2014年10月11日(土)
主張
「石綿」最高裁勝訴
全面解決へ国は直ちに決断を
大阪府南部・泉南地域のアスベスト(石綿)加工工場で働き、肺がんなどで健康を破壊された元労働者、遺族ら89人が国の責任を追及した「泉南アスベスト訴訟」で、最高裁が原告勝訴の判決を言い渡しました。アスベスト健康被害と国の責任をめぐる訴訟で最高裁が判断を示したのは初めてです。判決が、国の違法性を断罪し、原告82人への賠償を命じたことは画期的です。政府は判決を真剣に受け止め被害者への補償と救済、全面解決に向けて決断すべきです。
「産業優先」に反省迫る
提訴から8年半、肺の病におかされた体をおして立ち上がった元労働者たちの必死の訴えが、貴重な一歩を記しました。
国は被害拡大を防ぐことができたのに、規制する権限を行使しなかった―。最高裁判決は、石綿工場での健康実態の深刻さを早くから認識しながら、まともな対策を講じなかった国の「不作為」をきびしく批判しました。
国の不作為の時期を1958〜71年までと狭くとらえ、それ以降に被害を受けた原告7人の訴えを退けたことは問題ですが、今回の判決は、労働者の健康と安全をないがしろにして「産業発展」を優先させる国の政策にたいする批判であり、はっきりと国に反省を迫ったものといえます。泉南地域のアスベスト工場に中小企業が多い特性を踏まえ、中小企業に対策を任せきりにした国の責任を重く判断したことも注目されます。
髪の毛よりもはるかに細く飛散しやすいアスベストは、人が吸い込むと、呼吸困難になる石綿肺や、肺がん、中皮腫などを発症する危険性が高いとされます。知らぬ間に吸い込んでしまっても発症まで数十年も分からないため、「静かな時限爆弾」とも呼ばれています。
アスベストの危険性は、いまでこそ広く知られ使用が禁止されていますが、80年代までは大量輸入され、安価で使いやすく耐火・断熱材として建物などさまざまな分野で使われてきました。アスベストの粉じんがもうもうと舞い上がる工場や建設現場で長年働いたあと、突然発症し苦しみながら亡くなる事態はいまも続いています。
危険を知らせずに十分な対策を怠り、被害を放置・拡大させた国の責任は、動かしようはありません。裁判で誤りを認めようとしなかった歴代政府の姿勢に、道理がないことはあまりに明白です。
泉南地域は、約100年にわたって石綿産業の集積地にされ、最盛期には全国の約8割の生産額を占めていた、まさにアスベスト被害の「原点」の地です。被害者は、戦前は軍需産業を、戦後は自動車・造船などの基幹産業を下支えしてきた人たちです。「国策」の犠牲になった人たちに、国から謝罪も補償もないというのは、理不尽というほかないものです。
もはや時間がない
国は原告と話し合い、全面解決に向け踏み出すべきです。提訴以来14人の原告が亡くなっており、もはや一刻の猶予もありません。
アスベスト被害では、工場周辺住民や建設現場の労働者らが全国各地で国の責任を問う裁判に立ち上がっています。アスベスト被害による患者、死者が後をたたないなか、あらゆる被害者にたいし補償と救済の仕組みを整備・強化することが国に求められています。