2012年9月18日(火)
ヘリ談合 本紙入手資料で鮮明に
防衛省と川重・三菱 密談
癒着どこまで
陸上自衛隊の次期多用途ヘリコプター「UHX」開発をめぐり、官製談合防止法違反容疑で、防衛省が東京地検特捜部の家宅捜索を受け、事件は緊迫化しています。本紙が入手した内部資料などからは、軍需企業大手の川崎重工(川重)が受注できるよう、同省側が異常な肩入れをしたことが明らかになっています。癒着の構図はどこまで広がるのか―。(森近茂樹、矢野昌弘)
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上層部が関与か
UHX官製談合事件では、ヘリ開発業務の受注を富士重工と争った川重を有利にするため、防衛省側が便宜をはかった疑いがもたれています。
本紙は川重側の内部資料などをもとに、同省と川重の担当者による秘密会合や、これに三菱重工も同席していたことを報じてきました。これらの内部資料には「このファイル自体が存在してはいけないものですので、取り扱いには十分注意」と、注意書きしたものも。
内部文書には、防衛省の非公開資料やライバルの富士重工が作成した新型機の開発案も含まれます。
川重側は、なんの目的で防衛省やライバル社の資料を入手したのか。その狙いが浮かび上がるのが、昨年5月18日に同省航空装備研究所で行われた秘密会合をまとめた議事録です。
議事録によると、同省技術研究本部(技本)に所属していた2佐が「仕様書案」と「評価基準案」を川重の担当者らに「配布」したことが記されています。これらの資料は企画競争入札に応募した企業を評価する基準のたたき台となるもの。絶対に事前に見せてはならないものです。しかも、本来は防衛省が作成すべき両文書を川重の要求を聞きながら“共同作成”した疑惑も浮上しています。
さらに2佐は、秘密会議で、川重側にこんな提案をしています。
「F(富士重工)が対応できないような要求についてアイデアを出してほしい」
徹底した川重への肩入れは、現場の2佐らの判断によるものなのか。同事件では複数の技本担当者が関与したとみられていますが、佐官級の実務者にそれほどの決定権があるとは思えません。
防衛省の事業発注に詳しい元幹部は、こう指摘します。
「高額の装備品は幕僚クラスの幹部が決定に関わるのが普通だ。川重の受注が事前に決まっていて、現場がそのためのアリバイ工作をしたのではないか」
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選定方法変えたが
防衛装備品の調達をめぐっては、専門性が必要なことを口実に随意契約が多く用いられてきました。そのもとで不正が多発したことをうけ、一般競争入札など公平・透明性を高める契約方式を一部で採用しました。
ヘリ開発事業でも、今回のUHX選定で初めて企画競争入札方式が採用されました。
同方式は、防衛省が要求性能などを記載した「技術提案要求書」を企業側に示して開発方法を公募。企業は性能、価格、納入実績などを「提案書」にして提出します。それを公募前に評価基準のポイントを決めた「評価基準書」に基づいて採点するというものです。
防衛省は、事前に評価基準を決めているので公平・透明性があるなどとして、同方式を小額契約を除く調達全般に広げています。
しかし、UHX談合では、事前に評価基準を決めるやり方が悪用されました。受注した川重が防衛省と密談して、評価基準書や仕様書を自社に有利に「共同作成」したのです。
技術や実績を点数化する方式は、随意契約への批判が高まったことをうけ、財務省主導で各省庁に導入されました。ところが談合防止に効果があるはずの同方式のもとで不正が相次いでいるのです。
本紙の調べでは、川重に過去12年間で、少なくとも幹部自衛官68人が天下りしています。根深い癒着は、談合の温床になっています。
前出の元幹部は「やり方を変えても実態は随意契約と同じ。今回の事件も防衛省と業者が、契約前から“初めに答えありき”で仕組んだ官民一体の談合だ」と語ります。
防衛省(旧防衛庁)の調達をめぐる最近の事件
1998年 装備品代金の水増し請求事件で防衛庁調達実施本部(調本)の元本部長らとメーカー関係者を逮捕
同年 飛行艇試作に絡み、富士重工から500万円の賄賂を受け取った自民党の中島洋次郎衆院議員(故人)と富士重関係者を逮捕
99年 ジェット燃料納入をめぐる入札談合事件で、石油元売り7社の担当者らを独占禁止法違反容疑で逮捕
2006年 防衛施設庁発注の空調や土木建築工事の官製談合事件で、同庁技術審議官らを逮捕
07年 ゴルフ接待などで守屋武昌前防衛事務次官と軍需専門商社の元専務を逮捕。翌年、軍需利権に関わっていた日米平和・文化交流協会の秋山直紀専務理事を脱税容疑で逮捕
※肩書は当時