックに投入したものの、地域経済の活性化につながっていません。市は効果があったといいますが、地元の雇用に貢献せず、人口の減少にも歯止めがかかりません。結局、市がパナソニックのリストラの手助けをしただけではないですか。パナソニックは、すべての従業員の雇用を守る社会的責任を果たすべきです」と指摘します。
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兵庫・尼崎市 パナソニック
パナソニックは兵庫県でも立地補助金の一部12億5700万円を県に返還しました。
尼崎市にある世界最大級のパナソニックプラズマディスプレイ工場の生産停止・縮小に伴うものです。
パナ社は2005年から尼崎市に三つの工場を建設し稼働させてきました。県は05年稼働の第1工場に30億9千万円(雇用補助含む)、07年稼働の第2工場に40億円、09年稼働の第3工場に10億円の合計81億円の補助金を支出。17年までに合計218億円(姫路IPS工場を含む)の補助金を出すことにしていました。
ところがパナ社は昨年10月、「収益力の低下」などを理由に、工場の再編計画を決定。3工場のうち2工場の生産を3月末で停止しました。
雇用を名目にした補助金も投入されましたが、地元の雇用には貢献していません。正規社員の採用はほとんどなく、期間従業員など不安定な非正規雇用が増えただけでした。
日本共産党の兵庫県議員団(5人)は、県に対し補助金の支出の中止を求めるとともに、「上限なし」の補助金のあり方を抜本的に見直すよう提起してきました。
工場の生産停止の決定を受け、補助金による企業誘致政策を推進してきた県もようやく対応に乗り出すことになりました。当初はなかった補助金の返還規定も策定。「補助金は10年の操業を前提にしており、操業期間からみて過大になっている分を清算してもらう」(井戸敏三知事)として同社に補助金の一部返還を求めることになったものです。
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長野・伊那市 NEC子会社
補助金の返還をめぐり訴訟や調停に持ち込まれる例もあります。
訴訟を起こしたのは長野県伊那市の市民157人(原告代表・市川富士雄氏)。撤退した企業に市の補助金を返還させ、損害賠償請求をするよう市長らに求めています。
問題の企業は液晶テレビ用の蛍光ランプを製造するNECライティング。NECの完全子会社です。同社は05年6月に伊那市で操業を開始しました。しかし同社は10年11月、売れ行き不振と中国の工場への集約を理由に工場を閉鎖。140人の雇用が失われました。
同社はこれまで県から3億円の支援を受けてきたほか、伊那市からも06年から4年間で約1億6000万円の補助金を受けてきました。さらに同社の要請を受けて、市が6億7000万円をかけて造成した工業用地も同社は購入しませんでした。
同社に対し市は補助金の全額返還を求めましたが、同社側は「市条例には最低限の操業期間を義務付ける具体的規定がない」などとして返還を拒否。市は昨年4月に長野地裁に民事調停を申し立てました。先月、同社が市に1000万円を支払うという地裁の調停が成立しています。一方、返還規定を盛り込んだ規則があった県には3918万円が返還されています。
日本共産党の伊那市議員団(3人)は白鳥孝市長に対し、補助金の全額返還、損害賠償の請求、雇用の確保などをNECライティング社に求めるよう要求してきました。
企業立地補助金 企業を誘致するために自治体が支出する補助金のこと。工場用地を整備したり、固定資産税や都市計画税を一定期間軽減したりする支援策などがあります。補助金の限度額は自治体ごとに決まっています。兵庫など「上限なし」の県もあります。高額な補助金で誘致した企業が自己都合により短期間で撤退し、雇用や地域経済に影響を及ぼす事例が増えています。
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