2016年4月20日(水)
主張
指定生乳生産団体
国産牛乳の生産・供給安定こそ
安倍晋三政権の規制改革会議の農業ワーキンググループ(農業WG)が、酪農家の減少や国民生活に影響をあたえているバター不足などを解決するためと称して、牛乳の流通の大部分を担っている指定生乳生産者団体制度の廃止を提案しました。6月に正式決定しようとしています。「規制緩和」の名目で、国民の健康と食生活の重要な一翼を担う生乳と乳製品の生産・流通のあり方を大きく変えてしまおうとするものです。
生産と消費の特徴踏まえ
牛乳(生乳)は毎日生産されますが、貯蔵性がなく腐敗しやすいことから、短時間のうちに乳業メーカーに引き取ってもらう必要があります。多くの酪農家が自前の処理施設をもたないこともあり、価格交渉で不利な立場に置かれる状況です。そのため現在は、各地域の生産者団体のなかから指定された団体が酪農家から販売委託をうけ、乳業メーカーと交渉する仕組みとなっています。
指定団体は、液状で輸送コストがかかる生乳をまとめて輸送しコストを抑え、複数の販売ルートで販売を調整し生乳の廃棄を防ぎます。季節による生産・消費量の変動によって生じる需給変動の負担を分散する生産調整なども実施しています。さらに国の政策である加工原料乳補給金の交付によって、生乳の利用先を飲用向け、加工向け(バター、チーズなど)に振り向けることも担っています。
規制改革会議の農業WGがこの制度見直しの理由にあげているのは、生産者に多様な選択肢がない、大手乳業メーカーとの交渉が中心で中小メーカーは価格交渉に参加できない、現行制度が生産上限枠を設けていることが牛乳供給不足を起こしており、意欲ある生産者の増産を押さえ所得が増えない原因になっている―などです。
個別に見れば、指摘されるような問題があるのは事実です。しかし毎日生産され、腐りやすく、地域にかかわらず多くの国民が消費している生乳の特徴や、広大な草地をもつ北海道と本州などでは生産条件が大きく異なり、生産コストも違うなどの条件に照らせば、飲用乳の生産・供給を維持するために、一定の仕組みが必要です。
牛乳の生産と消費の安定は、酪農業、国民の健康とともに、地域農業にとっても重要です。新鮮な牛乳の安定した供給のためには、全国各地での生産を維持することも重要な条件です。国や指定団体には積極的な役割が求められます。これは世界でも共通しており、環太平洋連携協定(TPP)交渉でもカナダは国の乳製品管理制度の維持を主張しました。欧州連合(EU)でも深刻な生乳価格の下落に、昨年廃止した生産者組織による自主的な生産調整を再開しました。
制度見直しの先行でなく
酪農家の減少、農家所得の減少は、指定制度の責任ではありません。乳製品の輸入拡大、生産者価格の抑制、円安による飼料価格の上昇、規模拡大による負債の増大など政策的要因とともに、TPPによる不安の拡大が、展望を失わせていることも重大です。
制度見直しの先行ではなく、加工向けも含めて牛乳・乳製品の自給率を向上させ、地域や自然の条件を生かした酪農、地域に密着した中小の乳業メーカーや小売りとの協力促進など、酪農・乳業への援助をこそ強めるべきです。