2015年6月6日(土)
主張
財政と社会保障
「くらしの再建」こそが必要だ
安倍晋三政権が今月末に決める「財政健全化計画」に向けた議論で、社会保障費に的を絞って大削減する方向が鮮明になっています。財務相の諮問機関・財政制度等審議会(財政審)は「医療・介護分野を中心とした歳出改革」をうたう建議を公表し、経団連も「避けて通れない」と社会保障費削減を迫っています。くらしを守り支える社会保障は、安倍政権のもと医療、介護、年金など各分野で、すでに深刻な機能不全を起こしています。さらに大規模な社会保障費削減を求める「財政健全化計画」は、国民の願いに完全に反します。
深刻な受診抑制を加速
財政審が、麻生太郎財務相に提出した「財政健全化計画」の建議は、社会保障費の「自然増」を無理やり抑える方針を打ち出しました。「自然増」は、高齢者の人口増にともなう給付増のほか、医療技術の進歩、物価や賃金上昇などで社会保障費が増えることをいいますが、建議は「高齢化」分以外の増加は認めないとしました。「高齢者向け給付も当然効率化の対象」と明記し、「高齢化の自然増」へ切り込む姿勢も捨てていません。
これらは年間3000億〜5000億円の社会保障費カットを意味します。かつて小泉純一郎政権の「社会保障費年間2200億円削減」路線は、「医療崩壊」「介護難民」の引き金を引きました。政府・自民党内でもその“誤り”を認めたはずなのに、安倍政権は15年度予算で「自然増」削減路線を復活させました。それに続く今回の建議の「自然増」削減方針は、これまで以上に深刻な被害を国民にもたらすことは明らかです。
建議が列挙した社会保障費削減の施策は手当たり次第です。
医療・介護では「公的保険給付範囲」を見直し、必要な公的医療・介護サービスから国民を締め出す方向です。現在の医療費窓口の自己負担分(本人1〜3割)にさらに定額を上乗せする「受診時定額負担」は、いまでも経済的な理由から医療機関にかかれない人をますます医療から遠ざけ、健康・命を危険にさらします。
要支援1と2、要介護1と2にたいする給付削減を強く求めたことは、公的介護サービスを受けられずに高齢者が「重度化」し、家族らにいっそうの負担を強いるものです。生活保護では、住宅扶助削減などを決めたばかりだというのに、生活保護費全体の削減をいっそう行うことを迫っています。年金の支給開始年齢を68歳前後まで先延ばしすることは、年金不信を高めるものでしかありません。
地方財政の縮減との関連で、救急車の一部有料化まで盛り込みました。救急現場まで「カネ次第」なのか。くらしと健康・命を脅かす無謀な「財政健全化計画」などつくるべきではありません。
国民の所得増やしてこそ
「社会保障のため」と消費税増税を国民に強いながら、社会保障費を切り捨てることに大義も道理もありません。「財政再建」というなら、大企業向け法人税減税の大盤振る舞いや、「戦争する国づくり」の軍事費増こそやめるべきです。社会保障費ばかりをやり玉にあげる政治はまったく異常です。
国内総生産(GDP)比で欧州諸国より低水準の日本の社会保障費の拡充が必要です。くらしを再建し国民の所得を増やすことこそ財政の再建にもつながります。