2015年5月6日(水)
主張
温室効果ガス削減
これでは国際責任果たせない
これでは国際的責任が果たせないばかりか、果たす気があるのかさえ疑われる―。地球温暖化を防止するため、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出を削減する目標をめぐる安倍晋三政権の議論は、率直にこういわざるを得ないものです。経済産業省と環境省の審議会に先週末持ち出した、「2013年比26%削減」の目標は、国際的な水準に程遠いだけでなく、基準となる年を日本の温室効果ガスの排出が多かった年に勝手に変えた不誠実なものです。このまま正式決定し、国際交渉に提出するなどというのは、絶対に許されることではありません。
今世紀末には排出ゼロを
北極の氷が解け出したり世界的な異常気象をたびたび起こしたりしている地球温暖化は、人類の活動が原因になって、二酸化炭素やフロンなど、温室効果ガスが急速に増え続けているため起きているというのが世界的な常識です。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は昨年まとめた第5次統合報告書で、現在のペースで温室効果ガスの排出が続けば21世紀末には世界の気温は2・6〜4・8度上昇するとし、求められる気温の上昇の2度未満への抑制には2050年に10年比で排出を40〜70%削減、21世紀末にはほぼゼロにする必要があると指摘しました。目標を「達成できる機会が急速に小さくなっている」。国連事務総長の警告です。
気候変動枠組み条約やそれにもとづく京都議定書などで努力を積み重ねてきた世界各国は、これまで数年がかりで2020年度以降の削減目標を決める作業を続けています。昨年末の国際会議では今年末のCOP21に向け、先進国も発展途上国も、それぞれ削減目標を示すことで合意しています。欧州連合(EU)はすでに30年までに1990年比で少なくとも40%削減するという目標を示しています。アメリカも25年に05年比で26〜28%削減する目標を示し、これまで目標を示していなかった中国も30年までにはCO2の排出量をピークにもっていくなどの目標を示すようになっています。
主要な温室効果ガス排出国の中で目標を示さず、国際社会から早期提出を迫られていた日本がようやく目標に言及したのが今回の案です。しかしその中身は低すぎるうえ、基準年を変えるなど問題が多いものです。13年は東日本大震災後、原発の穴埋めに火力発電が増え、温室効果ガスの排出が多かった年です。その年を基準年にすれば削減を大きく見せることができます。これまで基準にしてきた1990年基準に換算すれば18%程度の削減にしかなりません。基準年の変更は温室効果ガス排出削減の国際合意への、日本の誠実さを疑わすことにしかなりません。
再生エネルギー拡大で
長期的には日本は50年には温室効果ガスを80%削減するという目標を閣議決定していますが、今回の目標ではそれさえ達成を不可能にしかねません。
安倍政権が温室効果ガス削減の「野心的」な目標を打ち出せないのは、温室効果ガスを排出しない太陽光、風力など再生可能エネルギーの導入に消極的なためです。その背景には異常な原発依存があります。国際的責任を果たせない案は撤回し、原発も温暖化も許さない削減策に踏み出すべきです。