2016年4月6日(水)
主張
TPPの審議入り
国民の不安に応える姿勢ない
日本やアメリカなど12カ国が参加し、輸出や輸入にかかる関税を原則撤廃するなどの環太平洋連携協定(TPP)の承認案と、関連国内法案の審議が衆院で始まりました。国会決議も選挙公約も踏みにじって協定への署名を強行した安倍晋三政権は、審議にあたっても協定の全体像や交渉経過を明らかにしておらず、農業など国内への影響も責任ある試算を示さないなど、国民の不安にまともに応えない不誠実な態度です。このまま審議を強行し、短期間で承認・成立を押し通すなどというのは許されず、協定承認案も関連法案も徹底審議のうえ廃案にすべきです。
9割が「不安」と回答
TPPの承認案は審議が始まるといっても、国会には英文で約8400ページあるものが、日本語の訳文では約2900ページしか提出されていません。これでは国会議員はもちろん、広範な国民が協定全体について検討することもできず、審議の条件は整っていません。
12カ国の交渉参加国で行われてきた協定交渉の経過は、交渉中はもちろん、交渉が「大筋合意」した後も、秘密のままです。交渉は各国の交渉担当者が中心で行われましたが、日本の交渉担当大臣だった甘利明・前経済再生相は「口利き」疑惑で辞任しました。TPP交渉では経済力の大きいアメリカと日本の交渉が大きな比重を占めたといわれますが、アメリカのフロマン通商代表と何を話し合ったのか、議事録さえ公表されていません。交渉の経過も明らかにせず、結果の一部だけ見せて承認を求めるのは横暴の極みです。
関連法案として提出される法案も、特許法や著作権法、医薬品の安全にかかわる法律など、本来なら七つの委員会にかけられる11本の法案を「一括」したものです。こうした法案を協定とともに特別委員会に付託して一気に承認・成立させようというのは、文字通り国会審議を形骸化するものです。
TPPで関税を原則撤廃し、さまざまな基準や制度をアメリカなどに合わせればどんな事態が起きるのか、農業関係者はもちろん中小企業や社会保障関係者など、多くの国民から不安の声があがっています。日本農業新聞が3月末、農政モニターを対象に行った調査では、「不安が全然払(ふっ)拭(しょく)されていない」が71・2%、「少し払拭されたが、まだ不安」が19・9%と、9割が「不安」と答えています。これまでの政府の説明で不安が払拭されてないのは明らかです。
日本農業新聞の調査では、安倍政権が示した政府の国内対策で国内農業の打撃は1300億〜2100億円に抑えられるという試算にも「影響を少なく見すぎている」という回答が76・7%に達しました。国民のこうした不安を踏みにじって、TPPの押し付けを強行すべきではありません。
「批准ありき」ではなく
安倍首相は衆院本会議でのTPPの審議入りにあたり、「日本が率先して動き、早期発効に向けた機運を高めていく」と、国民の不安に応えず、しゃにむに批准を急ぐ姿勢をあらわにしました。
TPPの発効に批准が不可欠なアメリカでも、議会での審議、承認の見通しは立っていません。国民の不安に応えず、アメリカや財界の“期待”にこたえるため、「批准ありき」で前のめりになる安倍政権の姿勢は極めて重大です。