2016年8月17日(水)
「働き方の自律化」掲げる厚労省懇報告
労働法制後退の危険
厚生労働省に設置された「働き方の未来2035‥一人ひとりが輝くために」懇談会(座長・金丸恭文フューチャー株式会社代表取締役会長兼社長グループCEO)は、2035年を見据えた今後の労働政策に関する報告書を、このほど取りまとめました。
塩崎恭久厚労相は「将来を見通した示唆に富む提言」と自画自賛していますが、「働き方の自律化」を前提とする誤った視点に立って、労働法制による規制を否定・後退させかねない重大な問題点を抱えています。
報告書では、技術革新によって働き方の「自律化」「多様化」「流動化」が進むとして、「2035年には、個人が、より多様な働き方ができ、企業や経営者などとの対等な契約によって、自律的に活動できる社会に大きく変わっている」と打ち出しています。
「民法を基礎」に
こうした未来像を前提に、「今までの労働政策や労働法制のあり方を超えて、より幅広い見地からの法制度の再設計を考える必要性が出てくる」と強調。「すべての働くという活動も、相手方と契約を結ぶ以上は、民法が基礎となる」「(労使の)交渉力の格差は、かなりの部分は独占禁止法で対処できる面があるかもしれない」などとして、労使の力関係の違いを前提に、自由契約の民法原理を修正して労働者を守るためにつくられた労働法の規制を否定するような主張を展開しています。
その上で、「自営的就業者」なども対象に加えて、働く場を適切に選択できる情報開示の仕組みや、労働契約の変更・再締結・解消の仕組み、「再挑戦」を可能にするセーフティーネットなどを提起しています。
インターネットを活用した在宅ワークなど労働法上の保護が不十分な働き方が広がっているなか、すべての働く人を対象とし、実効性ある法的保護の仕組みをつくっていくことはきわめて重要です。
ブラック企業から労働者を守るための情報開示やセーフティーネットを国の責任で整備・強化していくことも求められています。
保護法制は必要
しかし、働き方の自律化などがいかに進んでも、働くものと企業との力関係が対等になることはありえないことです。労使の力関係の「非対称性」を修正する大原則に立って、労働者を保護する労働法制や労働政策の必要性は変わることはありません。
労働者だれもが働きがいのある人間らしい仕事(ディーセントワーク)ができ、安心して生活をおくることができる社会の実現は、国際的にも確立された労働政策の基本であり、最重要課題です。
この大原則を後退させるような方向では、「一人ひとりが輝く未来」をつくることなどできません。
(深山直人)