2016年11月6日(日)
国会の視点
TPP強行 問われる政府・与党の責任
暴言大臣放置し衆院規則無視
環太平洋連携協定(TPP)の承認案・関連法案について、自民・公明の与党と日本維新の会は4日、衆院特別委員会での強行採決に踏み切りました。しかし本会議は開催できず、政府・与党が当初狙っていた10月中の衆院通過に続き、先週中の通過も見送らざるをえなくなりました。いま問われている政府・与党の責任、国会が果たすべき役割とは―。(藤原直)
「驚いたのは(衆院議院運営委員会の佐藤勉)委員長もこのようになるとは知らなかったということだ」(民進党の泉健太議運委理事)
今回の採決は、強行採決の中でも極めて異常なものでした。
協議最中
というのも、同特別委員会が4日、強行開会されたのは、その前に予定されていた衆院本会議の開会をめぐって議運委理事会で断続的に協議が続けられていた最中だったからです。これは「委員会は、議院の会議中は、これを開くことができない」などとした、衆院規則に照らしてもルール違反でした。
議運委理事会では、野党側が2度にわたる暴言をはいた山本有二農水相の辞職要求への対応などを求め、佐藤議運委員長も「会議を開く状況に至っていない。与党に努力を求めたい」と語っていました。こうした状況での特別委の強行開会と採決は、まさに「何がなんでも」とTPPの早期批准を促す官邸と歩調を合わせるような現場の暴走でした。
野党4党が、同特別委での異常な採決を認めないよう申し入れたところ、大島理森衆院議長も「決して平穏な状況のもとで採決が行われたわけではない」と言明。「円満」な運営を求めていた佐藤議運委員長も同委理事会で「さらに混乱を招き、責任を感じている」と述べました。
「一番のポイント、問題の原因は、山本農水相の一連の発言だ」。大島議長もこう述べています。
山本氏は「強行採決」をけしかけた先月の暴言を1日の会合で「冗談」と語ったことで、何の反省もしていなかったことを示しました。さらに同じ場で利益誘導まがいの発言をしたことも問題になっています。
日本共産党の穀田恵二国対委員長は4日の会見で「ことの発端は農水相の国会と国政を無視した暴言だ」と強調。政府・与党側には「野党4党の辞任要求に何らかの回答が必要だ」と述べました。
暴言大臣が放置され、ルールまで破った異常な状況のもとで行われた採決は、このまま認められるものではありません。
懸念山積
TPPをめぐっては、日本農業への深刻な影響や食の安全の問題、薬価の問題、巨大企業が国家を訴える投資家対国家紛争解決(ISDS)条項の問題、中小企業への影響など懸念事項は山積しており、論戦は始まったばかりです。4月の特別委員会の開催にあたって与野党理事で合意していた中央公聴会なども開かれていません。
承認案には世論調査でも6割を超える人々が「今国会にこだわらず慎重に審議するべきだ」と求めています。(10月29、30日実施の共同通信調査)
穀田氏は「ようやく本格的議論になりつつあるTPPについての慎重審議を引き続き行うことが求められている」と強調しました。ここにこそ、いま国会が果たすべき役割があります。
9月29日 | 衆院TPP特別委理事の自民党・福井照議員が「強行採決という形で実現するよう頑張らせていただく」と暴言。批判を浴び理事を辞任 |
10月14日 | TPP承認案・関連法案が審議入り |
17日 | 安倍晋三首相が福井氏の暴言で「わが党は結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」と答弁 |
18日 | 山本有二農水相が、佐藤勉衆院議院運営委員長のパーティーで「強行採決するかどうかは佐藤さんが決める。だから私ははせ参じた」と暴言 |
19日 | 与野党合意がないまま、塩谷立TPP特別委員長が職権で特別委を開会。24日の地方公聴会日程を議決 |
20日 | 共産、民進、自由、社民4野党国対委員長会談で山本農水相の辞任を求めることで一致 |
21日 | 24日の地方公聴会日程を26日に延期することで与野党が合意 |
24日 | 与野党合意がないまま、塩谷委員長が職権で一方的に25日の参考人質疑を決定 |
11月1日 | 山本農水相が自民党議員のパーティーで、10月18日の自身の暴言について「冗談を言ったら(閣僚を)首になりそうだった」と再び暴言 |
2日 | 与党が4日の特別委での採決を提案、塩谷委員長が職権で特別委開催を決定 |
4日 | 野党の反対を押し切って与党と維新でTPP承認案・関連法案を強行採決 |