2016年1月25日(月)
主張
首相のTPP演説
美化しても危険性ごまかせぬ
安倍晋三首相が国会の施政方針演説で環太平洋連携協定(TPP)について、「TPPの誕生は、わが国のGDP(国内総生産)を14兆円押し上げ80万人もの新たな雇用を生みだす」などと、バラ色一色に描いたことが批判を呼んでいます。関税を原則として撤廃し、貿易ルールをアメリカなど輸出大国に合わせるTPPに対して、農業関係者はもちろん、多くの生産者も消費者も不安を強め、反対の声をあげています。とりわけ致命的な打撃を受ける農業関係者の不安は深刻です。マイナス面を過小に評価し、効果を過大にいいつのる無責任な姿勢は重大問題です。
都合のいい面だけ過大に
安倍首相はTPP交渉でも最大の焦点になった農業問題について、「関税撤廃の例外を確保した」「国益にかなう最善の結果を得ることができた」と述べました。しかし交渉結果は、コメ・麦、食肉など重要5項目でさえ30%の品目で関税撤廃を受け入れ、アメリカやオーストラリアには新たなコメの輸入枠さえ設定しました。5項目を関税撤廃の例外にするよう求めた国会決議に明らかに違反しており、5項目以外の関税が撤廃・大幅削減される野菜や果実などを含め、日本農業に大きな打撃を与えることは明白です。
農業関係の専門紙である日本農業新聞のアンケート調査(4日付)でも農協組合長の92%が「国会決議を守ったと言えない」と答えています。TPPをバラ色一色に描く首相の演説が、こうした批判を逆なですることはあきらかです。
安倍首相は、「農家の皆さんの手間暇がまっとうに評価されるようになる」などと述べましたが、全くその保証はありません。政府は輸入の増加で一部で価格は低下するが、国内生産は減少しないとする試算を発表しています。国産品の品質が良いから輸入品と競合せず、TPP対策によって農家が経営規模の拡大などで国際競争力をつければ生産量は維持でき、輸出も増えるというのです。
しかし、日本の農業が縮小を続けてきた重要な要因が、農産物の輸入自由化・拡大だったことは明白です。歴代自民党政府は輸入拡大を野放しにし、「国際競争力の強化」を理由に農業の規模拡大や効率化を促し、それに対応できない中小経営や産地を政策対象から排除してきました。それが今日の農業危機、食料自給率の低下、地域経済の困難を招いたのです。TPP締結が日本の農業に影響しないというのはきわめて非現実的です。
首相は、2015年の農産物の輸出が7000億円を超え、20年の1兆円目標にも手が届くと述べました。しかし、その輸出額(14年)の約4割が水産物、3割が加工食品で、農産物はわずかです。輸出額の増加には円安の影響も少なくありません。円安は、飼料、生産資材の値上がりを招き、農業経営の困難も加速させています。首相の演説が、いかに現実とかい離しているかは明白です。
批准阻止に国民的運動を
TPPは参加国による署名の日程も2月4日に決まり、批准が焦点です。国の在り方を変えるTPPが、農業・地域経済に百害あって一利なしなのはあきらかです。
大企業とアメリカの利益より暮らしを優先し、農業と地域経済の再建をめざすためにも、TPPの阻止がいよいよ重要です。