2016年6月5日(日)
主張
甘利氏不起訴処分
首相と与党の責任が問われる
千葉県内の建設会社と都市再生機構(UR)との道路建設などをめぐる補償交渉を口利きし、報酬を受け取ったとして、あっせん利得処罰法違反容疑で告発されていた甘利明・前経済再生担当相と元秘書2人が不当にも不起訴となりました。甘利氏に政治家として自ら疑惑にこたえる責任があるのは明らかです。同時に、見過ごせないのは甘利氏を閣僚に起用し続けてきた、盟友・安倍晋三首相と、与党の自民・公明両党の責任です。甘利氏が不起訴になった後も、だんまりというのは許されません。安倍首相と与党の姿勢が問われるのは避けられません。
絵にかいたような疑惑
安倍政権では、小渕優子元経済産業相や島尻安伊子沖縄北方担当相など、閣僚の「政治とカネ」の疑惑が後を絶たず、安倍首相や政権与党は、疑惑解明と責任明確化に動こうとしていません。安倍政権と自民・公明両党が推した東京都の舛添要一知事も、政治資金問題などで追及されており、首相や与党の責任は重大です。
今年初めの週刊誌の報道などで発覚し、市民団体からも告発を受けていた甘利氏の疑惑は、甘利氏自身や甘利事務所の秘書が建設会社から相談を受け、URとの交渉にも立ち会って補償を取り付け、現金を受け取ったり飲食の接待をされたりしたという、絵にかいたようなあっせん利得の疑惑です。
あっせん利得処罰法は国会議員やその秘書が、国などの契約や処分に関して請託を受け、権限を行使して働きかけ、その見返りに報酬を受け取ることを禁止しており、違反すれば議員は懲役3年以下、秘書は同2年以下などの重罰です。甘利事務所が関与したことで補償額が引き上げられた可能性までが明らかになっており、疑惑は動かしようがありません。
にもかかわらず、告発を受けた東京地検は、経済再生相の甘利氏には「職務権限」がなかったなどの理由で、嫌疑不十分・不起訴としたのです。あっせん利得処罰法はもともと、国会議員などがあっせん収賄罪などの追及を免れるのを封じ込めるねらいでした。ところが「職務権限」などを厳しく解釈するため、国会議員や秘書は1人も立件されたことがありません。典型的な疑惑の甘利氏らの不起訴は、せっかくの法律の趣旨をいちじるしく損なうことになります。
甘利氏らを告発していた市民団体は、不起訴処分を不当として、検察審査会に申し立てました。甘利氏のような疑惑まで処罰されないとなれば、有力政治家の「口利き」が大手を振ってまかり通ることになります。検察審査会が公正に審査し、司法としての責任を果たすのは当然のことです。
閣僚の任命権者の責任
甘利氏は安倍首相の盟友として、安倍政権で3年余り有力閣僚を務めた政治家です。甘利氏の疑惑発覚後、任命権者である安倍首相はもっぱら甘利氏任せで、積極的に疑惑解明に動きませんでした。甘利氏が1月末に閣僚を辞任し、国会にも出てこない中で、甘利氏に説明責任を果たさせる首相の責任はいよいよ重大です。
検察の不起訴処分で甘利氏の疑惑にほおかぶりするのは許されません。甘利氏に政治家としての疑惑解明の責任を果たさせないなら、政権を担当する首相も国民の代表としての資格が疑われます。