2016年1月10日(日)
カナダ企業 米政府提訴へ
ISDS条項使い賠償要求
【ワシントン=島田峰隆】カナダのエネルギー企業トランスカナダ社は6日、同社が提案していたパイプライン建設計画をオバマ米政権が却下したことで損害を被ったとして、北米自由貿易協定(NAFTA)の投資家対国家紛争解決(ISDS)条項に基づいて米政府を相手取って訴訟を起こす方針を発表しました。これに対し、企業の利益が国民の利益を覆す危険が改めて示されたと懸念の声が上がっています。
同社は、カナダから米メキシコ湾をつなぐ原油パイプライン建設計画を申請していましたが、オバマ大統領は昨年11月、環境に悪影響を与える懸念があるとして却下しました。地球温暖化をもたらす化石燃料からの脱却を求める環境団体や国内世論を背景にした決断でした。
トランスカナダ社は6日の声明で、「却下は独断的であり、不当だ」と主張。150億米ドル(約1兆7600億円)以上の損害賠償を求めるとしています。
同社は6日、これとは別に、オバマ氏の決定は米憲法が認める権限を超えたものだとしてテキサス州の裁判所に訴訟を起こしました。
アーネスト米大統領報道官は7日の記者会見で「米政権は合法的に行動したと確信している」「(外国企業からの訴訟で)米国はこれまで負けたことはない」と述べました。
トランスカナダ社の訴訟の根拠は、進出先の国の政策変更などで損害を受けたとする外国企業がその国の政府を相手取って損害賠償などの訴訟を起こせるというISDS条項です。同条項は環太平洋連携協定(TPP)にも盛り込まれています。
米国の非営利団体「国際環境法センター」のキャロル・ミュフェット議長は6日の声明で「ISDS条項の主要目的が私的な利益のために民主的過程と国民の利益を覆す点にあることを、トランスカナダ社は証明した」と指摘。TPPが何をもたらすかを知らせるために「オバマ政権は同社からの通知をすべての連邦議員と州の議員に示せばいい」と述べました。
投資家対国家紛争解決(ISDS)条項 外国企業が進出先の国から不利益を受けたと考えた場合、将来想定されうる利益への影響も含めて、国を相手取って国際仲裁裁判所に提訴できるというもの。仲裁判断は強制力を持ち、当事者は従う義務を負います。賠償命令なら国は進出企業に賠償金を払い、「原状回復」命令なら国の制度を変える必要があります。