2012年10月7日(日)
尖閣問題――
冷静な外交交渉こそ唯一の解決の道
外国特派員協会 志位委員長の講演
日本共産党の志位和夫委員長が4日、日本外国特派員協会で行った講演と質疑を紹介します。
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今日は、ご招待いただきましてありがとうございます。日本共産党の志位和夫です。
尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題をめぐって、日中間の対立と緊張が深刻になっています。
私は、9月20日、「外交交渉による尖閣諸島問題の解決を」と題する「提言」を発表し、藤村修官房長官と会談して日本政府に提起するとともに、翌日の9月21日には、程永華中国大使と会談して中国側にもわが党の「提言」の立場を伝えました。
この問題をどう解決すべきかについて、日本共産党の立場をお話ししたいと思います。
日本の領有の正当性――その三つの中心点について
日本共産党は、尖閣諸島について、日本の領有は歴史的にも国際法的にも正当であるとの見解を表明しています。その中心点は、つぎの諸点にあります。
第一に、日本は、1895年1月に、尖閣諸島の領有を宣言しましたが、これは、「無主(むしゅ)の地」の「先占(せんせん)」という、国際法上まったく正当な行為でありました。中国側は、「釣魚島は明代や清代からの中国の固有の領土である」としています。しかし、中国側は、中国が国家として領有を主張していたことを証明する記録も、中国が実効支配を及ぼしていたことを証明する記録も示しえていません。「中国の固有の領土」論は成り立ちません。
第二に、中国側の主張の最大の問題点は、中国が1895年から1970年までの75年間、一度も日本の領有に対して異議も抗議もおこなっていないことにあります。相手国による占有の事実を知りながら、これに抗議など反対の意思表示をしなかった場合には、相手国の領有を黙認したとみなされることは、国際的に確立している法理です。中国側は、この最大の問題点に対して、有効な反論をなしえていません。
第三に、尖閣諸島に関する中国側の主張の中心点は、1894年から95年の日清戦争に乗じて、日本が不当に奪ったものだというところにあります。先の国連総会では、中国は、「盗み取った」という表現を使って非難をくわえました。
しかし、日清戦争の講和条約――下関条約とそれに関するすべての交渉記録を見ても、尖閣諸島は、日本が戦争で不当に奪取した中国の領域――「台湾とその付属島嶼(とうしょ)」および「澎湖(ほうこ)列島」に入っていません。国連総会での中国側の主張は成り立たないことをはっきりと指摘しておきたい。日本による尖閣諸島の領有は、日清戦争による台湾・澎湖列島の割譲という侵略主義、領土拡張主義とは性格のまったく異なる、正当な行為でありました。
国交正常化、平和条約締結のさいに事実上の「棚上げ」合意が
それでは、歴代の日本政府の対応はどうだったか。「提言」では、重大な問題点があることを率直に指摘しました。
それは、「領土問題は存在しない」という立場を棒をのんだように繰り返すだけで、中国との外交交渉によって、尖閣諸島の領有の正当性を理を尽くして主張する努力を避け続け、一回もおこなっていないというところにあります。
歴史的に見ると二つの問題点があります。
第一は、1972年の日中国交正常化、1978年の日中平和友好条約締結のさいに、尖閣諸島の領有問題を、いわゆる「棚上げ」にする立場をとったことです。
1972年の日中国交正常化交渉では、田中角栄首相と周恩来首相との会談で、田中首相が、「尖閣諸島についてどう思うか」と持ち出し、周首相が「いまこれを話すのは良くない」と答え、双方でこの問題を「棚上げ」するという事実上の合意がかわされました。
1978年の日中平和友好条約締結のさいには、園田直外務大臣とケ小平副首相との会談で、ケ副首相が「20年でも30年でも放っておこう」と述べたのに対し、園田外相が「もうそれ以上いわないでください」と応じ、ここでも双方でこの問題を「棚上げ」にするという暗黙の了解がかわされています。
本来ならば、国交正常化、平和条約締結というさいに、日本政府は、尖閣諸島の領有の正当性について、理を尽くして説く外交交渉をおこなうべきでした。とくに「日清戦争に乗じて奪った」という中国側の主張は、歴史認識の根幹にかかわる問題であり、「棚上げ」の態度をとらず、事実と道理に立って反論するべきでした。「棚上げ」という対応は、だらしのない外交態度だといわなければなりません。
同時に、尖閣諸島の問題を「棚上げ」にしたということは、日中間に領土に関する紛争問題が存在することを、中国との外交交渉のなかで、認めたものにほかなりませんでした。
「領土問題は存在しない」という立場に拘束され自縄自縛に
第二に、にもかかわらず、その後、日本政府は、「領土問題は存在しない」との態度をとりつづけてきました。そのことがどういう問題を引き起こしているでしょうか。端的に言って、「領土問題は存在しない」という立場に拘束されて、日本政府は、日本の領有の正当性を理を尽くして主張することができず、中国側の主張にも反論ができない、自縄自縛に陥っています。
今年8月の衆院予算委員会で、わが党の笠井亮議員が、日本政府は、尖閣問題の領有の正当性を理を尽くして主張すべきだとただしたのに対して、玄葉光一郎外務大臣は次のように答弁しました。「もともと尖閣について領有権の問題は存在しないという立場なものですから、われわれから外相会談で具体的に歴史、国際法上の根拠を説明することは、私はむしろしない方がよいところがあると思います」。これは、自縄自縛に陥っていることを、政府自らが認めた答弁にほかなりません。
最近になって若干の手直しをしているようですが、根本にあるこの問題点がただされているとはいえません。
「領土問題は存在しない」という立場は、一見「強い」ように見えても、そのことによって、日本の立場の主張ができず、中国側の主張への反論もできないという点で、日本の立場を弱いものにしていることを、指摘しなければなりません。
自縄自縛という問題は、「提言」を藤村官房長官に手渡した時にも、提起した問題でした。官房長官は、「自縄自縛という疑問は検討すべき疑問だ。検討します」と否定することができませんでした。
以上の点をふまえて、私は、「提言」のなかでつぎのように提案しました。
「尖閣諸島の問題を解決するためには、『領土問題は存在しない』という立場をあらため、領土に関わる紛争問題が存在することを正面から認め、冷静で理性的な外交交渉によって、日本の領有の正当性を堂々と主張し、解決をはかるという立場に立つべきである」
私は、これが問題解決の唯一の道であると確信しております。
過去の侵略戦争への根本的反省の欠如が根底にある
この「提言」に関わって、さらに二つの問題について指摘しておきたいと思います。
第一は、日本政府のだらしない外交態度の根本に何があるのかという問題です。そこには、過去の侵略戦争への根本的反省を欠いているという問題が横たわっています。
日清戦争とは、どういう性格の戦争だったのか。この戦争は、台湾・澎湖列島の割譲という結果が示すように、「50年戦争」ともいうべき日本の一連の侵略戦争の出発点となった戦争でした。ところが日本政府には、侵略への反省がありません。そのために、日本政府は、「日本による尖閣諸島の領有は、日清戦争による台湾・澎湖列島の割譲という侵略主義、領土拡張主義とは性格のまったく異なる、正当な行為であった」ときっぱり仕分けて主張することができないでいます。
9月27日の国連総会で、尖閣諸島の領有権をめぐって、日中両国間で論争が展開されました。中国側は、「中国から釣魚島を盗み取った」「世界反ファッショ戦争の勝利の成果を全面的に否定し、戦後国際秩序および国連憲章に深刻な挑戦をもたらす」という非難を加えました。ところが、日本側は、2回の反論権を行使しながら、この歴史認識の根幹に関わる非難に対して反論せずに終わっているのです。ここには侵略戦争への反省がないため、反論ができないという弱点が、深刻な形であらわれています。
日中双方が、物理的対応、軍事的対応論を厳しく自制する
第二は、日中双方が、物理的対応や、軍事的対応論を厳しく自制することが必要であるということです。私は、官房長官との会談、中国大使との会談で、そのことの重要性を双方に提起しました。
中国大使との会談で、私は、日本共産党が、8月に国会に上程された香港民間活動家尖閣諸島上陸非難決議案に対して、「もっぱら物理的な対応の強化をはかることに主眼をおいたものであり、冷静な話し合いでの解決に逆行する」として反対したことを紹介しました。私たちは、日本側にも自制を強く求めています。
同時に、私は、中国大使との会談で、「中国にも率直に言いたいことがあります」として問題を提起しました。この間、中国の監視船が日本の領海内を航行するということが繰り返しおこっています。梁光烈中国国防相がパネッタ米国防長官との会談で、平和的交渉による解決を希望するとしながら、「一段の行動をとる権利を留保する」とのべています。軍事の責任者がこうした発言をすることは穏やかなものではありません。私は、これらの事実をあげ、「こうした物理的対応の強化、軍事的対応論は、日中の緊張激化を呼び起こし、冷静な外交的解決に逆行するものです。中国にも、自制を求めたい」と先方に伝えました。
尖閣問題をめぐって、二つの道の選択が問われている
尖閣問題をめぐっては、二つの道の選択がいま問われています。
一つは、物理的対応の強化や軍事的対応論によって緊張をさらに高めていく道です。この道をすすめば、最悪の場合には、武力衝突ということにもなりかねないという危惧を、私たちは強く持っています。
もう一つは、冷静な外交交渉による解決の道です。私はこの道こそ日本が選択し、主導的に切り開くべき道だと考えています。
私の「提言」に対して、これまで外交の中枢にいた方々や有識者の方々から賛同するという声が広がりつつあります。私は、この「提言」の方向で、日中両国政府が冷静な外交交渉を開始し、問題の解決をはかることを強く願ってやみません。ご清聴ありがとうございました。
志位委員長に対する質疑応答
中国側の領有権をめぐる見解についてどう考えるか
問い ニューヨーク・タイムズで、1885年に古賀辰四郎氏が日本政府に日本の領土として主張することを求めたが、日本政府は躊躇(ちゅうちょ)したと書かれていました。日本政府のなかに尖閣諸島は中国のものとみなされるかもしれないという考えがあったということではないでしょうか。人民日報でも明時代の古い地図に尖閣諸島は中国の領土であると記されていると報じています。日本、中国のどちらが所有していたのかは、はっきりしていないのではないでしょうか。
志位 1885年に古賀辰四郎氏が尖閣諸島の貸与願を申請し、沖縄県は、政府に国標建立について指揮を仰ぎたいとの上申書を出しました。このとき日本政府が取った対応は、内務省(山県有朋内務卿=きょう)は領有を宣言して差し支えないというものでしたが、外務省(井上馨外務卿)の意見は見送ろうというものでした。
当時の日本政府がこうした対応をとったのは、日本側が、尖閣諸島を中国の領土だと認識していたからではありません。当時の日本外交文書の記録をみても、そういう認識が書いてあるわけではありません。当時の清国は、日本から見れば巨大な帝国でした。そういうもとで、尖閣諸島の領有を宣言すれば、清国を刺激しかねず、得策ではないという外交上の配慮から、この時点では見送られたというのが事実だと考えます。
中国側が、明代の地図に、尖閣諸島が記載されていたということをもって、固有の領土だと述べていることについても、これは成り立たないということを申し上げておきたいと思います。中国側が、明代あるいは清代に、尖閣諸島の存在を知っていて、名前をつけていたということは事実です。しかし、これらは領有権の権原の最初の一歩であっても、十分とは決していえません。国家による領有権が確立したというためには、その地域を実効支配していたということが証明されなければなりません。中国側には、たくさんの記録がありますが、実効支配を証明する記録は一つも示されていません。
以上のような歴史的事実にてらしても、私は、日本が、1895年に「無主の地」の「先占」という法理によって、尖閣諸島を領有したことが正当だったことについては、疑いのないことだと考えております。
尖閣諸島の領有は日清戦争と分けて考えることはできないのではないか
問い 1895年に日本が尖閣諸島を自国のものとしたことは日清戦争、侵略戦争の動きとは全く違うといわれるが、分けて考えることはできないのではないでしょうか。領有権を主張することは、ますます権力を拡大しようというファーストステップというふうに見なされるのではないでしょうか。日本の領有権の主張は百パーセント正しいといいながら、外交的な交渉を通してこの問題を解決すべきだというのは矛盾があるのではないでしょうか。
志位 日本側、中国側のそれぞれが、自国の領有の主張が正当だと考えていることと、外交交渉を通して問題を解決すべきだということは矛盾しないと思います。
日本政府が、「領土問題は存在しない」として、交渉そのものを拒否してきたことが、お互いの主張をぶつけあい、そのなかで領有の正当性を証明していくうえで障害になっているのではないかというのが、私たちの考えです。
今日、私は、日本の領有の正当性についての根拠を述べましたが、日本政府が中国政府に対して、こうした領有の根拠をまとまって主張し、その正当性を訴えるということを、ただの一回もやっていない。ここが問題なのです。私の提案は、その自縄自縛を自ら解いて、外交交渉をおこなうべきだというものであって、そのなかで領有の正当性を堂々と説けというものです。
日本が尖閣諸島の領有を宣言した1895年1月という時期が、日清戦争の時期と重なっていることから、分けて考えることはできないのではないかというご質問がありました。日清戦争と尖閣諸島の領有の関係は、歴史的な実証研究が必要です。
私たちは、2年前に、尖閣諸島問題での突っ込んだ見解を発表するさいに、1895年4月に締結された下関条約とそれに関する交渉経過をつぶさに調べました。下関条約で日本が清国から割譲を求めたのは、「台湾とその付属島嶼」と「澎湖列島」でした。交渉記録を見ますと、中国側の代表は、「台湾とその付属島嶼」と「澎湖列島」の割譲要求に対しては強く抗議しています。しかし、中国側の代表は、尖閣諸島については、なんら触れていません。かりに中国側が尖閣諸島は自国領土だと認識していたとしたら、尖閣諸島の「割譲」も同じように強く抗議したはずです。しかし、そうした事実はありません。それは、公開されている交渉議事録からも疑問の余地がありません。そのことは、中国側が、尖閣諸島について、自国の領土だと認識していなかったことを示すものです。
さらにもう一つ、下関条約が締結されたのちの、1895年6月に、「台湾受け渡しに関する公文」が両国の間で交わされています。この「公文」を交わしたさい、「台湾の付属島嶼」とはどの範囲かということが両国で議論されています。
その議事録を見ますと、中国側の代表は、「台湾の付属島嶼」について、具体的に島の名前をあげるべきではないかと提起しています。もしも後に、日本が、中国福建省の付近の島まで「台湾の付属島嶼」としたら紛争が起こる懸念がある。だから島の名前を具体的にあげておく必要があるのではないか。これが中国側の言い分でした。
それに対して日本側の代表は、個々の島の名前を明示することは、かりに漏れなどがあったりすると、領有が不明になってしまい、不都合がおこる。海図や地図には、台湾付近の島嶼をさして「台湾の付属島嶼」と公認しており、後で日本政府が福建省付近の島まで「台湾の付属島嶼」と主張することは決してないと述べています。
この日本側代表の主張に対して中国側代表は、応諾を与えています。
当時、日本で発行された台湾に関する地図、海図は、例外なく台湾の範囲を彭佳嶼(ほうかしょ)までとしており、尖閣諸島はその範囲外とされていました。すなわち、下関条約で割譲された「台湾の付属島嶼」のなかには、尖閣諸島が含まれないということは、日中双方が一致して認めるところだったのです。
こういう歴史的事実にてらせば、尖閣諸島が「台湾の付属島嶼」として日本によって強奪されたという中国の主張が成り立たないことは、明瞭だと考えます。日清戦争で強奪したのは「台湾とその付属島嶼」「澎湖列島」であり、尖閣諸島は、それとはまったく別に、日本によって正当な手続きをへて領有されたものです。両者は時期的に重なっているとはいえ、区別できるし、区別されるべきものと考えております。
日本による尖閣諸島の領有は、「先占」の条件を満たしているか
問い 下関条約に尖閣諸島が全然触れられなかったもう一つの理由として、政府が尖閣諸島を編入したという事実を隠していたからといわれていますが。
志位 国際法の上で「先占」が成立するためには、国家が領有の意思を表示することと、無主の土地を実効支配することが必要です。日本政府が、閣議決定によって尖閣諸島の領有を宣言したことは、国家が領有の意思を表示したものにほかなりません。そのさい、国際法の通説では、こうした領有の宣言は、関係国に通告されていなくても、領有意思が表明されていれば十分であるとされています。
日本政府は、この編入手続きのあと、古賀辰四郎氏の求めに応じて、この島を貸与するという措置をとりました。古賀辰四郎氏は、アホウドリの羽毛の採取やかつお節などの生産活動を尖閣諸島でおこないました。「古賀村」とよばれた村が生まれ、最盛期には200人近い人々が居住していました。
「先占」については、通例、三つの条件が国際法上必要とされています。一つは、占有の対象が「無主の地」であること。二つ目は、国家による領有の意思表示がされること。三つ目は、国家による実効支配がおこなわれることです。日本による尖閣諸島の領有は、この三つの条件を満たしています。
領土問題が噴き出しているのは民主党政権が弱い政権だからか
問い 中国、韓国、ロシアと、最近、領土問題が大きく取り上げられています。これは民主党が弱い政権だからではないでしょうか。外交において弱い政策を有しているからではないかといわれていますが、どう思いますか。自民党政権に一刻も早く戻ったほうがいいと思いますか。
志位 民主党政権に責任がありますが、この問題の根本の責任は、自民党の歴代政権にあると私たちは考えております。
さきほど、日中国交正常化のさいに、尖閣問題について事実上の「棚上げ」の合意があったという話をしましたが、これは自民党政権でおこなわれたことでした。
「領土問題は存在しない」ということで、日本の主張をいっさい海外に発信しない、中国にもいわない、という政策をとってきたのも自民党政権からのことです。
民主党が政権についたときに、領土問題についても、従来の方針をすべて見直すべきでした。しかし、従来の方針をすべて無批判に引き継いでしまったのです。
竹島問題についても、千島問題についても、日本政府が、事実と道理にたった外交方針をもって解決するという点での大きな弱点を、自民党政権時代からもっているということを指摘しておきたいと思います。
実効支配とは何か、日本側は現状を変えるべきか
問い 「実効支配」という言葉が何度も出ていますが、定義を聞きたいと思います。「国有化」の問題、あるいは船留まりをつくるという問題が出ていますが、見解をうかがいたい。中国の出方によって日本は実効支配の状況を変えるべきでしょうか。それとも変えずに外交交渉に臨むべきでしょうか。
志位 「実効支配」の定義については、国家権力の規則的な行使、あるいは持続的な行使ということが、通常その要件としてあげられています。必ずしも、住民が住んでいたり、特定の経済活動がおこなわれていたりということを、必要とはしません。たとえば、巡視船による規則的な監視・管理がおこなわれているなどのことがされていれば、実効支配の要件を十分に満たしているといえます。
そのうえでですが、日本側も中国側も、物理的対応の強化で、領土に関わる紛争問題を解決しようということは自制すべきだというのが、私たちの立場です。
日本側も、現状を変更して、さらにさまざまな物理的手段によって、これを強化するということはやるべきではないと思います。中国側も、監視船を領海に入れるなどして、日本の実効支配を実質的におびやかすような物理的活動は自制すべきだと考えますし、それは中国側にも伝えました。
なぜ私がこのことを強調するかといいますと、そうした物理的対応の強化を双方がおこなえば、それは双方の対立をさらに激化させることにしかならないからです。
一番危険なのは、物理的対応の強化が、軍事的対応に発展していくことです。これは絶対に避けなければなりません。物理的対応の強化は、外交交渉による解決に逆行し、それに障害をつくることになると、私は考えます。
尖閣諸島をめぐって、領土に関する紛争問題が存在していることは、誰の目にも明らかです。そのことをいま正面から認めて、冷静な外交交渉によって、問題を解決する。これが必要です。
尖閣問題と日米安保条約の関係についてどう考えるか
問い アメリカは竹島についても北方領土についてもどっちの領土だとは絶対に言いません。ただ、尖閣諸島が日本の実効支配下にないということになれば、安保条約第5条(共同防衛)から外れなければならない。実効支配をどうやっていくのか。人を住ませるわけにはいかないし、中国の艦船が領土に毎日定期的に入ってくる。日本の海上保安庁も入ってくるとなると、どっちが実効支配していることになるのか。
志位 実効支配をどうやって確保すべきかというご質問でした。私は、いまの実効支配を確保していくうえでも、正面からの外交交渉をおこなう必要があると考えます。中国政府に対して、日本の領有の正当性を堂々と正面から説き、国際社会にも説いていくことが必要です。日本の領有の正当性を、広く世界の共通認識にしていくという努力こそ、一番大事だと思っています。
それから、日米軍事同盟との関係でいいますと、「尖閣諸島問題があるので、中国につけ入られないようにするために、日米同盟を強化する必要がある」という議論が一部にはありますが、私は、これは危険であり、また見当違いの議論だと思います。
この問題では、当の米国がどういう態度をとっているかをみる必要があります。いま、米国は、日本と中国の双方に、外交交渉による平和的な解決を求めています。「尖閣諸島防衛のために、日米同盟を強化する」という話は、米国側からは一切でてきません。
「尖閣問題のためにも、日米同盟の強化を」という、軍事同盟的対応を求めるというのは、問題解決を困難にするだけでなく、アメリカの態度ともあわない、見当違いの議論になると思います。日本の実効支配を確保するうえでも、冷静な外交交渉によって、領有の正当性をしっかり中国に伝え、国際社会に伝えることが何よりも重要だということを重ねて申し上げたいと思います。
いまなぜ尖閣諸島問題が大きな問題になったのか
問い いまなぜ、この問題がもちあがったのでしょうか。日中のどちらに原因があるのでしょうか。
志位 日中双方に原因があると思います。
今回の問題の直接のきっかけは、尖閣諸島のいわゆる「国有化」に始まりました。私たちは、「国有化」そのものは、島の平穏な管理のために、必要だと考えていました。しかし、その進め方には大きな問題があったと考えています。ウラジオストクでのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議の場で、胡錦濤主席が野田首相に、「『国有化』はやめてほしい、もしやったら大変なことになる」ということを要請しました。ところがそのわずか2日後に、日本政府は閣議決定で「国有化」を決めました。「国有化」が必要だという考えに立ったとしても、国家主席からの要請というのは重いものです。外交交渉を尽くす必要があったと思います。外交不在ということが、今日の事態を引き起こしたと、私は考えております。
もう一つは、中国側の対応の問題です。かりに「国有化」という問題が、中国側が許容できないものであったにせよ、それに対する対抗措置として、暴力をともなう「反日デモ」というのは許されません。監視船に、領海侵犯を繰り返させるというのは、理性的なやり方ではありません。軍事の責任者が武力行使を示唆するような発言をすることも、不適切だと言わなければなりません。中国は、大国化するなかで、その立ち居振る舞いが、世界からも注視されている。そのことを自覚した行動を求めたいと思います。そのことは中国大使にも率直に伝えました。
日本共産党と中国共産党とは、1998年に関係を正常化していらい、全体としては良好な関係が発展しています。同時に、言うべきことは、言うべき時にきちんと言う、という立場で、私たちは対応してきました。
この問題は、なかなか難しい問題ですし、解決には一定の時間がかかるかもしれませんが、現状を打開する道は、私たちの「提言」の方向以外にはないと、私は考えています。この「提言」が実るように、今後も力を尽くしていきたいと決意しております。
この問題にかかわってどういうリスクが存在するか
問い 政治的にどのような影響があると思いますか。日本国内でどのようなリスク(危険性)がこの問題にあると思いますか。
志位 リスクという点で言いますと、この尖閣問題を、自衛隊の軍備の強化、あるいは日米軍事同盟の強化などに結びつける議論があります。自民党のなかからは、明文・解釈改憲の主張も起こっています。この問題を利用した軍事力強化、憲法9条改定などの流れは絶対に許してはならないと考えています。これは問題の最悪の政治利用です。建設的で生産的な解決に何の寄与もしないものです。私たちはこういう立場はきびしくしりぞけていきたいと考えております。