2016年8月21日(日)
国連部会交渉開始採択
核兵器禁止へ広がる支持
過半数が条約求める
抵抗する保有・依存国
「うおー」。大きな歓声と拍手がわきました。ジュネーブの欧州国連本部で開かれていた核軍備縮小・廃棄へ多国間交渉に向けた前進を図る国連作業部会の最終日の19日、核兵器禁止条約の2017年の交渉開始を求めた報告の採択をタニ議長(タイ)が確認した瞬間でした。(ジュネーブ=小玉純一 写真も)
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「国連総会でも議決する。来年には交渉が始まる」―。禁止条約を推進するフィジーの代表、ジョジ・ドゥムクロ国防相顧問は本紙の取材に自信たっぷりです。
具体的な内容
平和団体「パックス・クリスティ」のジョナサン・フレリッチ氏は「これまでも禁止条約の国連総会決議はあったが、今回は17年の交渉開始と、非常に具体的だ」と解説します。
16日の部会の冒頭は圧巻でした。17年の交渉開始について、アフリカ54カ国、中南米33カ国、東南アジア10カ国、太平洋諸島4カ国の代表が次々支持を表明。合計101カ国です。国連加盟193カ国の過半数が支持していることの証しです。
核軍縮交渉を長年見てきたオランダの平和団体「パックス」のスージー・スナイダー氏も「交渉開始支持が多数とはっきりしている。来年にきっと交渉が始まる」と言います。
禁止条約ができればどうなるか。スナイダー氏はこう言います。
「英国は先日、潜水艦発射の核兵器システムの更新を決めた。法的に問題なく決まった。しかし禁止条約があれば、これが大問題になり大きな論争となる」
それだけに禁止条約に対し、核兵器国米ロ英仏中と、米国の核兵器に依存する国々の抵抗があります。
核兵器5カ国は作業部会設置に反対し、ボイコット。代わりに部会で禁止条約に抵抗したのが、北大西洋条約機構(NATO)加盟国など24カ国でした。
ドイツは24カ国を代表して発言し、「核兵器国が参加しないから禁止条約は効果がない」と条約を敵視。オーストラリアは会合の最後で、大筋合意かというときに抵抗し、合意を破りました。
24カ国が代わりに主張するのが、核軍縮の「段階的接近」「漸進的接近」です。核兵器国が部会設置に共同声明を出して反対したときも、「漸進的段階的接近」を主張していました。
段階論を批判
禁止条約を進める中南米エクアドルのレオン・アビレス軍縮担当公使は本紙の取材にこう説明します。
「核兵器国は長年、核軍縮を支持する、段階的に進める、と言ってきた。ところが何も進んでいない」
段階論は歴史を見れば信用できないという主張です。会合でも、段階論の一つ、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准も「20年進んでいない」と批判がありました。
アビレス氏は、「だから多くの国は(核兵器廃絶に向けた)実際の具体的な進展を見たいのだ。核兵器禁止はその一歩だ」と述べました。
禁止条約の支持の背景には、核兵器が人道に反する点を直視する流れもあります。核兵器廃絶を「人道の誓約」とする国々は120カ国以上です。その多くが禁止条約支持となりました。
作業部会では、禁止条約を支持する多数派少なくとも106カ国と、核兵器に依存し「漸進的接近」を主張する24カ国が、部会の報告をめぐって攻防を繰り広げました。
核兵器国5カ国と、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮の9カ国は部会をボイコットしました。依存国と合わせて33カ国が禁止条約に反対しています。
問われる日本の態度
9月に開会する国連総会は、新たな禁止条約を進める多数派と、阻もうとする少数派の新たな攻防の場となります。
一方、日本は米国の核兵器に依存し、禁止条約に反対する24カ国の一員となりました。
部会の設置に棄権し、会合が始まった2月当初から、禁止条約に「交渉する状況にない」と反対し、「漸進的接近」という核兵器国と同じ見解を主張しました。秋の国連総会でも態度が問われます。