2013年11月12日(火)
主張
国家戦略特区法案
“大企業の楽園”は必要ない
安倍晋三政権が今国会の重要法案の一つとしている国家戦略特区法案の審議が衆院で始まりました。すでに審議入りした産業競争力強化法案と並んで、安倍政権の「成長戦略」を実行する大きな柱とされる法案です。「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げ、大企業が大もうけできる日本をめざす「成長戦略」は、国民の暮らしを豊かにするどころか、貧困と格差を広げる結果しかもたらしません。こんな戦略を加速・具体化する法案など、国民には不要です。
安全と権利をないがしろ
安倍政権は「成長戦略」を推進するため「大胆な規制改革」を起爆剤と位置づけています。大企業が“邪魔”とみなした規制を徹底的に見直し、撤廃することが主眼です。大企業が気に入らない規制や制度の多くは、国民の暮らしや安全、労働者の権利を守る役割を果たしています。国民にとってなくてはならないルールを「成長」を名目に強行突破しようというのが国家戦略特区法案の狙いです。
法案では首相と大企業代表などで構成する諮問会議が、一定の地域を、「特定区域」(特区)に指定します。その区域を「世界で戦える国際都市」「世界で最先端のビジネス都市」に塗り替えるために、規制や制度を徹底的に取り除く「特例措置」を次々と導入します。税金の優遇策も準備します。外国企業を呼び込むための基盤も整えます。まさに大企業の利益追求のために至れり尽くせりです。
これまでも規制緩和をすすめる「構造改革特区」などが導入されました。今回の法案が、従来と異なるのは政府が上から押し付ける仕組みになっていることです。以前の特区では建前にしていた「地域の活性化」という言葉は今回の法案で消えました。地域の住民生活や産業振興のことなど眼中にないことを示しています。
富裕層を対象にした公的医療制度の規制緩和は、医療の安全をないがしろにし、もうけのための医療に変質させる危険をはらんでいます。公立学校運営への民間開放は、格差や競争教育を拡大するものです。土地利用の規制を見直すことは大企業優先の乱開発・地域破壊に拍車をかけます。農業分野への株式会社参入の要件緩和の方向を打ち出したことは、日本農業の将来を危うくするものです。
大企業が強く求めていた「首切り自由化」など雇用規制撤廃は国民の反対で法案に直接盛り込むことは見送られました。しかし、法案に「雇用条件の明確化」のための指針づくりを書き込むなど雇用破壊への執念は捨てていません。
すべての国民にかかわる労働者の権利や、国民の暮らしと安全にかかわるルールを、特定の区域で先行的に導入していくやり方自体、まったくスジが通りません。大義も道理もない大企業優遇の規制緩和はきっぱり断念すべきです。
国民守るルール強化こそ
大企業がやりたい放題できる国は、大企業にとって“楽園”でも、国民には“ルールなき無法地帯”でしかありません。非正規雇用の拡大など雇用破壊をすすめてきた大企業の「成長」が、国民の暮らしを破壊し、日本経済の再生の妨げになったことは明らかです。
労働者と国民を守るルールを強化し、労働者の賃上げや、中小企業支援など国民の家計を豊かにする政治への転換こそが必要です。