2013年10月5日(土)
主張
法人税率引き下げ
利益が増えれば賃金上げるか
安倍晋三首相は、来年4月からの消費税増税の実施とともに大企業向けの法人税率引き下げを決め、「企業の収益が伸びれば雇用が増え賃金が上がる」と「好循環」の実現を繰り返しています。これに対し経団連や経済同友会など財界団体や大企業は、法人税減税は歓迎しつつ、「規制緩和」などでもっと利益が増えれば、雇用の創出や報酬の引き上げも検討したいと、消極的な態度です。賃金などを抑制し巨額の内部留保をため込んできた大企業が、法人税減税で利益が増えても賃上げするのか―安倍政権がいう「好循環」に、国民が疑問を抱くのは当然です。
大企業の強欲さ示す
大企業はこの20年近く、好況のときも不況のときも、賃上げの抑制や安定した常用雇用(正社員)を安上がりな非正規雇用に置き換えるなどで労務費を減らし、利益を増やしてきました。しかもその利益は設備投資などには回さず、巨額の手元資金など内部留保にため込み、その総額は270兆円にものぼっています。内部留保の1%分をはき出すだけで、おもな大企業は1万円の賃上げができるといわれるほどです。
その結果、労働者の所得は落ち込みを続けており、最近発表された国税庁の民間給与実態調査でも給与所得者の昨年1年間の平均給与は408万円と、10年前に比べ40万円近くも減っています。これではもっと大企業がもうければ賃金が上がるといわれても、納得できないのは当たり前でしょう。
安倍政権が今回決めた経済対策が実行されると、大企業の法人税負担は、東日本大震災の復興財源に充てられている復興特別法人税が1年前倒しで来年3月末に廃止されるだけで約9000億円も減ります。設備投資した企業への減税や「賃上げ」した企業にさらに減税するなど、おもに大企業が活用する減税も目白押しです。
しかも自民党と公明党は現在約35%の法人実効税率についても「すみやかに検討を開始する」ことで合意しており、財界などが強く要求するように法人実効税率がさらに引き下げられれば、企業の税負担はさらに減ります。
大企業は本来、法人税の減税がなくても、これまでのもうけや内部留保を活用して労働者の賃金や下請け単価は引き上げることができるはずですが、安倍政権がこれほど大企業に大盤振る舞いをしてもなお、賃上げなどを実行するとは約束しません。経団連の米倉弘昌会長や経済同友会の長谷川閑史(やすちか)代表幹事らが「好循環の実現に努めていく」とか「できる限りの努力をしていきたい」としかいわないのは、文字通り財界の強欲さを浮き彫りにするものです。
大企業任せではなく
安倍政権は「好循環」を実現するといいますが、やっていることは政労使会議などを開いて財界にお願いするだけです。お願いではなく強力に指導し、最低賃金の引き上げや使い捨ての非正規雇用を規制するなど、抜本的な対策をとってこそ賃上げも実現します。
もともと消費税増税のため大企業の法人税を減税するというのは筋違いであり、中止すべきです。大企業の利益を増やすだけで国民に還元されない法人税減税ではなく、消費税の増税を中止し国民の所得を増やす対策に切り替えてこそ、暮らしも経済も立て直せます。