2012年9月14日(金)
主張
アジアの経済協力
TPP推進の理由にならない
環太平洋連携協定(TPP)への参加について、野田佳彦首相は正式表明こそ見送っているものの参加の意欲は変えていません。先週ウラジオストクで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際、2国間会談で米国やマレーシアに協力を求めたのもそのあらわれです。
不満を募らせる財界を横目に正式表明を見送っているのは、国民の反対が与党内にも動揺をもたらすなか、民主党代表選挙を切り抜けるうえで目立った動きを控えるためとの見方もあります。
米の経済覇権主義
米国や豪州など9カ国が交渉するTPPを、野田首相はAPECがめざすアジア太平洋地域の経済統合(アジア太平洋自由貿易圏=FTAAP)に向けた取り組みだとしています。民主党代表選の共同記者会見でも主張しました。
2010年に横浜で開かれたAPEC首脳会議は、TPPをFTAAPに向けた取り組みの一つとしました。それでもTPPへの参加は広がっていません。新たに交渉参加を表明したのはカナダとメキシコの2カ国だけで、両国とも米国と20年も前に北米自由貿易協定(NAFTA)を結び、米国との経済圏をつくっています。
TPPは、米国を盟主としその利益を第一とする点でも、例外なき関税撤廃と徹底的な自由化を各国に押し付ける「21世紀型」の統合をめざす点でも、地域的な経済協力のあり方として異質です。
米議会調査局が8月に出した報告書によれば、オバマ米政権にとってTPPは「アジア太平洋地域でのルール・規範づくりに積極的な役割を果たす」ための対外政策の「柱」です。それこそ経済的覇権主義の表れというべきです。
TPPはアジアを経済統合に進めるどころか、亀裂をもたらしかねません。APEC加盟国・地域でも、中国など半数近くがTPPに入っていません。一方で、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓などの枠組みで、米国抜きでの連携が模索されています。
今回のAPEC首脳会議は、食料安全保障のための協力を呼びかけました。この問題では輸入食料の確保に関心が向けられ、食料輸出国による輸出制限が焦点とされがちです。しかし、今回の首脳宣言で注目されたのは「持続可能な農業生産の増大」の必要を指摘していることです。日本でも国土の条件や環境に合った農業生産を拡大することは、経済協力を進めるうえでも欠かせません。
TPPが日本農業に大打撃となることは、政府をはじめTPP推進勢力も認めるところです。食料・農業政策を自主的に決める食料主権を、TPP推進勢力のいうがままに放棄すれば、国民生活が大きく掘り崩されるのは必至です。各国で経済条件が異なる以上、協力を進めるにあたって経済主権を尊重し、平等・互恵の立場に立つことがきわめて重要です。
参加を断念させる
原発ゼロをめざす毎週金曜日の首相官邸前行動にならって、毎週火曜日にはTPP阻止のための行動が官邸前でおこなわれています。野田首相が参加を正式に表明できないでいることは、農業者をはじめ広範な国民の反対の強さを示すものです。政府にTPP参加を断念させるため、共同をさらに広げることが必要です。