2013年3月16日(土)
TPP“守るべきものが守れない”
共同の力 さらに大きく
広範な国民の反対と不安の声をよそに、安倍晋三首相は環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加を表明しました。「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP交渉参加に反対」という総選挙時の自民党の公約にも違反する暴挙です。
先行合意拒否できぬ
TPPは、日本の国内産業、地域経済、国民生活に甚大な損失をもたらします。国民を欺いて強行したTPP交渉参加表明は、即刻撤回すべきです。同時に、交渉参加表明で日本のTPP参加が決まったわけではありません。日本のTPP参加を阻止するために、いっそう広範な国民的共同によるたたかいが求められます。
安倍首相が「『聖域なき関税撤廃』ではない」と強弁する根拠の「日米共同声明」は、例外なしに関税と非関税障壁の撤廃を目指すTPPの基本を再確認したにすぎませんでした。交渉によって「守るべきものは守る」といっても、何の保証もありません。
TPP交渉は年内妥結を目指しています。そのため、新規参加国は、既に交渉している国が合意した条項を交渉し直すことはできません。既に交渉している国が交渉を終了させるとき、それを拒否できません。しかも、TPP交渉は秘密交渉であり、交渉参加以前には、すでに合意された条項を知ることはできません。
「日米共同声明」が「最終的な結果は交渉の中で決まっていく」としていることから、安倍首相は、交渉によって「聖域」を確保すると力説しています。しかし、新規参加国の制約の中で、「聖域」が確保される保証は全くありません。また、秘密交渉の中では、政府がどんな交渉を行っているかさえ、国民には分かりません。
例外設定反対の国も
そもそも、日本が交渉参加を表明したからといって、すぐに参加できるわけではありません。参加には、既に交渉している11カ国全ての同意が必要です。その中には、ニュージーランドなど、関税撤廃に例外を設けることに強く反対している国もあります。
米国についても、大統領の意向が全てではありません。通商権限は大統領になく、議会にあります。日本の交渉参加の少なくとも90日前までに議会に通知し、協議する必要があります。いわゆる「90日ルール」です。米国には、自動車業界や米国労働総同盟・産業別組合会議(AFL―CIO)のように、日本のTPP参加に反対する団体があります。米国自動車政策評議会のブラント会長は1日、日本の参加に反対する声明を発表しました。こうした圧力を受け、議会が対日要求を強めることは、大いにあり得ることです。
次回の第17回交渉会合は、5月15〜24日にペルーで開かれます。9月にも会合が予定されています。政府は、米国の「90日ルール」を基に、7月からの交渉参加を希望しているとされます。しかし、9月以降になる公算が大です。年内妥結の目標期限も考慮すると、日本が交渉できる余地はありません。 (北川俊文)
環太平洋連携協定(TPP)交渉の21分野
21分野(交渉内容)
(1)物品市場アクセス(関税撤廃)
(2)原産地規則(生産国を判断する基準)
(3)貿易円滑化(貿易手続きの円滑化)
(4)衛生植物検疫(食品安全基準・動植物検疫)
(5)貿易の技術的障害(貿易の技術的障害除去)
(6)貿易救済(臨時の輸入制限)
(7)政府調達(政府・自治体の官公需)
(8)知的財産(知的財産権保護)
(9)競争政策(独占・寡占の排除)
(10)越境サービス貿易(規制の撤廃)
(11)商用関係者の移動(規制の撤廃)
(12)金融サービス(規制の撤廃)
(13)電気通信サービス(規制の撤廃)
(14)電子商取引(電子商取引ルール)
(15)投資(外国投資の保護)
(16)環境(環境問題の基準)
(17)労働(雇用・労働のルール)
(18)制度的事項(協定実施のルール)
(19)紛争解決(協定実施のルール)
(20)協力(技術支援・人材育成)
(21)分野横断的事項(多分野にまたがる規制緩和)
(政府発表資料から作成)