2014年8月9日(土)
きょうの潮流
4年前に93歳で亡くなった山口彊(つとむ)さんは二重被爆者でした。6日に出張先の広島で、その3日後に命からがら帰ってきた地元で。長崎三菱造船に勤めていた29歳の夏でした▼生前、山口さんはそのときの話をNHKの「ラジオ深夜便」で語っていました。戦争末期、満州や朝鮮から物資を運ぶ船を設計するため、広島の造船所へ。3カ月間働いて、長崎に帰るという前の日に芋畑で最初の原爆に遭います▼熱風に飛ばされ、顔の左半分や左腕は焼け焦げ、皮がむけて垂れ下がる。やがて黒い雨に打たれます。翌日、いくつもの死体の山を越えて駅に向かいます。川にも無数の遺体がひっついたように漂っています。「まるで人間の筏(いかだ)だ」▼一昼夜かかって長崎に着いて病院に行くと、顔も手も包帯でぐるぐる巻きに。その姿で出社した日に、またもや原爆に襲われます。あのきのこ雲が…。おぞましきものに追われる恐怖。〈くろぐろと数限りなき佛(ほとけ)たち真夜(まよ)たち上る原爆図より〉▼地獄のような「人間筏」を二度も目の当たりにした山口さんは、90歳で語り部となりました。記録映画がつくられ、取材や講演で記憶をたどる日々。そして、国連の場でも核兵器の廃絶を訴えました。「3度目は絶対にあってはならない」▼山口さんをはじめ、被爆体験者の証言は、国際世論を動かし、次の世代に平和の尊さをひろげてきました。その流れは一部の核保有国を追いつめ、核のない世界をめざす大波をつくりだしています。きょう69回目の長崎原爆の日。