2015年5月25日(月)
主張
新国立競技場建設
国は国民に説明責任を果たせ
今年秋に着工される予定の新国立競技場(東京都新宿区)が迷走しています。
2019年ラグビーワールドカップと20年東京五輪・パラリンピックの主会場となる同競技場について18日、下村博文文部科学相が舛添要一都知事との会談の中で、「屋根を設置しない」などの大幅見直しに言及しました。
「コストと期限の問題」を理由に、同競技場の開閉式屋根は東京五輪後に設置し、8万人のスタンドの一部を仮設にし、五輪後に縮小するというものです。
大会に屋根はいらない
新競技場建設をめぐっては、12年のデザイン決定後、建設費が一時3000億円を超える試算が出されるなど、さまざまな問題が浮上しました。規模を25%縮小したものの、高さが約70メートルに及び「周囲の景観にそぐわない」「巨大すぎる」「お金がかかりすぎる」との批判が、建築家や研究者、市民運動家、スポーツ団体などから上がり、幾多の提案もされてきました。
昨年5月、事業主体の日本スポーツ振興センターは基本設計を発表し、建設費を1625億円としました。その後、建築資材や人件費の高騰で、専門家から「とてもこの額では納まらない」との指摘がありました。今回、下村文科相も「相当な額が出てきている」と明かしています。
膨張する建設費の元凶の一つが開閉式屋根です。流線型の屋根は「世界があこがれる次世代型スタジアム」と、売りの一つでしたが、工法が難しく、時間も経費もかかり、芝生にもよくありません。そもそもこれはスポーツ大会に必要なものではなく、維持経費(年35億円)をまかなうコンサート開催の“防音装置”だというものです。今回、国は従来の計画の破たんを公式に認めたことになります。
国が国民からの意見に耳を傾けてこなかったことに加え、十分な情報提供をしてこなかった問題もあります。今回、500億円の負担を求められた舛添都知事は「一切(新国立の)情報が来てないのはなぜか。官邸は『できる、できる』というが、誰も責任を取らずに、これでは大日本帝国陸軍と同じですよ」と詰め寄りました。文科相は「隠していたわけではない」と返すのが精いっぱいでした。
昨年末、国際オリンピック委員会は、五輪改革提言「アジェンダ2020」を発表、五輪に「透明性の高い運営手続きを確立する」と盛り込みました。いまの新競技場建設のあり方はこれに反します。
新競技場は国民の税金でつくられる五輪の中心的な施設です。どんなものにするのか、予算はいくらかかるのか、国は説明する責任があります。それは国民の合意、理解を得る前提であり、五輪準備を軌道に乗せる最低限の保証です。
「くじ拡大」など論外
文科省は重大な変更の情報をまだ一部しか明かしていません。日本共産党は20日、国会での集中審議を求めましたが、これはいたずらに競技場を迷走させることなく、適切なものに仕上げていく上でも当然必要な手続きです。
膨らむ建設費を賄うためとして、サッカーくじをプロ野球に広げる動きも出ていますが、まったくの論外です。そうした発想は、かえって合意を難しくし、スポーツのあり方をもゆがめるものとして断固反対します。