2016年8月14日(日)
主張
食料自給率の低迷
多様な農水産業の発展めざし
お盆休みの帰省で久しぶりにふるさとの農産物を味わっている方もあるでしょう。ところが農水省が発表した2015年度の食料自給率で、カロリーベースの自給率が6年連続で39%にとどまったのをご存じですか。生産額ベースでは野菜や畜産物の値上がりで2ポイント増の66%ですが、飼料を含む穀物全体の自給率では29%(前年同)となっており、どの数字をみても1億2000万人以上の人口を抱える国の自給率としては異常な低さで、国際的にも最低水準です。
低下し続ける食料供給力
特に生命の維持に不可欠な熱量に換算したカロリーベースの自給率は、生存を支える基礎的な指標であり、主食であるコメを含む穀物、家畜の飼料など、最も重要な指標です。政府も、食料・農業・農村基本法で、カロリー自給率の向上を大きな柱にしてきました。
安倍晋三政権は昨年の食料・農業・農村基本計画の見直しで、これまで「50%」をめざすとしてきた政府の10年後の目標を、より現実的にするとして45%に引き下げました。目標を“現実的”にするといいながら低迷を続け、向上の兆しすら見いだせないというのでは安倍政権の責任は重大です。
食料自給率は、農林水産業による食用農水産物の生産(輸出を含む)と、国民の食料消費の比率です。食料生産とともに、食料消費の内容変化も自給率を変化させます。しかし、少なくとも国内消費の半分は国内生産で賄うべきだというのが多くの国民の願いであり、国際的にも主要国の多くが維持している、常識的な水準です。
日本が長年にわたって食料自給率を低下させ、50%を大きく下回って6年間も39%を続けている背景に、コメの消費減少や飼料の多くを輸入に頼る畜産物の消費増大など、国民の食生活の変化があることは事実です。しかし低下に歯止めがかからないのは、政府の輸入野放し政策とともに、国内の生産が減少しているからです。それは、農地や農業就業者の減少が、政府が潜在的な生産力として示している「食料自給力」(日本の農水産業の潜在的な生産能力)指標の低下としても表れています。
安倍政権は、日本の農漁業に国際競争力をもとめ、規模拡大によるコスト低下と輸出の拡大を政策の重点にしています。しかし食料の生産と供給は、全国同じではありません。国民の健康にとっても、地域の条件にあった多様な生産とそれを生かした食文化、農地や水の利用、家畜の飼育を通じた資源の循環、沿岸の豊かな漁業生産などが、食生活を豊かにし、環境を守る重要な役割を果たしています。国民が求める安全な食料の生産・供給よりも、外国産との競争に勝たなければならないという政策は根本から間違っています。
条件を生かした向上策を
日本の食料供給の力が低下し続ける要因は、日本の条件を生かした農林漁業の多面的な発展が閉ざされてきたからです。中山間地域を含む多くの農地を生かし、地域に定着する農漁民とその集団の力が発揮できる政策こそ必要です。
日本の農産物市場をアメリカなど輸出大国に明け渡す環太平洋連携協定(TPP)は、それに逆行するものです。食料供給の3分の2近くを海外に依存する体制からの転換のためにも、秋の臨時国会でのTPPの批准阻止が重要です。